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健達ねっと>専門家から学ぶ>ドクターズコラム>認知症と睡眠 眠る門には福来る―睡眠から始める認知症、フレイル対策―

認知症と睡眠 眠る門には福来る―睡眠から始める認知症、フレイル対策―

広島国際大学 健康科学部 心理学科 教授

田中秀樹 先生

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認知症もフレイルも、睡眠と深い関わりがある

認知症と睡眠は深く関わっており、たとえば、睡眠障害は認知症の症状として現れやすいものの一つです。
また、睡眠の質の悪化は、フレイル(虚弱)の要因にもなるといわれています。

本稿では、認知症、フレイル予防や、認知症に有効な睡眠改善のための知識、快眠法について、クイズを交えながら紹介します。

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睡眠改善のために知っておきたい5つのこと

まず[図A]を見てください。
上の○×クイズ『「睡眠」に対しての知識はどのぐらい?』は、睡眠改善のために知っておきたいことを、地域のサロンなどで、クイズ形式で伝えるときに用いるものです。
また、その下の穴埋めクイズ『睡眠に関係するものを考えてみましょう!』は、睡眠と関係があるものをひらがなで示しています。

[図A]

 

まず、穴埋めクイズのほうからやってみましょう。

左側の「き□く」、これは何でしょうか。
考えてみましょう。
正解は、「きおく」です。
睡眠は、物忘れや記憶と深く関係しています。
つまり、睡眠中に、寝る前までに覚えた記憶が整理されています。

次に、真ん中の「め□□き」
正解は、「めんえき」です。

最後に右側の「ひ□□き」
正解は「ひらめき」です。

 

これらの回答からわかるように、睡眠は、脳の働きや健康と密接に関わっています。
睡眠を改善することは、私たちが健康で幸福な日常生活を送るために、とても大切なのです。

 

では、次に『「睡眠」に対しての知識はどのぐらい?』のクイズ①~⑤と、それぞれの解説を示していきます。

《クイズ① 睡眠は8時間がちょうどよい?》

正解は「×」です。
適正な睡眠時間は人によって異なります。
大切なのは、人それぞれが、自分の年齢に合った適正な睡眠時間を知ることです。

では、どうすれば適正な睡眠時間を知ることができるのでしょうか。
コツは、“翌日の頭のさえ具合”、そして“体調”で判断することです。

 

たとえば、6時間眠ったほうが、7~8時間眠るより、翌日、日中の眠気が強くなく、頭が冴え、体調がよければ、“6時間”がその人に合った睡眠時間ということになります。
つまり、適正な睡眠時間は、翌日の体調や頭の冴えがよくなる長さを、自分で体感することで決めるのがおすすめなのです。

さらに、「日中に強い眠気がないか」を睡眠の充足の目安とし、必要な睡眠時間がとれるよう、就床時刻と起床時刻ついて振り返ることも重要です。

 

また、加齢とともに日中の活動量が減り、睡眠時間が短くなるのは自然なことです。
そのため、必要以上に長く寝床にいないようにすることも大切です。
寝床にいる時間は、実際に夜眠れている時間+1時間を目途にしましょう。

《クイズ② よい寝つきには体温が下がることが大切?》

正解は「〇」です。
[図B]のグラフを見るとわかるとおり、人は、体温が下がるとともに眠りにつきます。

体温の下降をスムーズにするためには、眠る前からリラックスを心がけましょう。
リラックスしていると、手足が温かくなり(頭(ず)(かん)(そく)(ねつ))、手足から身体の中の熱を外に出しやすくなるので、体温が下がりやすくなります。
寝つきやすく、睡眠の質もよくなります。

赤ちゃんが眠くなると、手足が温かくなるのはこのためです。
一見、体温が上がっているように見えて、実は手足から熱を外に逃がし、身体が眠る準備を始めているのです。

 

眠るためには体温が下がることが必要ですので、寝る直前に体温が上がるような行動をとるのはあまりよくありません。
疲れたら眠れると勘違いして、寝る直前に体温を上げる激しい運動をするのは、避けましょう。

そのほか、寝苦しい夏は部屋の風通しをよくすることや、頭部を冷やす工夫も効果的です。

[図B]

《クイズ③ 人間の身体には時計がある?》

正解は「〇」です。
あります。
身体の時計、すなわち睡眠と覚醒のリズムを整えるためには、規則正しい食事や運動の習慣、人との交流などを心がけ、午前中~日中は、なるべく光を感じられる明るい環境で過ごすことが大切です[図C]

外に出なくても、窓際から1m以内であれば、外で光を浴びるのと同等の効果があります。
朝起きたら、太陽の光の入る明るいところ(窓際1m以内)で朝食をとるとよいでしょう。
このとき、しっかり噛んで食べることが大切です。
太陽の光を浴びることで、脳にある時計がリセットされ、朝ご飯を食べることで、腹時計がリセットされます。
これによって、身体のリズムが整うのです。

