ホーム

認知症を学ぶ

down compression

介護を学ぶ

down compression

専門家から学ぶ

down compression

書籍から学ぶ

down compression

健康を学ぶ

down compression
健達ねっと>専門家から学ぶ>達人インタビュー>【専門家インタビュー】介護従事者の心身の健康に関する研究

【専門家インタビュー】介護従事者の心身の健康に関する研究

スポンサーリンク

研究内容について

編集部:「高齢化社会における介護者の現状と問題点-うつ病および自殺リスク」についての研究内容とその研究成果について教えてください。

町田様:本調査が実施されたのは2005年ですので、結果は16-7年前の現状を示すものです。

日本では、2000年から介護保険制度が導入されました。この制度は高齢者の支援体制の向上と同時に、膨れ上がる医療費を抑制することが目標の1つとされました。しかし、在宅介護の担い手の多くは超高齢者、つまり、80歳以上が80歳以上を介護するという現状にあり、そうした介護者の7割が何かしらの疾患を抱えて医療にかかり、8割が健康への不安を感じていることが分かりました。さらに、4人に1人がうつ病予備群であることも示されました。当時の医療体制が継続され、介護者の罹患という新たな患者が作られるのであれば、社会全体から見た場合、高齢者のQOLの向上のみならず、医療経済的コストの削減には至りません。本研究の結果は、被介護者だけでなく、介護者への支援体制の必要性と重要性を示す根拠になったと考えます。

編集部:その研究を行った経緯を教えてください。

町田様:現在にあっても、決して過去の出来事ではないのですが、当時、介護疲れによると思われる事故が続きました。在宅医療や在宅介護が推進される過程で、弱いところに負荷がかかっているのではないか、そして、その多くは、声を挙げられないでいるという現状にあるのではないかといった、素朴な疑問と憤りのような感情があって、この調査研究を始めたというのが正直な経緯です。そうした考えに賛同して下さったのが、当時の株式会社コムスンの医療スタッフの方々でした。

編集部:「保険薬局利用者の精神症状‐うつ病.および自殺リスクに関して‐」についての研究成果について教えてください。

町田様:この研究は地域の保険薬局利用者を対象にした、うつ病尺度(SDS)を含む、精神・身体状態とうつ病・希死念慮に関する実態調査です。こうした実態調査を基に、予防医療的介入の方策について考察することを目的としました。
結果、薬局利用者の21.9%にSDSによるうつ病が見出されました。
SDSの得点で50点未満を「非うつ病」群、50点以上を「うつ病」群として、両群間の差の検定を行ないました。
結果、うつ病と自殺に関連した19項目のうち17項目で両群間に有意差が認められ、全て、「うつ病」群で「症状あり」と回答した人が多くなっていました。
また、有意差のあった17項目のうち、「うつ病」群の半数以上が「症状あり」と回答した項目は、「日内変動」、「不眠」、「身体症状」、「記憶力低下」、「疲れ」の5項目でした。
さらに、ストレスに対する認識においても、「自分の病気」、「家族の介護」、「社会での対人関係」に対して、「うつ病」群は「非うつ病」群より「ある」と回答した人が有意に多くなっていました。

これらの結果から、日常生活上での苦痛の大きさが推測されました。

対象者のうち希死念慮を抱く者は全体の5%(8人)でした。その全ての人がSDS得点でうつ病と評価されていました。1人以外は55歳以上で、5人は65歳以上の高齢者でした。
一方、本調査中に、薬局薬剤師に受診援助を希望した人はいませんでした。

この調査を薬局利用者を対象に実施した理由は、現行の医療システムの中で、薬局は患者が最後に利用する医療機関となるからです。つまり、薬剤師は患者が最後に出会う医療人となります。

また、疾患の早期発見・治療としての予防医療を推進させようとする場合、そこに高い経済的コストがかかるようでは、やはり現実化は困難です。こうした点からも、地域の予防医療を考える場面では、既存の社会資源である保険薬局が活用されるべきだと考えたからです。
 今回の調査では、こと、うつ病の早期発見と、転帰としての自殺を予防するためのメンタルヘルスのあり方について考えていくことの必要性が明らかとなりました。

しかし、残念な結果として、当時の薬局は、患者さんから、現在治療中の疾患や薬以外のことについて相談する機関として認識されておらず、予防医療を担う機関として機能していませんでした。

編集部:町田様が考える本研究の意義を教えてください。

上記しましたように、既存の医療機関を利用して、現実的で有用な予防医療を推進していくことの方策を提案したという点での意義は大きいのではないかと考えます。この研究をきっかけに、「自殺予防」について、興味関心を示してくれた薬局もありました。
当時の私は、コンビニより多いといわれる薬局が地域の医療機関として、さまざまな予防医療に関心をもって積極的な介入を行なったならば、疾患の早期発見や早期治療への貢献だけでなく、病気を作らない健康コミュニティーの実現にも繋がるのではないかと期待を膨らませていました。

