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【専門家インタビュー】看護師と患者のコミュニケーションに関する研究

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研究内容について

編集部:「患者・家族とのコミュニケーション ICU人工呼吸器装着患者のコミュニケーション行動の特徴」についての研究内容とその研究成果について教えてください。

石井様:看護師が患者ベッドサイド滞在時に、患者さんはどの様なコミュニケーション行動を行なっていたのか実態を明らかにする事を目的としました。

ICU で気管挿管のもと人工呼吸器を装着した意思疎通可能な患者さん6名を対象に、朝 8 時から夕方 16 時までの間、ビデオカメラ2台(患者ベッド頭測 1 台、足側 1 台)を設置し、定点撮影を行ないました。看護師が患者ベッドサイド(患者が臥床するベッド中央から左右約150cm 以内)にいた時間に行われた患者さんの全行動を抜き出し、それらの行動を「頭・顔」「上肢」「下肢」「体幹」の身体部位毎に分類し、行動数、行動時間を集計しました。ただし、目の動き(目の開閉、視線)は含みません。

総撮影時間は、473.3 分(38.1〜164.2 分)、看護師が患者さんのベッドサイドにいた総時間は、189.7分(11.5〜87.7 分)でした。身体部位別行動数は、全ての患者さんで「頭」に分類された行動が最も多く、「頭」の行動の中では、「頷き」の行動数が最も多かったです。行動時間は、6 名中 5 名の患者が「頭」を使った行動時間が最も⻑く、そのうち 2 名は、「顔をしかめる」「口を動かす」行動が大部分の時間を占めていました。患者さんは、看護師がコミュニケーションを主導する中で行動を起こし意思を表示している事が分かりました。また、患者さんが⻑時間示す行動には何らかの意思が示されている可能性が示されました。


編集部:この研究を行った経緯を教えてください。

石井様:この研究は人工呼吸器を装着している患者さんのコミュニケーション機会を保証する研究の一環として実施したものです。ICUに入院される患者さんは自力で呼吸をすることが難しく、人工呼吸器で呼吸管理をする方が多いです。人工呼吸器を装着すると喉に太いチューブが挿入されるため、発声することができません。

またこれまでに経験したことがないような重篤な病状であり、痛みや不安を抱え、沢山のモニターを貼り付けられ、チューブをあちこちに挿入されて身動きが取れず、 今が夜か昼かもわからない状態で、絶えずモニターやアラームの音が鳴る中で頑張っておられます。

これまでの研究で、人工呼吸装着患者さんは看護師とのコミュニケーション機会を必要としているけれど、その機会が欠如している事が示されています。コミュニケーション機会の欠如により、患者さんはより良い治療や看護を受けることが困難となるため、コミュニケーション機会の欠如は早急に解決するべき課題であると考え研究を開始しました。
看護師が患者さんとのコミュニケーション機会を保証するためには、患者さんがどの様な行動でコミュニケーション機会をつくるのか、またコミュニケーションの過程でどの様な行動を用い意思伝達を行うのかを知り、その行動に着目する必要があると考え、この研究に着手しました。

編集部:「仮想フィールドにおいて看護師が援助する際の視線・行動・動線の新人看護師と熟練看護師の比較 情報の取り組みに着目して」についての研究内容とその研究成果について教えてください。

石井様:看護師は援助を実施する過程の中で、患者さんに関する多くの情報を取り込んでいます。この情報には患者の病名や治療といったざっくりとした情報だけでなく、患者さんのちょっとした言動、皮膚色や触った時の感触の変化、病室の物の配置など細かい情報も含まれます。
こういった多くの情報を取り込み、患者さんがどんな状態なのか、どんな援助が必要かそれはどんな方法か、これから何が起こりうるか、などを考えながら看護を実施していきます。