 

ただし、極端に早寝早起きの方は、早朝の光はなるべく避け、夕方の光を浴びるようにしましょう[図D]
朝の光には、体内時計に働きかけ、人を早寝早起きにする効果があり、一方、夕方や夜の光には、人を遅寝遅起きにする効果があります。

なお、日中の光は、早寝早起きの方と遅寝遅起きの方、どちらにとっても体内時計を整える効果があります。
日中は室内でも、日光が感じられる明るい所で過ごしましょう。

[図C]

[図D]

《クイズ④ 夕方、眠くなったら寝た方が良い?》

正解は「×」です。
夕方の居眠りは、眠れる時間を遅くし、睡眠不足につながります。
また、眠るためのエネルギーを無駄使いするため、睡眠の質が悪くなり、朝の寝起きも悪くします。夕方以降は居眠りをしないように心がけましょう。

具体的には、夕方から就床前は、夜間眠りたい時間と同じ時間ほど、しっかり覚醒し続けておくことが大切です[図E]
たとえば、夜23時から8時間しっかり眠りたい人は、23時より8時間前の15時以降は、仮眠をとらず、起きている必要があります。

 

また、夕方以降の居眠りは、遅寝を促進するばかりでなく、夜の眠りを浅くしたり、夜中起きた後の再入眠にかかる時間を長くしたりします。
夕方の居眠りを減らすためにも、日中どうしても眠くなった時は、“15時まで”に短い仮眠をとることがおすすめです。

昼寝は、浅い睡眠が理想です。
昼寝で深い睡眠が出てしまうと、起きたときに体がだるかったり、頭が痛くなったりします。
深い睡眠が出ない長さの仮眠が効果的です。
55歳以上の方は30分、55歳未満の方は、15~20分を目安にしましょう。
上手な昼寝のコツは、[図F]を参考にしてください。

[図E]

[図F]

《クイズ⑤就寝前には、コンビニなど明るいところへ行かないほうが良い?》

眠る前に明るいところへ行ったり、寝る直前まで強い光を浴びたりしていると、脳の興奮が高まって眠りにくくなります。
また、明るすぎる場所では、脳がまだ夜ではないと勘違いし、眠りを安定させるメラトニンというホルモンも出にくくなります。

さらに、パソコン、スマートフォンやゲーム機などの画面には、ブルーライトという青色の光が含まれているものもあります。
寝る前に強い光を浴びると、メラトニンが出にくくなり、体内時計のリズムが後ろにずれ、眠りにくくなります。

 

寝る1時間前には、部屋の明かりを半分に落としたり、間接照明に切り替えたりと工夫をして、よい眠りを得るための準備をしましょう[図G]
そのほか、寝つきをよくするには、[図H]も参考にしてみるとよいでしょう。

[図G]

[図H]

「生活リズム健康法」を、日々の生活に取り入れてみよう

下の[表I]は「生活リズム健康法」といって、日常生活に取り入れ継続することで、睡眠やうつ、認知症予防に有効とされる生活習慣を示しています。
不眠に対する認知行動的介入技法(睡眠に対する誤った考えや睡眠を阻害している行動、生活習慣を修正し、不眠を解消する方法)を日常の生活の中で実践できるよう、簡便な形で表現したものです。

①~㉕まで、すべての項目を行う必要はありません。
自分の生活と照らし合わせ、可能なものを3つ程度選んで目標とし、できるものから週3日程度行っていくことが大切です。

 

具体的には、まず①~㉕の項目について、すでにできている習慣には「○」、できていないががんばれそうなものには「△」、がんばってもできそうにないものには「×」で回答します。

これらのうち、“がんばれそうな項目(△)”がポイントとなります。
「×」を「○」に変えようとすると、目標が高すぎて、途中で挫折してしまう可能性があります。
「△」をつけた項目の中から、がんばれそうなもの、本人が実行可能な目標行動を、3つ程度選択することが重要なのです。

問題となっている習慣が一つでも変われば、それが突破口となり、ほかの習慣も徐々に変わって、悪循環から少しずつ抜け出すことができます。

[表I]

また、お香やアロマテラピー、音楽は、眠る前の脳と身体の準備を整え、リラックス状態へと導く効果があります。
音楽においては、波の音や川のせせらぎなどの自然音、曲調が穏やかなものなどが推奨されますが、好みの音楽で、気持ちがリラックスできるものがベストです。

一方で、睡眠中の音楽は眠りを浅くする作用もあるので、タイマーなどをうまく利用して、寝つくころには音楽が止まるようにしたほうがよいでしょう。
そのほか、目覚めをよくするために、起床のタイミングに合わせて、元気になる好みの音楽をかけるのも効果的です。

【参考文献】

田中秀樹ら編著『健康・医療・福祉のための睡眠検定ハンドブック』全日本病院出版会、2022

 

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