この調査を実施したのは2006年ですが、この年は薬学の6年制教育が開始された年でもありました。この間、私が勤務する明治薬科大学では、3つの教育目標を掲げ、患者さんに寄り添い、真に効果的で効率的な薬物治療を提供することができる臨床薬剤師の育成に力を注いできました。

1.薬物治療に責任を持てる薬剤師を養成する。 

2.強い探究心と洞察力を持つ、独創的発想力豊かな人材を育成する。

3.柔らかな心と豊かな人間性を持った国際的に通用する薬学人を育成する。

すでに多くの卒業生を社会に送り出してきました。そして、今、彼ら、彼女らからは、当時、私が「夢」としていた薬剤師の活躍ぶりが現実として語られます。

例えば、保険薬局では、地域のイベントで健康に関する相談にのったり、講演会を開催したりと、まさに、健康コミュニティーの実現に向けた取り組みが行なわれているのです。

6年制教育を受けた薬剤師が生まれて10年以上が過ぎた今、地域の保険薬局は予防医療を担う機関として機能してることを確信します。

ぜひ、明治薬科大学の卒業生に出会う機会がありましたら、ご自身やご家族の健康のこと、薬のことなどについて相談してみてください。必ずや、お力になれるはずです。いえ、対物業務から対人業務へとシフトした薬剤師全般に期待して頂きたいと思います。

今後は、患者さん、そのご家族を含めた多職種が連携して、より健康な社会の実現が課題になるのだろうと考えます。

スポンサーリンク

今後の目標について

編集部:町田様の研究における最終的な目標を教えてください。

町田様:今後はどういった研究を進めていく方針なのでしょうか?

私が最初に勤務したのはメンタルクリニックでした。そのクリニックは、精神科救急病院との連携が強く、狭義の精神疾患患者の治療を主とする草分け的な存在でした。そこで私は、臨床心理士として勤務していました。

当時のクリニックには、初発の統合失調症患者の受診が珍しくありませんでした。しかし、患者さんの多くは、すでに、何件もの教育相談機関や精神科以外の診療科を受診していました。そうした患者さんに出会うたびに、「もっと早期に発見し、治療できないものだろうか」ともどかしさを感じていました。こうした思いを持ち続けながら10年間クリニックに勤務し、その後、精神科のない総合病院へ転職しました。もちろん、目的の一つは、精神疾患の早期発見でした。実際に勤務してから、精神疾患の可能性のある未治療の患者さんを精神科へ受診援助した数はかなりに及びました。

この勤務中にもう一つ感じたことは、精神科や精神疾患に対する周囲の無理解と偏見でした。それは医療者にあっても例外ではありませんでした。知識のない事やものに対して不安や恐怖を感じることはしばしばあることです。そこで、勉強会や講演などの活動も増やしていきました。この延長線上に、現在の医療者教育があります。

現在は、薬学生に向けて、医療コミュニケーション学の講義・演習を行なっています。講義では、幾つかの精神疾患を取り上げ、病気の知識のみならず、疾患によって患者さんが感じることや周囲から受ける偏見等についても話しています。

上記した偏見に関しては「認知症」も同様だと感じます。

私は薬科大学に勤務しながら、週1回、総合病院で研修を行なっています。そこでは、ご家族の誰かが「認知症かもしれない」と感じても、「そうであってほしくない」、「そうだったらかわいそう」といった思いから、さらに、「好奇な目で見られるかもしれない」、「同情されるかもしれない」といった周囲からの偏見を気にして、相談機関や医療機関へ行くことをためらい、徘徊などの問題行動が顕著になるまで、家族内で丸抱えしてしているケースをいくつも見てきました。長年、社会や家庭の中で立派に過ごされて来た方の変わっていく様子を認めることは、ご家族にとって相当につらいことでしょう。加えて、周囲の偏見の目に晒されるとしたらその苦痛はどれほどでしょうか。

ここでは、研究の目標、今後の研究テーマ等を問われていることは承知しているのですが、上記した経緯から、今後は、一臨床家として、精神疾患や認知症等の「偏見」をなくす活動に力を注いでいきたいと考えています。

健達ねっとのユーザー様へ一言

被介護者の方のためにも、そのご家族、介護従事者の方々の心身の健康は重要だと思います。とくに、こころの健康にとって「話す」ことは大きな意味があると思います。「愚痴をこぼす」と言うと少し抵抗を感じるかもしれませんが、「カタルシス」と考えてみてはいかがでしょうか。カタルシスとは「浄化」を意味します。つまり、ネガティブな感情を言葉で表現すると、苦痛が緩和されて安心感が得られるという現象です。ときには、安全な場所や人の前で思いを語りつくして気持ちを浄化してください。 今、介護を実践されている方々は、私も含めて、今後、介護をしていくことになるだろう者にとっての「師」であり、その経験は「教科書」だと思います。

 だからこそ、自愛を忘れずにいてください。

健達ねっとECサイト
薬の使い方

明治薬科大学 医療コミュニケーション学 教授

町田 いづみまちだ いづみ

臨床心理士
公認心理師
総合病院精神医学会

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 総合病院精神医学会

スポンサーリンク