スポンサーリンク
研究内容について
編集部:「高校男子アイスホッケー部員への栄養サポート」についての研究内容とその研究成果について教えてください。
山﨑様:アイスホッケーはコンタクトスポーツであり、当たり負けしない頑丈な体が求められます。筋力面での発達が大きい時期の高校男子アイスホッケー選手の身体づくりと食事改善を目的に、インターハイ優勝経験がある高校トップクラスのアイスホッケー部員27名を対象に6ヶ月間の栄養サポートを実施し、身体測定、食事調査等による介入前後の比較を行い栄養サポートの効果を検証しました。
栄養サポートは、食事調査、定期的な身体計測のほか、「からだづくりの食事」や「試合期の食事」などをテーマとした講義や演習を5回実施しました。さらに選手だけではなく保護者に対しても食事調査結果のフィードバックを行い、食事管理に対する協力要請をしました。
栄養サポートによる身体組成の変化は、夏場のからだづくりの時期には体脂肪率が有意に減少、骨格筋量を反映する除脂肪量が有意に増加し良好でしたが、6ヶ月後の12月の測定では身体組成は介入前の状態に戻りました。シーズン中は試合が多くなる分、トレーニング時間が少なくなるため、夏場につくりあげたからだを維持できなかった選手が多く、トレーニング内容と時間が身体組成に影響を与えたことが示唆されました。
食事調査や栄養講義の実施により、食事改善の意欲が高まり栄養管理の必要性も介入前より高くなり、過剰摂取だったエネルギー、脂質、穀類、菓子が有意に減少するなど体脂肪と関連のある項目は改善がみられました。不足していたビタミン、ミネラル摂取量は改善されず、いずれも個人差がみられました。栄養教育内容はおおむね理解していましたが、行動変容については骨格筋増加に結びつく項目は多くの選手が高頻度で実践していましたが、主食、主菜、副菜、牛乳・乳製品、果物を揃えた基本の食事については実践頻度が低いという結果を得ました。
編集部:その研究を行った経緯を教えてください。
山﨑様:北海道釧路市は「氷都くしろ」という愛称が用いられるほど氷上競技が盛んで、多くの国内トップ選手を輩出しています。これまでスピードスケート、女子アイスホッケーに関しては釧路出身者のオリンピックでの目覚ましい活躍が報じられていますが、男子アイスホッケーに関してはジュニア期までは国際大会で好成績を残しているものの、オリンピックでは開催地枠で出場した長野オリンピック以外出場を果たすことができていないという厳しい現状があります。日本代表メンバーに多くの釧路出身者がいることからも、将来世界を舞台に活躍が期待される高校トップレベルの選手で構成されるアイスホッケー部に、栄養面からのアプローチをし、アイスホッケーに適した栄養サポートについて検証することは大きな意義があると考えました。これまで釧路を拠点に氷上競技選手の栄養摂取とパフォーマンス向上をテーマに研究を進めてきた中で、アイスホッケーに適した体格形成と栄養摂取については多くの課題があげられてきましたので、特に筋力面での発達が大きい時期である高校アイスホッケー選手の身体づくりに焦点を当てた栄養サポートについての研究に取り組むことにしました。
編集部:「釧路の小中学生フィギュアスケーターへの栄養教育の検討 (創立五十周年記念号)」についての研究内容とその研究成果について教えてください。
山﨑様:釧路の小中学生女子フィギュアスケーターと保護者に対し実施した栄養教育内容の評価と対象者のニーズを明らかにすることを目的に,アンケート調査を実施し検討しました.その結果,多くの選手と保護者が栄養教育内容を食事管理に役立てており,エネルギー補給,カルシウム摂取に関連した項目については選手の実施状況,保護者の協力状況ともに良好で,体調変化においてもスタミナアップがあげられていました.食事バランス,副菜摂取,牛乳・乳製品の摂取に改善がみられた一方で,体重・体脂肪率測定,菓子の制限については改善されませんでしたが、必要性を感じている選手が多くみられました.今後のサポート希望として中学生の4割は個別支援を強く望んでおり,知りたい情報としてあげられた項目が、太らない食事,減量の食事,おやつの食べ方が,中学生の保護者ではけが予防の食事でした.本栄養教育によりジュニア選手の食事の基礎はおおむね身につきましたが,競技特性上強く求められる体重管理についてはまだ不十分であり,中学生頃からの個別支援の必要性が示唆されました.