本研究では看護師が援助する際の「情報の取り込み」に着目し、「何を見て(視線)・どんな方法で(行動:見る触れる聞く)・どこで(動線)」情報の取り込みを行なっているかを明らかにし、新人看護師と熟練看護師で比較検討しました。
援助場面の条件を統一するためにシナリオを作成し、模擬患者や模擬病室といった仮想フィールドでこれらを測定しました。視線の結果では、熟練看護師は患者の身体や使われている医療機器を全て見ていますが、新人看護師は全く見ていない領域があり、必要な情報の見落としをしている可能性がありました。行動の結果では経験年数関係なく全ての看護師が見ること触れることで情報を取り込んでいることがわかりました。

また、熟練看護師の方が情報の取り込み行動の件数が多いこともわかりました。動線の結果は全看護師がベッドサイドと物品ワゴン間での移動を多くしており、経験年数による差はありませんでした。本研究結果をもとに、今後は看護師が取り込んだ情報の内容やそこからの思考過程、行動等も明らかにしていく必要があると考えています。

編集部:石井様が考える「患者・家族とのコミュニケーション ICU人工呼吸器装着患者のコミュニケーション行動の特徴」の研究の意義を教えてください。

石井様:この研究から、患者が行うコミュニケーション行動が明らかとなり、患者は多様な行動で意思表示をしている事がわかりました。看護師がこれらの行動に着目し応答することで患者のコミュニケーション機会が保証されることにつながると考えています。また今後、この研究において明らかになったコミュニケーション行動を自動的に検出するモニタリングシステム、例えば、患者さんの行動をモニタで捉え、それらの行動が発生したときに看護師に信号を送るプログラムを備えたシステムを作ることによって、患者のコミュニケーション機会の保証に貢献できるのではないかと考えています。

人工呼吸器装着患者さんは一般病棟や在宅、老健施設など多様な場で療養をしておられます。この研究ではICU人工呼吸器装着患者を対象としましたが、この研究成果をこれらの患者さんに応用することで、様々な場で療養する人工呼吸器装着患者さんと看護師とのコミュニケーションの向上に貢献できると考えています。

 

編集部:石井様が考える「仮想フィールドにおいて看護師が援助する際の視線・行動・動線の新人看護師と熟練看護師の比較 情報の取り組みに着目して」の研究の意義を教えてください。

石井様:この研究はまだまだ発展途上で、次の研究を継続していく必要があります。この研究は熟練者の技を客観的な形で取り出す一歩となります。そのことで看護者の公平なスキル評価につながりますし、有効な新人教育をすることもできます。また将来、人口減少で看護ケアの一部をロボットに委譲する時代が来た時の技術移転の基礎になると考えています。そして、広く国民のための医療に貢献することだと考えています。

 

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今後の目標について

編集部:石井様の研究における最終的な目標を教えてください。

石井様:私の研究における最終的な目標は、日々提供されては消えていく看護を客観的に目に見える形にし、それらを看護者や患者さん、そのご家族のために活用していくことです。看護実践は幅が広く、奥が深いため、すべての現象を網羅的に捉えることや1つのことを掘り下げることの、どちらについても膨大な時間と労力が必要だと考えています。ですので、私は私が生きている間に私の研究の目標が全て達成されるとは考えていません。また私1人の力でも成し得ません。この目標を達成するために、一緒に研究してくれる仲間を育て、増やしていきたいと考えています。

編集部:今後はどういった研究を進めていく方針なのでしょうか?

石井様:看護の様々な技術や技能はどのように測定できるか、 看護の業務量はどのように見積れるか、看護臨床現場に蓄積されている膨大なデジタルデータをどのように活かしてけるか、様々な観点から看護の定量化に挑戦していく方針です。

健達ねっとのユーザー様へ一言

【看護従事者のかたへ】

看護は医療の要です。看護者は多くの人々の人生の支えになっています。そして看護職は社会にとって必要不可欠な職業です。健康問題を軸に人々の人生に寄り添うのは大変な仕事ですが、皆さんのお力が日本の力になっていることを誇りに思って頑張って欲しいと思います。

 

【看護の仕事に関心がある方へ】

大変なことも多いですが、看護職は人々にとっても自分にとっても本当に意義深い職業です。是非、同じ世界でご一緒しませんか?

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神戸大学大学院保健学研究科 教授

石井 豊恵いしい あつえ

看護師
保健師
日本生活支援工学会 理事

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