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健達ねっと>専門家から学ぶ>達人インタビュー>【専門家インタビュー】働く人の健康管理のための研究

【専門家インタビュー】働く人の健康管理のための研究

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研究内容について

編集部:「中小企業経営者の職業性ストレス尺度の開発-インターネットによる予備調査における尺度分析の結果-」についての研究内容とその研究成果について教えてください。

栗岡様:202012月に、1000人の中小企業経営者を対象に、仕事に関するストレスの調査を行いました。その結果、中小企業経営者の仕事に関するストレス要因は、人の問題(人材管理)が最も大きく、次にお金の問題(財務管理)や経営者自身の忙しさ(業務負荷)の3つであることがわかりました。

これらの仕事に関するストレスがかかることで、プレゼンティーズム(健康問題により労働遂行能力が低下している状態)や心理的ストレス反応(ストレスによる身体症状や精神症状が固定または増悪する状態)が高まることが示唆されました。

しかし、仕事に関するストレスがかかっても、ソーシャルサポート(税理士などの専門家や、家族、信頼できる経営幹部や顧客、家族などによる支援)や、セルフケア(睡眠や食事に気をつける、気分転換をする、一人の時間を持つなど)を行っている経営者や、心理資本(理想の会社に近づけている、従業員の能力が伸びていると感じているなどの自尊感がある)が高い経営者は、プレゼンティーズムやストレス反応を抑えることができることが示唆されました。

一方で、ワーク・ファミリー・コンフリクト(仕事と家庭の対立:個人が仕事と家族の役割の間で相容れない複数の要求を経験する際に生じる役割葛藤)や、家族の病気などの仕事外の要因が加わることで、プレゼンティーズムやストレス反応が高くなることが示唆されました。

<仕事のストレスと他の要因との関係>

編集部:その研究を行った経緯を教えてください。

 

栗岡様:中小企業経営者はメンタルヘルス不調のリスクが高いうえ、経営者のストレスは経営に直結することが報告されています。労働者に対しては、法律に基づくメンタルヘルス対策が充実していますが、経営者に対する対策は全く行われていません。そのうえ、中小企業経営者のストレスの実態さえも把握されていませんでした。

このような現状から、労働者と異なる中小企業経営者のストレスの実態を把握して、何らかの対策を検討し、将来的には中小企業経営者に対するストレスケアを提供できればと考えています。

 

編集部:「介護施設従業員における主観的健康感と炎症マーカーの関連」についての研究内容とその研究成果について教えてください。

 

栗岡様:主観的健康感は,個人が健康状態を自己評価する指標であり、死亡率や疾患罹患率などと関連があります。この主観的健康感と血液中の炎症マーカーについて、介護施設従業員120名を対象に2016年に調査を行いました。

 

その結果、主観的健康観の悪化と炎症マーカーの上昇に関連があることがわかりました。これは、ストレスやメンタルヘルスの悪化などによる、全身性の軽微な慢性炎症によって引き起こされ、炎症マーカーの上昇が起こっていることが考えられます。

 

また、本研究では主観的健康観を、①全般的健康観(現在の全般的な健康観)、②過去比較健康観(過去の自分の健康状態と現在の健康状態を比較させた健康観)、③他者比較健康観(同年代の他者と自分を比較させた健康観)の3つの方法で調査しました。その結果、全般的健康感は40歳以上の中高齢層に適しており,他者比較健康感は40歳未満の若年層に適した設問であることがわかりました。

 

編集部:栗岡様が考える本研究の意義を教えてください。

 

栗岡様:主観的健康観は、医学的検査などで健康度の調査を行うことが困難な場合に,その代替指標として用いられ、国民生活基礎調査でも利用されてきました。主観的健康観は、簡単な設問でありながら死亡率や疾病罹患率の予測因子でもあり、予防医学的には意義の高い健康指標です。

今後も汎用されると思われる主観的健康観ですが、若年層と中高年齢層との設問を使い分けることで、より効果的な健康指標になるエビデンスを提示できたと思います。

 

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今後の目標について

編集部:栗岡様の研究における最終的な目標を教えてください。

栗岡様:私は、産業保健(働く人の健康管理)の現場で長く働いていた経験から、最終的には研究成果を産業保健の現場で使える形で提供したいと思っています。

 

編集部:今後はどういった研究を進めていく方針なのでしょうか?

栗岡様:先行研究の成果を、現場で使える教育プログラムや指導するためのツールとして提供できるような研究を進めたいと思います。そのためには、産業保健の現場に入り、産業保健スタッフ(産業医や看護職など)だけでなく、従業員や管理職の方からもニーズも把握していきたいと思います。

 

健達ねっとのユーザー様へ一言

予防医学や公衆衛生の領域の中でも、産業保健で活動されている方は少ないと思いますが、現場も研究もとても興味深い分野です。保健医療分野ではありますが、産業というビジネスシーンで活躍するためには、経営学や働く人たちの考え方を理解する必要があります。そのために最初は戸惑うことも多いですが、慣れると臨床よりも視点が広がり、人や集団を広い視野で把握しながら、ビジネスの手法を活用して保健活動を展開できるワクワク感があります。

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薬の使い方

桃山学院教育大学 人間教育学部 教授

栗岡 住子くりおか すみこ

保健師
公認心理士
専門社会調査士

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