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認知症の脳活性化リハビリテーションで、人生の達人に 

群馬大学 名誉教授 

山口晴保 先生 

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認知機能が低下すると、生活管理や生活行為が難しくなる 

 認知症は、認知機能が低下して生活管理(金銭・服薬などの管理)が困難になった状態です。
進行すると生活管理に加えて、生活行為(着替え・排泄)もうまくできなくなります。
このような状態にある人にリハビリテーション(リハ)を行おうとしても、モチベーションが上がらず、乗ってきてもらえません。 

そこで実践してほしいのが、「脳活性化リハビリテーション5原則」です。
私が考案したこのモチベーションアップ術は、認知症介護におけるリハの場面だけでなく、日常的なケアのときにも、また、健常な人との絆の構築においても役に立ちます。
万能の処世術なのです。 
本稿では、この5原則について解説します。 

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相手が“忘れることの自覚に乏しい”ことを理解しよう 

具体的な話に入る前に、認知症の中でも最も多い「アルツハイマー型認知症」の人の特徴を一つ押さえておきましょう。
それは、認知症である本人が、「自分が病気・認知機能が低下していると、(あまり)思っていないこと」です。 
専門用語ではこれを「病識低下」といい、認知症ケアでは必須の知識です。自分の認知機能の状態を、正確に把握できていないのです。 
 
たとえば、アルツハイマー型認知症の人の場合、自己洞察が困難で、自分の能力を実際よりも過大評価します(できないのに「できる」と言い張るなど)。
そして、“自分が忘れるとは思っていない”ので、しまった場所を忘れているのに「○○がない。おまえが盗った! 返せドロボー」などと言い出します。 

また、内服薬を自分でちゃんとのめなくなっていても、「大丈夫だ、できる!」と言い張り、ケアを受け入れてくれません。
さらには、運転が危険になっても、「問題ない!」と、免許返納を嫌がります。 

これらの背景にあるのが病識低下です。
アルツハイマー型認知症の特徴は「物忘れ」と言われますが、本当の特徴は“自分が忘れることの自覚に乏しい”ことなのです。 

単に記憶が悪いだけなら、服にメモを貼り付ける、手に書いておく、メモ帳に紐をつけていつも持ち歩く、などで記憶障害をカバーできます。
ところが、障害の自覚が乏しいアルツハイマー型認知症ではそういった対策(自己防衛行動)がとれず、生活に支障をきたします。 

このように、自分が病気だとは思っていない人に対し、薬を勧めれば「不要だ」と断られ、リハを勧めても「やらない」と断られてしまいます。
そこで冒頭に戻りますが、脳活性化リハビリテーション5原則は、そういう場面で活きてきます。 

5原則は、 ①快刺激(“今楽しい”や“いつも楽しい”ことが笑顔を生み、意欲を高める)、②コミュニケーション(双方向の楽しい会話が安心と絆を生む)、③役割(役割や日課が廃用を防いで生きがいを生む)、④褒め愛(褒め合うことがやる気を生む、感謝し合う・認め合うことで生きがいが生まれる)、⑤失敗を防ぐ支援(自己効力感を高めて尊厳を守る)、の5つです([表])。一つずつ紹介します。 

5つの原則で、相手のモチベーションを高めよう 

快刺激 

 人間をその気にさせるためは、モチベーションアップが必要です。その鍵が「ドパミン」という、脳のご褒美(報酬系の神経伝達物質)です。 

たとえば、甘いものを口にすると、ドパミンが出てきて嬉しくなります。だから、再度甘いものを手に入れたいと脳は学習します。
こうして人類は、餓死せずに生き延びてきました。 

性的な刺激でもドパミンが出ます。
こうして人類は、子孫を残し、繁栄してきました。 
このように、ドパミンは欲望と結びついており、“快”を手に入れるために行動します。
認知症になってやる気が起きないという場合も、楽しいことなら参加意欲が高まります。 

健常者は、「あとでご褒美を出すから、今は我慢して」に対応できます。
たとえば、「今はつらいけど、我慢して訓練すれば、のちに成果が現れ嬉しくなる」と、明るい未来を期待して“今”を頑張れます。 

