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健達ねっと>専門家から学ぶ>達人インタビュー>【専門家インタビュー】アルツハイマー病バイオマーカーに関する研究

【専門家インタビュー】アルツハイマー病バイオマーカーに関する研究

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研究内容について

編集部:「神経細胞が生合成するトランスフェリンはアルツハイマー病マーカーとなる」についての研究内容とその研究成果について教えてください。

斉藤様:本研究は、福島医科大学・橋本康弘教授主導で行った研究成果ですが、糖鎖修飾は細胞種特異的な翻訳後修飾であり、様々な疾患においてバイオマーカー候補として利用することが可能です。
本研究では、脳脊髄液(CSF)中のアルツハイマー病(AD)のトランスフェリン(Tf)に付加している糖鎖に着目し、ADバイオマーカーになりうるかについて解析を行いました。ADに対するバイオマーカーの探索は、AD早期診断法確立のためにも世界中で望まれている課題です。解析の結果、CSF中のTfは、マンノースという糖を含む糖鎖が付加したTf(Man-Tf)が主要なTfであることが明らかになりました。末梢や他の組織では、異なる糖鎖が付加したTfであったため、脳で産生されるTfの大部分はMan-Tfであることが示唆されました。様々な神経疾患患者のCSF中のMan-Tf濃度を分析したところ、Man-Tfの濃度は、ADおよび軽度認知障害(MCI)において、他の神経疾患と比較して有意に高くいことが明らかとなりました。
また、これまでに知られているADの代表的なマーカーであるCSF中のリン酸化タウ(p-tau)の濃度と高い相関が見られました。このことから、p-tauとMan-Tfを組み合わせた測定が、より特異性が高いADのバイオマーカーになりうると考えられました。実際、p-tauとMan-Tfのレベルは、MCIとADに対して、MCIでは感度84%、特異度90%、ADでは感度94%、特異度89%であり、MCIとADの高い診断精度を示した。本研究から、Man-TfはADの新しいバイオマーカーとなる可能性が示されました。

編集部:斉藤様が考える本研究の意義を教えてください。

斉藤様:本研究では、世界中で待ち望まれているAD早期診断法確立のための新たなバイオマーカーを見いだしたことに大きな意義があると考えています。最近、AD発症の引き金となるアミロイドβペプチドの凝集物を除去する抗体医薬(Aβ抗体療法)の開発が進められていて、臨床治験でも良い成績を示しているようです。
Aβ抗体療法は、これまでにないADの予防・治療に大きな貢献を示すと予想されています。ただ、Aβ抗体療法をどのタイミングで行えばよいかを判断するための診断法の開発が後手に回っているのが実情です。その中で、AD早期診断を可能にするADバイオマーカー候補を提示することは重要な意味を持ちます。
今回、Man-Tfが脳内で産生されることが明らかとなり、既存のマーカー候補のひとつp-tauと組み合わせることで、より精度の高い診断感度と特異度を示すことが明らかになったことで、今後のAD早期診断法の確立に大きく貢献すると期待されます。

 

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今後の目標について

編集部:斉藤様の研究における最終的な目標を教えてください。

斉藤様:
私達は、AD早期診断を可能にするバイオマーカー候補の探索・同定だけでなく、AD発症の分子・細胞メカニズムを明らかにすることで、ADに対する新たな予防、治療法の開発を達成するのが大きな目標です。また、ADだけでなく、他の認知症や神経変性疾患にも有用な予防、治療法の確立に応用・展開していくことを最終的な目標にして研究を進めています。また私達は、これら研究を通して、基礎研究の立場から上記目標を達成するための基盤研究を推進していて、AD等の疾患の克服だけではなく、脳の老化とは何か?、脳だけでなく他の組織の老化との連関は何か?という学術的な問いを明らかにすることも大きな目標に、研究を進めています。

編集部:今後はどういった研究を進めていく方針なのでしょうか?

斉藤様:私達の研究室では、私達が独自に開発してきたADモデル動物を主要な研究ツールとして研究に取り組んでいます。
ADなどの認知症研究は、特に神経細胞に着目した研究が多かったのですが、脳内の神経細胞以外の細胞:グリア細胞が疾患発症に重要な役割を果たしていることが明らかになってきました。グリア細胞は脳内の環境制御、すなわち神経の活動を円滑にするような脳内細胞環境の構築に重要だと考えています。
この点から、神経ーグリア連関をキーワードに、グリア細胞の役割を理解し、制御することでAD発症メカニズムを紐解いて行きたいと考えています。
また、脳という機関が、末梢組織からも大きく影響を受けていることが明らかになってきました。例えば、末梢免疫系や腸内細菌叢の変容が、脳内環境に大きく影響しています。
そこで、脳ー末梢連関という視点から、末梢への介入による脳機能の制御を可能にできるのではないかと考えています。
さらに、高齢者は一つの疾患だけでなく複数の疾患を併発していることが多いため、ある疾患が、他の疾患におよぼす影響を無視できないと考えています。すなわち疾患連関という視点で、例えばADと脳卒中との関係性についても研究を進めています。

 

健達ねっとのユーザー様へ一言

私は、薬学部を卒業した経歴から、今後の少子高齢化社会において、薬剤師として認知症の患者様にどのように接していくのか、いけるのかという視点も持って研究に携わっています。そのためには、AD・認知症のことを一般の方含めて、正しく知って頂き、正しく畏れることが重要だと思っております。医師ではない私が、基礎医学研究の現場から届けられることがあればと、今回の健達ねっとの取材に応え、発信の場にできればと思いました。医療の現場同様に、研究現場においても多くの難問を抱えておりますが、研究を一歩一歩前に進めて行きたいと思っております。急がば回れが、結局は最短距離を走ることになるのかと思っております。できるだけ早く、認知症の克服に貢献したいたいと思っておりますので、医療現場からのニーズなどフィードバックして頂ければ幸いです。

 

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薬の使い方

名古屋市立大学 大学院医学研究科 脳神経科学研究所 教授

齊藤 貴志さいとう たかし

日本認知症学会(代議員)
日本生化学会(評議員)
日本神経科学会

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