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研究内容について
編集部:「皮膚から骨折リスクを評価する簡便で高精度な骨粗鬆症スクリーニング法の開発」の研究内容と研究成果について教えてください。
香西様:皮膚も骨もミネラルとコラーゲンからできているので、お互いに密接に関係していると考えられています。海外の研究でも、顔のしわが多い方ほど骨粗鬆症のリスクが高いという発表がされています。そこで、私たちの研究室が持つ画像処理技術を用いて、皮膚のデジタル写真からしわ(皮溝)を分析し、そこから骨粗鬆症のリスクを判定する技術の確立を目指しています。皮溝の分析にはモルフォロジカルフィルターという特殊な画像処理を用いています。これまでに、皮溝の構造に関わる多くのパラメータを明らかにしてきました。現状、広く行われているエックス線や超音波による骨粗鬆症検査にくらべて、精度が高いわけではありませんが、簡便な皮膚の写真撮影で骨粗鬆症のリスクを判定することができれば、より多くの方に気軽に骨粗鬆症のスクリーニングを行っていただけるのではないかと考えています。
その編集部:研究を行った経緯を教えてください。
香西様:もともとは、大学院時代の指導教授が開発したエックス線画像から骨構造を解析する特殊な画像処理技術が始まりです。これは、デジタル画像から線状の構造をバックグラウンドやノイズの影響を受けずに正確に抽出できる画像処理フィルターで、エックス線画像から骨梁構造を抽出し、解析することに用いていました。この技術を用いて、エックス線画像の骨梁構造を研究していた時に、海外の研究で、顔のしわが多い方ほど骨粗鬆症のリスクが高いという研究結果を目にしました。我々の画像処理技術は線状構造を正確に抽出できる技術であることから、皮膚のしわ(皮溝)も正確に抽出できるのではないかと考え、この技術を用いて皮膚と骨粗鬆症の関係を明らかにしようと考えました。
編集部:「顎骨を対象とした反射型超音波骨強度測定装置の開発」の研究内容と研究成果について教えてください。
香西様:顎の骨の骨密度の低下は、骨折の原因になるのみでなく、歯周病などの歯科疾患のリスクファクターになると考えられています。しかしながら、顎骨は複雑な形状をしているため、直接骨密度を測定する手法は開発されていません。通常、骨密度の測定に用いられている骨は、大腿骨や腰椎、踵骨などです。大腿骨や腰痛はエックス線で、踵骨は超音波検査で測定されることが多いです。踵骨を超音波検査で測定するときは、骨を透過する超音波を測定するのですが、そのためには、骨をはさむように超音波の発信機と受信機を設置する必要があります。この手法で顎の骨を計測しようとした場合、口の中に発信機または受信機を入れる必要がありますが、発信機や受信機のサイズから考えて不可能です。そこで、口の中に反射板を設置して、その反射板で反射してきた超音波を分析することで、骨密度を測定することが出来ないかと考え、装置の開発をしております。試作機を作り、顎骨の骨強度を測定し、エックス線画像との比較等を行いましたが、使われる場面が限られていることなどから実用化には至っておりません。
編集部:香西様が考える本研究の意義を教えてください。
香西様:現在の超高齢社会において、骨粗鬆症の患者増は大きな社会問題となっています。骨粗鬆症の方は骨折するリスクが高く、高齢者の骨折は寝たきりの大きな原因となり、QOLを著しく低下させます。骨粗鬆症には優れた治療法があり、また、骨折の予防法も多くあります。しかしながら、そのような適切な予防法や治療法に至ることなく、気付かない間に骨粗鬆症を患い、骨折して初めて気付く方もいます。多くの方に早期に自らの骨粗鬆症のリスクを把握していただくことで、適切な予防や治療に結びつけることができます。そのことは、個人のQOLの向上に寄与するだけでなく、今後増え続ける医療費の削減にも貢献できるのではないかと思っています。本研究では、そのような目的から、より多くの方に、気軽に行っていただける骨粗鬆症のスクリーニング法を開発しています。
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今後の目標について
編集部:香西様の研究における最終的な目標を教えてください。
香西様:最終的な目標は、画像処理を中心とした我々の技術を用いて、健康寿命の延伸、QOLの向上に寄与することです。これまでは骨の構造解析など、骨粗鬆症の研究が中心でしたが、画像処理の技術はあらゆる分野に応用可能なものですので、幅広い研究分野に我々の技術を応用して、新しいイノベーションを作り出していきたいと思います。
編集部:今後はどういった研究を進めていく方針なのでしょうか?
香西様:これまでに行ってきた画像処理技術による骨の構造解析をより発展させることを考えています。エックス線やCTに限らず、MRIなど、様々な画像から骨のより詳細な分析の可能性を探りたいと思っています。加えて、近年注目度の高いAIを用いた分析手法の開発にも着手しております。また、分野は大きく異なりますが、本学(神奈川歯科大学)における教育改革についても、近年は力をいれて取り組んでいます。現在、私は教育企画部という部署で新時代の歯学教育カリキュラムの構築を行っております。将来の優れた歯科医師を育てるために、新しい歯学教育のあり方についての研究も進めてまいります。
健達ねっとのユーザー様へ一言
自身の健康に関心があることは大変素晴らしいことです。自身の心身に関心があることは、健康長寿の第一歩です。骨粗鬆症に関していえば、いつまでも自分の足で歩き続けることが目標になるかと思います。そのためには、日ごろからの適切な食事と運動が欠かせません。また、自らの骨の状態を知り、お医者様から適切な治療や指導を受けることも大事かと思います。