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健達ねっと>専門家から学ぶ>達人インタビュー>【専門家インタビュー】医療ケア児の現状と課題に関する研究

【専門家インタビュー】医療ケア児の現状と課題に関する研究

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研究内容について

編集部:「精神的回復力と習い事や部活動の積み重ねの関係」についての研究内容とその研究成果について教えてください。

小田様:精神的回復力(困難な状況に陥った時に乗り越える力)と習い事や部活動の経験の積み重ねは、どのような関連があるのか高校生を対象に検討することを目的に行いました。

精神的回復力は、習い事や部活動の継続年数が長いほど高いことが示されました。

また、習い事や部活動を始めた年齢が早いほど継続年数が長くなることが認められました。精神的回復力の下位項目である新奇性追求と経験の継続年数の間に関連が認められました。

精神的回復力と習い事や部活動の影響による精神的回復力の尺度得点は、運動系の習い事や部活動と文化系では、差異は認められませんでした。精神的回復力は、習い事や部活動の影響を肯定的に捉えた上位群では、始めた年齢と続けた年数の関連が認められました。

つまり、精神的回復力は、幼少時からの習い事や部活動の積み重ねと関連があることが示され、部活動や習い事の種類による違いは認められませんでした。技術の上達や勝負に勝つために、繰り返し考えて練習を積み重ねた経験と、経験の積み重ねによる自分を信じる力や気持ちを整える力など肯定的な影響の捉え方が関連すると考えられました。

参考文献

  1. 小塩真司,中谷素之,金子和文,長峰伸治:ネガティブな出来事からの立ち直りを導く心理的特性 -精神的回復力尺度の作成-,57-65,カウンセリング研究,日本カウンセリング学会,2002
  2. 葛西真記子、澁江裕子、宮本友弘、松田保:スポーツ活動経験とレジリエンスの関連 ‐時間的展望、身体的自己知覚の視点から‐,2009,39-50

編集部:その研究を行った経緯を教えてください。

小田様:幼少時から心と身体の成長には、さまざまな要素や要因や調整因子があると考えられています。学習指導要領で大切に考えられている「生きる力」には、楽しく面白い経験のみならず、辛い経験や苦しいと思う経験から立ち直る力が重要であり、生き抜く力に繋がっていくと考えられています。

わたし自身、学生時代の部活動で多くの経験を得ました。幼少時からの習い事や部活動で、苦しく辛い経験を乗り越える力が育まれるのではないかと考えたことがきっかけです。

現在、個人の苦しく辛い経験を乗り越える力の指標はすでに多くの先行文献において指摘されています。テーマもスポーツ経験や離婚、貧困、虐待などの苦難な生活等多くあります。しかし、成長過程で多くの子どもたちが経験する習い事や部活動の積み重ねの経験をテーマとし、高校生を対象にした研究は殆ど見当たらなかったことがきっかけです。

編集部:「保育園での医療的ケア児への保護者支援のあり方を探る」についての研究内容とその研究成果について教えてください。

小田様:当時勤務していた保育園で、5歳児の二分脊椎の女児の導尿時(母親が1日1回13時頃、導尿の為に保育園に来ていた)に主任保育士の立場で継続的に関わった事例から、親子の変化を探り、医療的ケア児への保護者支援のあり方について検討していくことを目的に研究を行いました。

最初に、A県内の障害児保育実施に取り組んだ経緯をA県初代指導保育士にインタビューを行い、A県障害児保育の受け入れの歴史について学びました。

医療的ケア児の保育や保護者支援は、保育士の「幼児理解」「保護者理解」を基盤にした支援を行い、医療的ケア児の心身の発達を見据えた保育に努める必要があると認められました。保育士は導尿時に医療的ケアは出来なくても、医療的ケア児の園での様子や家庭での様子を伝え合い、保護者の気持ちを感じ取り、寄り添った支援を行う必要があると改めて理解しました。

具体的にAちゃんの導尿時10分程の関わりを重ねる中で、3つの支援のあり方が考えられました。

1つ目は、身体の機能だけでなく心の発達を捉えた関わりは、子どもの情緒面の発達に繋がると改めて理解しました。Aちゃんの姿から情緒面の発達の兆しを捉えた上で、Aちゃん自身が気持ちを表出できるような関わりや自信につながる支援をしていきました。

2つ目は、生活の自立を支える支援として、導尿の様子から自立導尿に繋がる指先を使う遊びを日頃の保育の中に意識的に取り入れていきました。9月にAちゃんは、母親が挿入した管を自分で持つようになり、11月には、自分で管を挿入する姿が見られるようになりました。導尿は、医療行為であり、清潔への配慮や指先の操作の正確性も求められます。毎日の生活と遊びの中で塗り絵、折り紙やカード遊び、粘土遊びなど微細運動である指先を使う遊びを取り組めるような環境を構成し、Aちゃんが好きな遊びを十分楽しめるようにしていきました。

3つ目は、Aちゃんの生活日課について考えることも保育士の専門性を活かした支援だと考えました。具体的には、毎日13時頃に行われる導尿の時間をクラスの日課の中にどう取り入れていくか考え、工夫しました。

追記1:2018年当時、医療的ケア児の保護者が就労を希望する場合、地域の保育園での受け入れは消極的な現状があった。現在、「令和三年法律第八十一号 医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」 により、医療的ケア児の支援が大きく変化している。

