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研究内容について
編集部:「在宅で暮らす高齢者の食事摂取の課題と栄養ケア」についての研究内容とその研究成果について教えてください。
中野様:在宅で暮らす要介護・要支援高齢者及び自立した生活を営む高齢者の食事摂取には様々な課題があり、栄養ケア(高齢者の療養・介護・フレイル予防のために、疾病及び症状に対する栄養指導や献立・調理等に対する食事指導を行うもの)の充足の重要性が認識されています。本研究では、在宅介護現場における栄養ケアの実際と、栄養ケア充足に向けて実施されている取り組みについて、先行研究レビュー及び介護支援専門員に対するインタビューから検討しました。その結果、報酬上の位置づけとして、「訪問栄養食事指導(医療保険診療報酬算定及び介護保険介護報酬算定)」、「栄養改善サービス」がありますが、その他にも、「訪問型サービスC」、「通所型サービスC」、「厚生労働省栄養ケア活動支援整備事業」など様々な取り組みが実施されていることが示唆されました。今後、地域包括ケアシステムが推進される中では、管理栄養士や医師、看護師、介護福祉士、社会福祉士、介護支援専門員等の専門職のみならず、民生委員や地域住民のボランティアなどによる地域に根ざしたボトムアップの活動にも期待が持てると考えます。
編集部:その研究を行った経緯を教えてください。
中野様:私は現在、栄養士養成施設校である愛国学園短期大学で教鞭をとっておりますが、2002年から2007年までの5年間、茨城県つくば市の居宅介護支援事業所で介護支援専門員として要介護高齢者の在宅介護支援の業務に携わっておりました。その実務経験から、生活習慣病、特に糖尿病による血糖コントロール、低栄養、フレイル、嚥下困難・誤嚥、褥瘡、ターミナルケアなどの疾病・症状に栄養ケアが有効であると考えておりました。また、在宅訪問を通じて調理に携わる家族やサービス事業者の課題や独居生活を送っている方は自分で調理する必要があること、経済的困窮等により様々な栄養ケアニーズが存在することを認識しておりました。私自身、管理栄養士の基礎資格による介護支援専門員として、利用者の栄養ケア充足に関わるサービスの導入はケアプランに必要であると考えていましたが、実際の在宅介護現場ではサービス導入は、訪問栄養食事指導を行える管理栄養士の所在が明確でない、などが障壁となり、容易ではありませんでした。そこで、本研究は在宅要介護・要支援高齢者に対する栄養ケアの実際とともに、自立した生活を送る高齢者をも含むQOLの維持・向上を目指した地域で実施されている活動を把握することを目的に取り組みました。
編集部:「愛国学園短期大学ボランティアセンター活動の現状と課題」についての研究内容とその研究成果について教えてください。
中野様:本研究は勤務校において学生の社会的活動への意識を高めるために実施している様々な取り組みと「自主性、主体性を尊重し、社会貢献できる人材の育成」を目的として設立したボランティアセンターの活動報告及び今後のボランティア活動支援の課題について考えまとめたものです。地域ボランティアとして勤務校が位置する東京都江戸川区の区役所と連携し、食品ロスの削減活動、祭りなどのイベント、河川敷の清掃活動、認知症サポーター養成講座開催、また小岩警察署と連携し、防犯キャンペーンや災害警備総合訓練などに参加しています。小規模短期大学であることから、ボランティアセンターにボランティア活動の専門性を備えたボランティアコーディネーターなどの配置は困難ではありますが、学生の教育的視点を備えた活動支援を継続するためには、学生・全教職員協働型のボランティアセンターの運営形態を整備していくことの重要性が認識されたことが成果であると考えます。
編集部:中野様が考える本研究の意義を教えてください。
中野様:ボランティアは言うまでもなく、「自主性・主体性、無償性・無給性、社会性・連帯性、創造性・開拓性・先駆性」が原則ですが、ボランティアに参加の意思はあってもきっかけがなく、なかなか自分から踏み込むことが難しいという声を聞きます。そこで、教育機関においてボランティア入門講座を開催し、ボランティア参加の糸口を作ることは意義あることと考えます。ボランティア活動を通じて「仲間ができた」「自分が役に立っているという達成感や充実感を味わうことができた」「地域とのつながりを感じることができた」などの意見も聞かれるようになりました。ボランティアセンター設立から7年経過した現在では、江戸川区と連携して多世代交流・多文化共生のボランティア活動も行っており、地域ボランティア活動を通じて学生・教職員のボランティア力の涵養が少しずつ進んでいると思います。
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今後の目標について
編集部:中野様の研究における最終的な目標を教えてください。
中野様:私は管理栄養士として学校給食提供及び公衆栄養の現場での実務経験を重ね、現在は栄養士養成施設校で教鞭をとっております。在宅介護現場において、管理栄養士がどのように他職種と連携して栄養ケア充足に向けて取り組んだらよいのかについて研究を進めておりますが、地域包括ケアシステムが推進される中、在宅で暮らす高齢者への食支援は多様なアプローチが必要であると考えています。前述したとおり、高齢者のフレイル予防のための栄養ケアは訪問栄養食事指導はじめ、様々な方法で取り組まれていますが、今後はさらにソーシャルワークの視点をもって食支援を捉えていきたいと考えています。最終的には管理栄養士がその専門的知識と技術を高齢者のみならず、全世代の地域住民の様々な食支援に活かすことも進めていくことが重要であると思います。
編集部:今後はどういった研究を進めていく方針なのでしょうか?
中野様:はじめの質問でお答えしたとおり、私は「食支援」をキーワードとした研究を進めていますが、地域福祉にとても関心があり、自身の居住地及び勤務地において、地域に根差した「食」に関わる活動をしていきたいと考えています。具体的には地域コミュニティの場である食事会や料理教室、こども食堂などは、閉じこもりがちな高齢者が社会参加の機会を得、健康づくりの場として、社会的フレイル予防にも役立っていることからこれらの活動に参加していきたいと思います。加えて世代を超えた地域住民が参加することで地域の食育の場としても活用できることから、今後、「食支援」を通した地域福祉の拠点作りや専門職と地域住民やボランティアとの連携に関する研究を進めていきたいと思います。
健達ねっとのユーザー様へ一言
中野様:私は介護支援専門員として在宅要介護高齢者の介護支援に携わっていた20年前、寝たきり高齢者の褥瘡治療や、いわゆる老老・認認介護状態の在宅介護支援に対して多職種連携・協働で取り組み、成果を得られた経験があります。また、当時から「食支援」についての課題は本当に多岐にわたるものだと感じており、「栄養ケア」の担い手として管理栄養士が関わり、他職種と情報共有して介護支援できれば良いと思っていましたが、実現することは難しかったです。現在も管理栄養士が関与する「訪問栄養食事指導」の算定は多くはありませんが、少しずつ認知されその導入が進められてきています。厚生労働省は2025年を目途に地域包括ケアシステムの構築を推進しており、私は在宅高齢者に対する食支援は医療・介護に携わる専門職のみならず、地域に根差した社会活動を展開している民生委員はじめ、地域住民によるボランティアなどの関与が期待されていると考えています。皆さまが地域における「食支援」に関心を持ってご参加くださることを願っております。