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研究内容について
編集部:「IADL訓練の実践における脳卒中後の抑うつ傾向に及ぼす要因」についての研究内容とその研究成果について教えてください。
西田様:この研究は、地域の機能訓練事業において、IADL訓練を受けている脳卒中の抑うつ傾向に影響を及ぼしている要因を明らかにし、作業療法士が実施したIADL訓練の有用性について検討したものでした。平均年齢(57.3±6.2歳、男性24名、女性4名)の抑うつ傾向についてBDI-Ⅱという抑うつ尺度を用いて調査しました。また、対象者の生活状況の聞き取り調査を行ったところ、就労への希望、家族関係の悩み、手足の麻痺があるため片手での生活が困難であることが挙げられました。このような生活状況の困難さが抑うつ傾向と関連があるという仮説を立てて、IADL訓練の内容として、①調理、②外出練習、③音楽運動療法(ケア・トランポリン)、④参加者同士で健康行動についての話し合いを6か月間にわたり実施しました。
その結果、訓練開始前よりも6か月間の訓練後の方が抑うつの改善が認められました。抑うつだけではなく、バランス能力の向上、IADLの能力(作業遂行能力)の向上も認められました。
編集部:その研究を行った経緯を教えてください。
西田様:IADL訓練に携わっている中で、6カ月経過する頃には対象者が元気になっていることに気がつきました。脳卒中の約3分の1が急性期から回復期に抑うつを発症することが分かっています。この訓練事業の対象者の多くは、急性期病院および回復期病院でのリハビリテーションを経験していました。しかし、麻痺などの後遺障害は残ったまま、自宅での生活をしている方ばかりでした。年齢が50歳代から60歳代と比較的若いだけに、就労の問題、経済的な問題、家族関係、セルフケアの自立などにおいて、大変な不安を抱えていました。抑うつ状態が改善しない場合は、認知症を発症しやすくなるといったリスクも生じます。
機能訓練事業に参加を開始した初期評価の時期には、抑うつ傾向を示していました。単に身体機能訓練を中心に実施することよりも、生活状況の聞き取り調査を行い、何が抑うつの原因となっているのか、病気に伴う生活状況の変化に着目して、プログラムの立案を試みました。つまり、抑うつを改善させることでその後の訓練の効果がさらに上がり、生活状況の改善が見込めると判断したからです。
編集部:「訪問リハビリテーション利用者における作業療法プログラムの特性が健康関連QOLに及ぼす影響―OTIPMに基づく分析―」についての研究内容とその研究成果について教えてください。
西田様:この研究は、訪問リハビリテーションで実施している作業療法プログラムが健康アウトカム(健康関連QOL)にどのような影響を及ぼしているのかについて調査をしたものです。訪問リハビリテーションを利用していた高齢者30名(81.3±6.5歳、男性11名、女性19名)が実施した訪問リハビリテーションプログラムを内容別に分類をしました。訪問リハビリテーションでの対象者との関わりは、画一的なプログラムではなく、対象者の自宅で、対象者の生活にとって本当に必要な内容のプログラムを精査して実施するものであり、そのプログラムの内容については多岐にわたるものとなります。この研究では、筋トレなどの身体機能訓練を実施した方(14名)、趣味活動など対象者が好きな作業のみを用いて訓練を実施した方(6名)、家屋の改造や自助具を作成して訓練を実施した方(10名)について、プログラムの内容別に健康関連QOLの傾向をSF-8という調査票を用いて測定しました。その結果、身体機能訓練を実施した方は、健康関連QOLの中でも身体機能、全体的健康観、活力において点数が高い傾向であることがわかりました。家屋の改造や自助具を作成して訓練を実施した方は、身体機能、日常役割機能―身体、活力において点数が高い傾向にあることが分かりました。
編集部:西田様が考える本研究の意義を教えてください。
西田様:高齢者の訪問リハビリテーションの究極の目標は、QOLを高めることであると言われております。作業療法士が実施するプログラムは、対象者の生活に即した内容のプログラムを検討することで、QOLを高めることにつながると考えました。本研究では、身体機能の維持や向上を希望する方においては、自宅環境を利用した筋力向上訓練や屋外歩行において持久力を向上させる訓練を実施しました。それにより、身体機能に関するQOLの向上を認めました。また、家屋の改造や手すりの設置によって自宅生活が快適になった方や、自助具の作成によって、食事が自立した方も見られました。単に好きな作業の支援のみのプログラムでは、QOLの向上は認められませんでした。好きな作業を行っただけでもQOLは向上すると思っていたのですが、この点にはさらに説明が必要となります。好きな作業を行うことは良いのですが、併せて生活機能を落とさないためのプログラムの実施も必要であったということがわかりました。
訪問リハビリテーションにおける関わりでは、対象者が生活の中で何を希望しているのかについて把握するためのアセスメントが重要となります。このアセスメントによって提供されるプログラムの実施により、QOLの向上が期待できることが分かった研究です。
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今後の目標について
編集部:西田様の研究における最終的な目標を教えてください。
西田様:高齢者とかかわるときに、作業療法士としてどのようなプログラムを実施したら良いのだろうか?効果があったとしてもそれはなぜなんだろうか?という疑問を抱くことがあります。つまり、人の日常の作業は多岐にわたるのですが、何気ない日常の中に健康的な要因あるいは不健康要因を持つ作業を行っていることに気がつくことが大切だと思います。
いずれにせよ、人がある作業活動を行う際には、人との交流が生まれますし、体も心も使います。人の意識というのは非常に複雑で、自分が楽しくて、自分の役に立って、人のためにも役立ってこそ価値を見出すことができます。このような健康的な要因を持つプログラムを提供できれば良いと思っています。
編集部:今後はどういった研究を進めていく方針なのでしょうか?
西田様:最近では、「遊びを科学する」というテーマで研究を進めています。例えば、トランポリンを音楽を聴きながら跳躍した時や、けん玉を行っている時の脳血流の測定や筋電図の測定も実施しています。このような運動を行ったときに、前頭葉の背内側前頭前野という領域が賦活されることがわかりました。高齢者の健康に対して様々な効果が期待できると思いますので、データを集めていきたいと考えております。このようなプログラムが、日常生活にどのように影響するかについて、研究を進めていきます。
健達ねっとのユーザー様へ一言
作業療法士が行った研究の中には、趣味活動は心のQOLを向上させる効果があったという報告があります。自宅で誰もが簡単に始めることができる「けん玉を使った運動」は、上達が目に見えて実感できます。楽しみながら体を使うことは、心の健康にも役立ちます。うつの予防や認知症の予防につながるでしょう。