編集部:山﨑様が考える本研究の意義を教えてください。
山﨑様:フィギュアスケートや新体操などの審美系種目では思春期になるとウエイトコントロールに苦労する選手が見受けられます。栄養のバランスを無視した無理な減量をすることで、利用可能エネルギー不足、運動性無月経、骨粗しょう症という女性アスリートの三主徴を招くリスクが高まります。それにより疲労骨折が起こると練習を休むことを余儀なくされ競技力低下につながり、選手の目標である競技力・競技成績向上から遠ざかっていきます。そのような事象が起こらないよう、早期からの栄養教育により正しい知識を習得し、氾濫する食関連の情報に惑わされることなく栄養・食事のコントロールができる力を身に着けることはスポーツ障害予防の観点からも極めて重要といえます。しかし、これまで私が行ってきた介入研究では、対象集団全体でみると栄養教育に一定の効果がみられるものの個人差がみられるという結果でした。本研究では選手と保護者の両者に栄養教育を実施したことで、概ねバランスの良い食事を実践できていましたが、菓子は100kcalまでといった体重管理に関わる内容については、必要性は感じているものの実践率が低かったという結果を得ました。栄養バランスに関する指導は集団指導で十分な効果が期待できますが、体重管理で一定の効果を上げるためには、選手からのニーズにもみられるように個別の栄養指導の実施が望ましいことがわかりました。以上から保護者の協力体制や指導内容による集団・個別教育の使い分けといったフィギュアスケート選手に対する栄養教育の効果を上げるための因子を示すことができました。
スポンサーリンク
今後の目標について
編集部:山﨑様の研究における最終的な目標を教えてください。
山﨑様:研究テーマは「氷上スポーツ選手の栄養摂取とパフォーマンス向上に関する研究」です。現在は日本スケート連盟の強化スタッフとしてトップスケーターの栄養サポートにも携わっていますが、トップ選手が受けているような栄養サポートを誰もが受けられるような環境は整っていないのが現状です。
氷上競技の中でも私が長きにわたって関わってきたフィギュアスケートやアイスホッケー競技を中心に、研究を通してどのような栄養課題を抱えているか、またどのような介入方法が有効であるかを明らかにし、現場で活用できるものにすることが重要であると考えます。スポーツ現場で競技レベルを問わず、選手誰もが同じように栄養サポートが受けられるような体制を整えるためにも、現場で使える確かな情報となる研究結果を示すことが目標です。
編集部:今後はどういった研究を進めていく方針なのでしょうか?
山﨑様:これまでフィギュアスケートという審美系種目に関わって、心理的なストレスが食行動に影響を与えていると感じております。パフォーマンス向上につながるスポーツ栄養の研究に、心身健康科学の視点を加え、アスリートの食行動異常に関する研究に取り組みたいと考えています。アスリートは様々なストレスにさらされています。特に心理的ストレスにより摂食障害などの食行動異常を引き起こす事例が女子の個人種目や審美系種目みられます。このような背景から「こころ」と「からだ」の相関を抜きにして、これからのアスリートの栄養について考えることは難しいと感じております。食に関わるネガティブな事象を未然に防ぐための食からのアプローチ方法について、さらにストレス対処法としての食からのアプローチについて研究を進めていきたいと考えています。
健達ねっとのユーザー様へ一言
「食」という字を分解すると「人」+「良」となります。食べることは生きる上での基本であり「人を良くする」、言い換えれば「心身の健康の保持増進」という大切な要素を含んでいます。しかし、食べるものの質や量、タイミングといった食べ方の違いによって、病気につながる場合もあります。
アスリートもそうではない方も含めて、「主食、主菜、副菜、牛乳・乳製品、果物」をそろえて、バランスを整えることが食事の基本となります。いつでも栄養バランスが完璧な食事をするのは難しいと言えます。時には家族や仲間と食べたいものを美味しく食べて心を満たすことも大切です。そこで、まず皆さんにやっていただきたいのが、自分自身の食事内容を振り返り、「主食、主菜、副菜、牛乳・乳製品、果物」のうち、欠けているものはないか、摂り過ぎているものはないかをチェックし、過不足があれば次の食事で調整するという方法です。このように食事の度に振り返る習慣を身につけることで、自然に無理なく栄養バランスが整ってきます。