ところがアルツハイマー型認知症の人の場合は、本人の中で時間軸が消えていて、未来を期待することが困難です。
ゆえに、「少し我慢して」は通じません。“今楽しい”、そして“今”だけを生きているので、リハをはじめ、何かを提案するときには“いつも楽しく”が第一の原則となります。 

コミュニケーション 

 認知症の人は、過去を思い出せない、未来がない、そして不安を感じながら、さまよえる“今”を生きています。 
そこで、楽しい会話や、互いに相手を思いやる気持ちを持った、双方向の楽しいコミュニケーションを心がけましょう。相手との間に共感や安心が生まれ、絆が深まります。 

役割 

 日課や役割がある、そして生きがいを感じられることが大切です。
認知症があるからと、本人から役割を取り上げるのではなく、認知症があってもできることを探してみましょう。 

ポイントは、仕事をすべて任せるのではなく、できる部分を手伝ってもらうこと。
たとえば、調理であれば「これを切ってもらえると助かります」と、手伝いを依頼します。
依頼するときは命令ではなく、「あなたが○○してくれると、私が嬉しい」という表現が基本です。 

褒め愛 

 役割を演じてもらったら、感謝を伝えましょう。
これが「褒める」です。褒められた側だけでなく、褒めた側の脳でもドパミンが放出され、双方が嬉しくなります。互いに感謝し合えば“褒め愛(合い)”で、効果倍増です。 

もし褒めることが見つからなかったら、「あなたが居てくれて嬉しい」と、相手の存在に感謝しましょう。この言葉は、認知症の人には特効薬です。
本人は、普段は存在を否定されていると感じているからです。 

褒めることや感謝することが苦手な人は、意味を考えずに「あなたが居てくれて嬉しい」と伝えてください。念仏と一緒です。
何度も唱えているとご利益があります。ぜひ、ご家庭で実証実験を。 

失敗を防ぐ支援 

 人間、失敗すると落ち込みます。
影でちょっと支援をして、失敗を防ぐようにサポートします。 
とはいっても、本人の作業を取り上げてしまうのではなく、本人が達成感を得られるようにさりげなく支援して、失敗体験を減らし、自己効力感を高めることが大切です。 

リハやケアに留まらず、近しい人とのコミュニケーションにも有効 

いかがでしょうか? 
この脳活性化リハビリテーション5原則は、冒頭でもお伝えしたとおり、認知症の人に関わるときだけでなく、皆さんが家族や仲間と過ごすときも有効です。
笑顔を絶やさず(笑顔を見た人は笑顔になります)、楽しいコミュニケーションで場を盛り上げ、ほかの人に役割を譲り、褒めたり感謝したり、さりげなく支援する。
これができれば、もうあなたは人生の達人ですね。 

脳活性化リハビリテーションを動画で見たい方は、YouTubeで「山口晴保」と検索してみてください。
漫才形式の楽しい動画で学べます。
もっと知りたいという方は、山口晴保著『認知症の正しい理解と包括的医療・ケアのポイント 第4版』 協同医書出版社 (2023年5月発売予定)をお読みください。 

[表]脳活性化リハビリテーション5原則 

項目 概要 
快刺激 「今」が楽しい・いつも楽しい そして笑顔 (ドパミン) 
コミュニケーション 双方向コミュニケーションで社会性を高める 不安が低減する、共感で安心と喜び、絆 
役割 参加者に役割があるプログラム 参加を促進し、生きがいを創出し、尊厳を守る 
褒め愛 褒め合うことで、ともに報酬系(ドパミン)が働く 感謝し合う も有効 
失敗を防ぐ支援 成功体験で自信を高め、意欲向上 エラーレス・ラーニングで尊厳を守る 
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薬の使い方

認知症介護研究・研修東京センター 群馬大学名誉教授

山口 晴保ヤマグチ ハルヤス

認知症介護研究・研修東京センター・センター長
医学博士(群馬大学)

  • 認知症介護研究・研修東京センター・センター長
  • 医学博士(群馬大学)

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