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研究内容について
編集部:『体育授業における「生きる力」の構造と機能』の研究内容とその研究成果について教えてください。
水上様:この研究は、2000年頃、今後の21世紀の社会で必要となる力、すなわち「生きる力を育む」ことを基本方針として教育観が大きく変化した時期に行いました。各分野のスポーツ教育でも、従来の指導者中心の学習者が受け身になりがちな教育から、より主体的・能動的に取り組む教育への移行期であり、「生きる力」を育むとともに、「生きる力」を効果的に活用するプログラミングが不可欠でした。しかし、その成果である体育の授業における「生きる力」の実践的な成果や実体的な内容を明らかにするために大学1年生を対象に調査・分析を行いました。
「生きる力」は、先行研究では「遊び能力」(森しげる:児童心理)や「スポーツを楽しむ能力」「スポーツ能力」(畑、宇土:1984)から、「スポーツ能力:相互作用能力、組織的行動能力、創造能力の自ら持っている総合能力」と定義しました。以上の基本的な概念を踏まえてアンケート調査を実施した結果、体育の授業における学習者からみた「生きる力」は「積極的に楽しむ」・「仲間と協力する」・「自分の能力を知る」・「きまりを守る」・「過程を楽しむ」で構成される総合的な能力として浮上しました。
また、対象者のスポーツ特性(スポーツの好き嫌い、得意不得意、高校時代のスポーツ生活、等)の個人差においては、肯定的な学習者ほどスコアが高いことが分かりました。特筆する点は、「家族とよくスポーツをする」学習者は「積極的に楽しむ」「過程を楽しむ」というスコアが高いことです。
「生きる力」を育てるにはスポーツと関わる機会が多いことが大切ですが、特に家族の協力が大きく関係し、学校での教育とともに、あるいはそれ以上に重要であると考えます。
体育の授業の満足度(好き嫌い)は「積極的に楽しむ」が大きく影響していることが示され、興味、関心を持って能動的に授業に参加することの重要性が示されました。
以上のことから、「生きる力」の基本を生かしながら、学習者の特性に対応した「生きる力」を活用した体育の授業の重要なポイントを提示できました。
・森しげる(1983)「遊びを育てる」児童心理:金子書房
・森しげる、植田ひとみ、福井敏雄(1982)「幼児の遊び能力形成要因の多変量解析」教育社会研究37集:95-105
・畑攻、宇土正彦、矢代勉(1984)「運動・スポーツ行動に対する運動者の主体的条件の類型型化に関する研究」筑波大学体育科学系紀要7:11-19
編集部:ありがとうございます。では、その研究を行った経緯を教えてください。
水上様:本学の体育研究室は、学習者が楽しいと思う授業を目標に授業を実践してきました。より深く研究するために大学院に入学し、そこで出会ったのが様々な人々の運動やスポーツのかかわりを分析・考察し、必要なマネジメントのあり方を追求するというスポーツマネジメントの分野です。教師側からだけではなく、スポーツをする側の欲求や状況から考える基本的なスタンスで、スポーツ教育をもう一度考えてみようと思いました。
編集部:『体育授業における「関わり合い」の基礎的研究』の研究内容と研究成果について教えてください。
水上様:この研究は、前記の「生きる力」の研究をより深めるために行いました。一般的には「関わり合い」というと人と人の関わり合いのみを考えますが、宇土は、それだけではなく取り巻く環境との関わり合いも重要であるという視点から、具体的に「教師」「内容」「学修集団」「施設用具」「学習計画」の5つを必要な要素として挙げています。(宇土正彦、他:1993 1997)「生きる力」の相互作用能力は、学習者が自らスポーツの環境にどのように効果的に相互作用し、運動場面に入り込んで行けるかの能力です。この能力が、「関わり合い」の能力であると考えアンケート調査を実施しました。
その結果、体育授業における「関わり合い」は、「環境」「集団」「計画」「教師との関わり」の4つの要因で構成されており、学習者からみた「関わり合い」の構造が明らかになりました。また、スポーツ特性において比較した結果、肯定的な学習者ほど「学習の環境」「教師との関わり」スコアが高いなど、特性に対応した「関わり合い」を活用することも重要なポイントであるということも分かりました。体育の授業の満足度(好き嫌いは、「教師との関わり」がプラスの影響していました。これは、本学の環境や授業内容が現状では、必ずしも学習者に合っていなかったのではないかと考えられます。
・宇土正彦(1993)「体育授業五十年」大修館書店
・宇土正彦、高島稔、長島惇正、高橋健夫(1997)「体育科教育法講義」大修館書店
編集部:水上様が考える本研究の意義を教えてください。
水上様:学習者の成長に値する「生きる力」の変容に効果的な授業の運営、教師の対応などについて、従来以上にマネジメントとしての重要な部分が多いということが明らかになったことです。
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今後の目標について
編集部:水上様の研究における最終的な目標を教えてください。
水上様:この研究を行った当時は、学習者が指導受ける受動的な教育から能動的に取り組む教育へ変化している時でした。現在において、一部の背景が変わり、言葉が変化したり、形が変わっても学生が学びの時に前を向いてやるか、やろうとするかは、おそらく精神は変わらないと思います。これはスポーツ教育の場だけでなく、運動部活動や生涯学習、地域でのスポーツ活動などのように、スポーツ全般に共通するテーマだと考えています。より広範囲な視点で、よりダイナミックに連携し、能動的に取り組みスポーツを好きになる、楽しいと思うスポーツ活動を、スポーツマネジメントのスタンスをメインにして構築することです。
編集部:今後はどういった研究を進めていく方針なのでしょうか?
水上様:人々のライフスタイルやこだわりなどのように、より詳細な特性や志向が、具体的に各スポーツ活動にどのような影響や効果をもたらし、生きがいや幸せにつながるのかをスポーツマネジメントの立場から、研究や考察を進めたい考えていきたいと思っています。
健達ねっとのユーザー様へ一言
健康になりたい、ダイエットを成功させたい、という目標を立てることはとても重要なことです。そのために行う運動やスポーツ活動をただの手段としてだけではなく、楽しむ気持ちを忘れず、前向きに取り組んでください。そして、自分自身に真摯であるとともに、友人や仲間やご家族とともに、いろいろな場面でスポーツを楽しんでください。スポーツを楽しむことに、苦手とか、下手だからということはありません。まずは、始めてみましょう。
スポーツマネジメントの考え方は、スポーツの場だけでなく生活や仕事のいろんな場面で役立つポイントや考えさせられること、共感することがたくさんあります。これを機会に、興味を持っていただくと嬉しいです。
・参考:『基本・スポーツマネジメント』(大修館書店)