ホーム

認知症を学ぶ

down compression

介護を学ぶ

down compression

専門家から学ぶ

down compression

書籍から学ぶ

down compression

健康を学ぶ

down compression
健達ねっと>専門家から学ぶ>達人インタビュー>【専門家インタビュー】高齢者施設での転倒に関する研究

【専門家インタビュー】高齢者施設での転倒に関する研究

スポンサーリンク

研究内容について

編集部:「インシデントレポートを使用した、高齢者施設における転倒の実態調査」についての研究内容と研究成果について教えてください。

稲村様:本研究は、介護老人保健施設における転倒・転落事故の実態を調査し、介護老人保健施設利用高齢者の1年間の転倒の実態を明らかにすることを目的としています。

奈良県下の介護老人保健施設の協力を得て、本研究を実施しました。対象の施設は2フロアあり、それぞれフロアAフロアBとし、フロアAはベッド数46床、平均年齢85±5歳、男女比1:2、平均要介護度2.96、フロアBは、ベッド数34床、平均年齢86±4歳、男女比1:3、平均要介護度2.91、当フロアの入所者はアルツハイマー型認知症を既往にあり、その程度は中程度から重度でした。

本研究では、平成30年度に報告されたインシデントレポートの中から転倒に関する103例を対象とし、報告されたインシデントレポート内から①発生時間、②発生状況、③発生場所、④患者属性(介護度、障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)、認知症の日常生活自立度)、⑤ADL状態を抽出しました。

対象となる103例の内訳は、フロアAで55例、フロアBで48例あり、1日延べ人数当たりの発生頻度はフロアAで0.328%、フロアBで0.387%となり、フロアBでの発生頻度がやや多いことが分かりました。

転倒が多く発生している時間は、食事などで移動が活発化していることが予想されます。これはフロアによって差はありませんでした。転倒事故が多く起こりやすい朝食時、昼食時、夕食時について分析を行うと、昼食時(13時~14時)において特に障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)ランクAの対象者が転倒事故を起こしている事例が多くありました。障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)ランクAの対象者は、移動については比較的自立している入所者であり、介助はほぼ必要がない、もしくは見守り程度の介助が必要である対象者です。入所者やスタッフの往来が多く、焦燥感などの心理的影響があったのではないかと推察されます。また、夕食時(16時~19時)の場合、発生場所は食堂などのフロアにおける事故よりも居室での事故が多く報告されていました。

編集部:その研究を行った経緯を教えてください。

稲村様:現在、日本の高齢化率は約28%であり、今後も高齢化率は上昇することが予測されます。また、介護が必要になった要因として「骨折・転倒」が12.5%(平成30年)含まれており、その割合も近年増加傾向にあります。高齢者の転倒は、日常生活動作を低下させる大きな要因となっています。そのため高齢者の転倒は、身体的にも精神的にもQOLを低下させる重大な社会問題の一つとなっています。

高齢者の転倒要因には、内的要因として身体的疾患や加齢変化、外的要因として室内段差や照明不良などの物的環境があります。高齢者の転倒には、このような多種多様な要因が複雑に関与していることが多いです。

他方で、介護老人保健施設は、リハビリテーションによる在宅復帰を目指す施設として設立されています。介護老人保健施設の入所高齢者は、自立を目指して機能訓練を行っており、動くことができる高齢者が多いという点で転倒のリスクが高いです。加えて、介護老人保健施設は、入所期間が限定されているため、入退所が多く、時間をかけて入所者の把握をすることが難しいです。これらのことから、介護老人保健施設は、転倒予防の必要性が高い施設といえます。

これらのことが本研究を実施するきっかけとなりました。

編集部:「2ステップテストを用いた、視覚の変化が歩行に与える影響について」についての研究内容と研究成果について教えてください。

稲村様:大阪府下の私立大学に在籍している看護学生107名を対象に、2ステップテストを実施、測定しました。2ステップテストでは、高齢者疑似体験セットを着用しない通常時に加え、高齢者疑似体験セット内の視覚障害ゴーグルを使用し、黄変、白濁、視野狭窄の順で着用し実施しました。

2ステップテストとは、

①まずスタートラインを決め、両足のつま先を合わせます。

②できる限り大股で2歩歩き、両足を揃えます。

③2歩分の歩幅(最初に立ったラインから、着地点のつま先まで)を測ります。

以上のように測定しました。

2ステップ法テストの結果は、通常時1.37、黄変時1.35、白濁時1.33、視野狭窄時1.30となり、それぞれの相関も0.78~0.89と非常に強い相関が得られました。

