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【専門家インタビュー】健康につながる食習慣に関する研究

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研究内容について

編集部:「疲労診断バイオマーカーの探索による疲労予防食品開発への展開」についての研究内容とその研究成果について教えてください。

湊様:本研究は,「疲労」という主観的ともいえる疾患を,正確かつ簡便に診断する方法を確立させようという非常にチャレンジングな課題でした。私たちは,精神的な疲労を回避することに注目しています。疲労の診断には血液中のコルチゾールなどのストレスホルモンの分泌量を指標とすることが考えられますが,私たちが疲労感を感じる根底には,神経免疫系の「炎症」による恒常性の破綻があるとされます。そこで,免疫細胞と疲労の関係に着目して,免疫細胞から分泌される炎症性サイトカインと呼ばれるタンパク質類を測定して,どのようなサイトカインが「精神疲労」の簡易的かつ客観的なバイオマーカーとなり得るか調査しました。さらに,その炎症性サイトカインの生成を抑制する,「疲労予防食品成分」を探索することを本研究の目標としました。

本研究では,神経免疫系細胞として重要な働きをする「脳内ミクログリア細胞」,「樹状細胞」,「単球」といった各種免疫細胞に,LPS(リポポリサッカライド,グラム陰性菌の細胞壁成分)を作用させて炎症を誘導させ,それらから分泌されるサイトカイン類を測定しました。その結果,TNFIL-6CCL2, CCL3, CCL8, CXCL9, CXCL10, LTAの産生が確認され,これらのバイオマーカーとしての実用性が期待されました。

一方,これらサイトカインの産生を抑制する食品成分については,私たちは食用キノコの機能性グルカンの作用に注目しています。本研究では,マイタケやナメコのグルカンに,抑制効果が認められました。さらに興味深いことに,タモギタケと呼ばれるキノコ中グルカンでは,先に挙げたサイトカインの産生には影響を及ぼしませんでしたが,炎症反応を抑制することが知られているIL-10というサイトカインの産生を増強させることが分かりました。このことから,このキノコにも疲労感の予防効果が期待できると考えています。

 

編集部:その研究を行った経緯を教えてください。

湊様:当時,生活習慣の変化による慢性的・精神的「疲労(ストレス)」が,我が国の活力を減退させると危惧されており,その対策が急務とされていました。私たちは,「食育政策」が浸透しつつある状況に鑑みて,「食事による疲労予防」の実現が,日本の全国民に対して非常に意義深いものになるのではないかと考えました。そのためには先ず,「疲労」というものを判定しないといけないため,そのためにバイオマーカーの探索に着手しました。すでに,「疲労」は脳内神経細胞の炎症により,誘発されると考えられていました。一方私たちは,免疫研究の方面から,神経系においても重要な役割を持つ脳内マクロファージを使って,食品成分の炎症抑制効果を調べていました。そこで,脳内の免疫系での炎症誘導物質を指標にすれば,疲労の客観的な判定が実現できると考えました。そして,食品成分により,その炎症を抑制することができれば,抗ストレス食品の開発が実現できると考え,本研究に着手しました。

 

編集部:「各種食品成分との相互作用による機能性糖鎖の免疫調節機能の増強と展開」についての研究内容とその研究成果について教えてください。

湊様:本研究によって,免疫調節作用が注目されている食用キノコ中機能性βグルカンは,その生理活性が他の食品因子との相互作用を介して調節されていること,また調理方法の違いによる影響をさほど受けないことが明らかとなりました。本研究では,他の食品成分との相互作用により,キノコβグルカンが本来持っている免疫調節作用が,どう変化するかを調査しました。

βグルカンの機能として以下のことが示されました。

① 腹腔マクロファージに対する免疫調節作用

タモギタケおよびナメコから分離・精製したβグルカンは,すでに活性化されたBALB/cマウス腹腔マクロファージをさらに刺激し,TNF-αやIP-10などの産生を促進して,細胞性免疫を誘導するTh1型応答を増強することが示唆された。