追記2:本稿の言葉の定義として「医療的ケア」とは、「医療保育セミナー」(日本医療保育学会編)を参考に「医療的ケアとは、家族や看護師が日常的に行ってきた定期的な導尿とする。」 また、医療的ケアの区分として、栄養関係、呼吸関係、排泄関係、その他があり、本研究の導尿は排泄関係に含まれる。

追記3:医療的ケア児とは、医学の進歩を背景として、NICU(新生児特定集中治療室)等に長期入院した後、引き続き 人工呼吸器や胃ろう等を使用し、たんの吸引や経管栄養などの医療的ケアが日常的に必要な児童のこと。 全国の医療的ケア児(在宅)は、約2万人〈推計〉である。医療的ケア児について【802KB】医療的ケア児等 |厚生労働省 (mhlw.go.jp) 最終閲覧日 2022年11月16日) 

追記4:医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律(令和3年6月18日公布・同年9月18日施行) 第二条 この法律において「医療的ケア」とは、人工呼吸器による呼吸管理、喀痰吸引その他の医療行為をいう。 2 この法律において「医療的ケア児」とは、日常生活及び社会生活を営むために恒常的に医療的ケアを受けることが 不可欠である児童(18歳未満の者及び18歳以上の者であって高等学校等(学校教育法に規定する高等学校、中等教 育学校の後期課程及び特別支援学校の高等部をいう。)に在籍するものをいう。)をいう。 医療的ケア児について【802KB】医療的ケア児等 |厚生労働省 (mhlw.go.jp) 最終閲覧日 2022年11月16日)

編集部:小田様が考える本研究の意義を教えてください。

小田様:2018年当時は、医療的ケア児を受け入れた保育園の保育場面をまとめた研究は殆どありませんでした。その為、継続的な導尿時の関わりの事例をとり、医療的ケア児や保護者の変化から保護者支援の在り方を探っていきたいと考えました。

保育士として保護者が医療的ケアを行っているときは、安心してケアが進められるように安全・安心の保障をする。医療的ケア児の今の姿や心の動きを理解し、毎日の保育の中で発達を促す支援や環境を整える。保護者と医療的ケア児を中心とした関係の中で、共に成長を喜び合えるような信頼関係を築く保護者に、医療的ケア児の成長の姿を伝え、保護者の言葉とその奥にある気持ちを知ろうと寄り添うことの大切さが示されました。

保育士は「導尿」の医療行為はできないが、医療的ケアを行っている場には、一緒にいることが出来る(勿論、保育士の加配など必要なこともあるが、例えば主任保育士や園長などの対応も可能ではないか?)。そのような考えから医療的ケアの経過を記録していくことで保育士としての役割を具体的に理解できる内容の一つとなったと考えています。

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今後の目標について

編集部:小田様の研究における最終的な目標を教えてください。

小田様:わたしは、医療的ケアの必要な同級生と一緒に小学校から中学卒業まで育ちました(卒業後も交流は続き、彼女は48年の生涯を全うしました)。そして、保育現場での経験から、全ての子どもが子どもの中で育ち合うことは、保護者支援でもあり、医療的ケア児のみならず全ての子どもたちにとって有意義であると考えています。

医療的ケア児の保護者(他、疾病があるお子さんや入院中のお子さんを持つ保護者など)は、毎日の看護が子どもの命と直結するために日々緊張した生活を送っています。ぐっすり眠る、自分のための時間を使うことすら躊躇する方が多くいらっしゃると思います。

子どもの成長を保育士と一緒に喜ぶことや家庭生活、保護者自身のキャリアを活かし社会に貢献することが出来るようになるために役立つ研究をしていきたいと思っています。

編集部:今後はどういった研究を進めていく方針なのでしょうか?

小田様:医療的ケア児の保護者や受け入れている施設に丁寧に話を聞き、現状と課題を探っていきたいと考えています。

現在、保育者養成に携わっていますので、「家庭との連携と保護者に対する支援」「保育者の連携・協働」という視点から授業で、「医療的ケア児」の保育を取り入れ、医療的ケア児の保育に携わった経験のある保育者として専門職の資質向上につなげていきたいと思います。

健達ねっとのユーザー様へ一言

精神的回復力は、幼少期からの積み重ねで培われ、その後、年齢を重ねてからも社会や家庭生活など多くの経験の中で、変化しながら積み重なっていくと考えます。

わたし自身、大学教員になりたての頃は思うように授業もできず辛く苦しい日が続きました。その際、約3年前に旅立った「自分で考える楽しさ」を教えてくださった小学校時代の恩師に随分助けていただきました。先生自身のお身体も大変な時だったにも関わらず、優しい眼差しでいろいろな話をしてくださりました。実は、卒業後30年以上経った時も「良枝ちゃんのお世話の期限は切れているよ。」と太陽のような笑顔でおっしゃりながら、子どもたちもお世話になりました。今も時折思い出し、先生の愛情を感じ胸がいっぱいになります。

やはり、心の健康が身体の健康、その後の生き方にも大きく影響するのではないかと思います。

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薬の使い方

名古屋芸術大学教育学部子ども学科 准教授 

小田 良枝おだ よしえ

医療保育専門士 
一般社団法人 日本保育学会 
一般社団法人 日本医療保育学会 

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  • 一般社団法人 日本保育学会 
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