通常時とゴーグル着用時の結果を比較すると、通常時の値以下となる割合は、黄変時67.3%、白濁時69.2%、視野狭窄時80.4%となりました。一方、全体の11.2%が、ゴーグル着用時よりも通常時の値が低くなりました。

各ゴーグル着用時の結果を比べると、黄変時と白濁時では68.2%の割合で白濁時の値が低くなり、黄変時と視野狭窄時では77.6%の割合で視野狭窄時の値が低くなりました。また、白濁時と視野狭窄時では70.1%の割合で視野狭窄時の値が低くなりました。

編集部:稲村様が考える本研究の意義を教えてください。

稲村様:2ステップテストの結果より、各ゴーグル着用時の結果が低く出ており、視覚の変調が歩行に対して影響を及ぼす、特に視覚情報が少なくなる視野狭窄ではどの結果と比べても値が低くなる確率が高くなりました。また、高齢者疑似体験を通しての感想からも、「歩きづらい」や「視界が悪い・気がつかない」といった物理的な要因だけでなく、「恐怖・不安」や「ストレス・イライラする」など心理的な変化もみられ、視覚機能の低下や障害が心理的変化をもたらすことがきっかけとなり歩行が困難になる要因の一つとなるのではないかと推察されます。

これらのことより、いかにして周囲の状況を認知できるかを検討することが転倒予防に必要であることが確認され、一方で、加齢に伴う認知能力の低下についても今後の課題があります。

本研究は、視覚の変化が歩行に与える身体的・心理的影響から、今後の転倒防止策を提案することを目的としています。

前述のとおり、高齢者の転倒要因には、内的要因として身体的疾患や加齢変化、外的要因として室内段差や照明不良などの物的環境があります。高齢者の転倒には、このような多種多様な要因が複雑に関与していることが多いです。

特に今回は、その中でも内的要因について焦点を当て、研究を行いました。

内的要因の研究は非常に困難で、我々よりもはるかに経験のある高齢者の心理を100%理解することは難しいです。しかし、だからといって、それら高齢者の心理を無視することは看護ではなく、それは看護者のエゴになってしまいます。

今回の研究を通し、高齢者の心理、患者の心理を理解するための一端を担えたのではないかと考えています。

スポンサーリンク

今後の目標について

編集部:稲村様の研究における最終的な目標を教えてください。

稲村様:高齢者にとってQOLを向上できるような環境(ハード面、ソフト面)を提供することです。

2025年問題、2040年問題など、高齢者看護は今後さらなる発展が望まれています。高齢者にとっての幸福とは、高齢者にとっての健康とは、また、それらを実現するための看護のあり方について、今後もさらなる研究が必要と考えています。

編集部:今後はどういった研究を進めていく方針なのでしょうか?

高齢者にとっての、療養環境の研究、食事と生活の質の研究、など、高齢者にとってのQOLの向上につながるような研究を展開できればと考えています。

また、終末期の看護についても同様に考えていく必要があります。

高齢者施設、特に特別養護老人ホームに入所されている利用者様はそこを終の棲家としています。高齢者看護において、ナラティブ・ベースド・メディスンという考え方があります。ナラティブとは、物語という意味があり、高齢者のこれまでの経験を物語として捉え、ケアを提供するというものです。

特別養護老人ホームでの生活や、終末期の看護において、このナラティブ・ベースド・メディスンを導入していることも多く、それらの経験からの看護研究も、今後深めていく必要があると考えています。

健達ねっとのユーザー様へ一言

稲村様:健康になりたい!と思うことは、とても立派な事だと感じています。

健康とは、一朝一夕で勝ち取ることができるものではありません。ご存じの通り、制限が必要であったり、運動や食生活など苦手と向き合う必要があったりと、なにかと苦労の連続になります。

健康になるために、一日一日が勝負になります。結果はすぐにはわかりません。しかし、必ず良い結果が訪れます。

私は水前寺清子の「三百六十五歩のマーチ」が大好きです。「千里の道も一歩から」、「あなたのつけた足跡には、きれいな花が咲くでしょう」。これはまさに、ユーザーの皆さんのことを言っているのではないでしょうか。皆さんもぜひ一緒に健康を考えていきましょう!

健達ねっとECサイト
薬の使い方

大和大学 保健医療学部 教授

稲村 真史いなむら まさし

看護師免許
保健師免許
福祉住環境コーディネーター

  • 看護師免許
  • 保健師免許
  • 福祉住環境コーディネーター

スポンサーリンク