② 脾臓中リンパ球に対する免疫調節作用

 上記作用が実際にTh1誘導を起こすかどうか,各食用キノコ子実体をBALB/cマウスに一定期間摂食させて,Tリンパ球の分布とサイトカイン産生パターンを,FACS解析およびウエスタンブロット法により測定した。その結果,IFN-γ産生の増強とIL-4産生の抑制という,Th1優位の生体内変化が確かに誘導されていた。

 そしてこの作用について,増強させる成分としてグアニル酸などの核酸(うま味成分)がありました。一方で,過剰な作用を抑制する成分としてビタミンDの作用が認められました。

 

編集部:湊様が考える本研究の意義を教えてください。

湊様:本研究での成果により,私たちが生涯を通して健康であり続けるための「メニュー」や「食べ方」を示すことができると考えています。これまでに,多くの機能性成分や機能性食品が開発されて,現在利用されています。それらは,日常的に口にする食品中に含まれる成分であることが多いため,その食品自体にも同じような効果が期待できると考えがちです。しかし,「一般的な食品」には,様々な成分が含まれるため,成分同士の相互作用(食べ合わせ)を考慮にいれないと,本当の有用性は評価できないと考えます。また,機能性の面からの「効果的な調理方法」も示す必要があると考えます。本研究のような取り組みは,普段の食生活を工夫することで,疾病予防が実現できることが示されるという点で,非常に有用なものであると考えます。

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今後の目標について

編集部:湊様の研究における最終的な目標を教えてください。

湊様:私たち人類が自然治癒力を高めて,健康で長生きできるために,そこに貢献できる食生活(食習慣)を探索し続けたいと思います。そのために,私たちの持っている免疫系の働きを,十二分に発揮できるような食品成分を見出して,病気(疾病)やケガの予防だけでなく,回復(快復)や治癒も期待できる食品を見つけたいと考えています。またケガや事故などで損傷した身体組織や神経の修復も実現できる食品成分の探索も見据えています。それら成分と,生体内の細胞群との相互作用(ネットワーク)の全容を明らかにして,最終的には,私たちは人生全体を通して,何を,いつ,どのようにして,食べたら生涯健康を維持できるのか,明らかにしたいと思います。

 

編集部:今後はどういった研究を進めていく方針なのでしょうか?

湊様:食品成分と生体内細胞群との相互作用の解明においては,すべての体内組織に分布するマクロファージに対する作用に着目しています。マクロファージにはいくつかの分化型があり,その多様性が,疾病の発症に大きく関わっています。また筋組織や骨組織の構築にも,関わっているとされています。そこで当面は,マクロファージ分化に焦点を当てて,その分化メカニズムの解明と,食品成分による制御作用について明らかにしていこうと考えています。また生涯を通した健康的食生活の構築については,現在参画中の弘前大学医学部が主管するCOIプロジェクト「岩木健康増進プロジェクト」を通して,我が国民の食生活と健康との関連性からのアプローチで探っていく予定です。

健達ねっとのユーザー様へ一言

編集部:健達ねっとのユーザー(自身の健康に関心がある方、健康を維持したいと考えている方)に何かメッセージをお願いいたします。

湊様:健康維持には,「食事」「運動」「休息」が重要です。食事は私たちが生きていく上で必要なエネルギーを得たり,体調を整えるために不可欠なものですが,その働きを最大限発揮するためには,運動や休息が必要です。みなさんも可能な限り,どれか一つだけを気にするのではなく,「食事」「運動」「休息」の全てをバランス良く行って,健全な生活を末永く営むことができるよう心掛けて下さい。しかしながら,何らかの原因によってこの三者のバランスが維持できなくなった時に備え,私たち食品機能の研究者は,これら三者の関係性をもっともっと明らかにしていき,「運動」と「休息」が不十分なところを,「食」でカバーすることを目指し,皆が健康で長生きできる社会の構築に貢献していきたいと思います。

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薬の使い方

名城大学 農学部 応用生物化学科栄養・食品学研究室 教授

湊 健一郎みなと けんいちろう

日本農芸化学会 会員
日本免疫学会 会員
日本フードファクター学会 評議員

  • 日本農芸化学会 会員
  • 日本免疫学会 会員
  • 日本フードファクター学会 評議員

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