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【ドクターズコラム】エンジョイ・エイジング ~前向きに物事をとらえて楽しく生きる~

岐阜薬科大学

原 英彰 先生

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認知症は、要介護状態を招く大きな要因のひとつ

認知症とは、学問的にいえば「慢性あるいは進行性の脳疾患によって生じ、記憶、思考、見当識、理解、計算、学習、言語、判断など多数の高次脳機能障害からなる症候群」と定義されています(*1)。簡単にいえば、脳の細胞がさまざまな原因により減少し、それに伴って記憶力が悪くなる病気です。

わが国において、認知症患者数は2025年に730万人 (高齢者人口の約20%) にまで増加すると推計されています(*2)。また、65歳以上の要介護者における〈介護が必要になった主な原因〉について、認知症が最も割合が高く、男性で15.2%、女性で20.5%というデータもあります(*3)

今後さらなる高齢化社会の進展が予想されるわが国において、認知症患者数の増加とともに、医療費、介護費のような社会的負担の増加が予想されます。そのような背景の中、いかに認知症患者数を少なくするかが、国としての喫緊の課題です。

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平均寿命が延びる中、いかに脳の老化を予防するかが重要に

日本人の平均寿命は1950年では男性58.0歳、女性61.5歳でしたが(*4)、2020年では男性81.6歳、女性87.7歳と、この70年間でそれぞれ23.6歳および26.2歳も延びています。これは大変素晴らしいことです。しかし、脳以外の臓器(たとえば、胃、腸、肝臓、心臓など)は、薬や食事、健康増進などによって病気にかかりにくくなってきましたが、脳の老化は、そう簡単には抑えられていません。

そのことをふまえて、今回は、認知症に関してみなさんが抱きやすい疑問にお答えしたいと思います。

【Q1】認知症は、薬で予防あるいは治療できる?

【A1】根本的な治療薬はまだありません。

予防としていくつかのサプリメントが販売されていますが、効果は定かではありません。また、治療薬として、日本では4種類の薬が使われています。いずれも症状の進行を遅らせるのみであり、根本的な治療薬はまだ存在しません。

【Q2】薬による認知症の予防や治療が難しいのはどうして?

【A2】ほかの臓器と比べると、脳の薬は効果が出にくいためです。

脳は、ほかの臓器と比べて構造が極めて精密で、いろいろな神経細胞からできており、ほかの臓器と比べると薬の効果が出にくいといえます。さらには、脳の病気の解明が十分にできていないことも関係しています。

【Q3】薬の開発や、病気の解明ができるまで待つしかない?

【A3】そうではありません。脳の細胞を元気にすることが予防になります。

認知症は、脳の細胞が死んでいく病気です。脳の細胞が死なないように、細胞を元気にしていけば、脳の老化はある程度防ぐことができます。

【Q4】「脳の細胞を元気にする」って、具体的にはどうすればいい?

【A4】物事を前向きに考える、“ポジティブな生き方”を心がけましょう

私たちは、一日で考えることのうち、95%は毎日同じことを考えているそうです。しかもその80%はネガティブな事柄です。我々人間は、本来ネガティブな考え方をする生き物なのです。なぜならば、年をとってくると、少し体調が悪いだけで「病気になるのではないか」、「死ぬのではないか」といった不安を抱きやすくなるからです。悪い経験(記憶)のほうがいい経験よりも残ってしまうのです(*5)

しかし、これをポジティブの回路に変えることが大切です。病気になる前から病気のことばかりを恐れて考えていても仕方がありません。「私の家系は認知症になっている人が多いから、私もそうなるのではないか」と不安に思うのではなく、「病気にならないように生活を変えていこう」というような、前向きな考え方に持っていく生き方、“ポジティブな生き方”が大切です。脳が喜ぶこと、つまり「笑う」、「感謝する」、「幸せを感じる」。そういったことを、毎日の生活で積極的に脳のために取り入れましょう(*6)

また、約一万人の18歳以上の方を2年間調査した研究によれば、人生に満足した人のほうが病気にならないと言われています(*7)。

【Q5】“ポジティブに生きる”といっても難しい。ほかにもできることはある?

【A5】脳が老化しないよう、脳を“使って”鍛えましょう

 ポジティブに生きるとは、自分の考え方を変える、つまり、ネガティブな性格からポジティブな性格に変えることです。しかし性格を変えるというのは、そう簡単ではありません。

では、どうすればよいのでしょうか? そこで大切なのが、脳が老化しないように鍛えることです。

「脳を鍛える」なんて大変では、と思われるかもしれませんが、そんなことはありません。脳を使う、脳が喜ぶことや楽しむことをやるのです。たとえば、パズル、数独、読書、カラオケなどの脳トレーニングがそれに当てはまります。いずれも、自分に興味があることをやるのがコツです。

そのほか、運動は最良の薬ともいわれています。「歩くことは人間にとって最良の薬」とは、紀元前460年、医学の祖・ヒポクラテスが言った言葉です。

週5日以上、毎日1万歩以上歩くと、高血圧、動脈硬化に効果的であることが分かっています。そのうち習慣化すれば、無理なく毎日ウォーキングを行えるようになります。目的を「ウォーキングをする」ことに限定せず、ほかの自分の趣味(写真、神社仏閣巡り、史跡巡りなど)と結び付けてもいいですね(*8)

江戸時代に84歳まで長生きした儒学者・貝原益軒の著書「養生訓」の中には、「腹八分目がいい」、「食べたら歩くこと」、「病にかかることのないことを快く楽しむ」、「長寿を全うすることを楽しむ」などと書かれています。

【Q6】自分の将来も心配だけど、親のことも心配。介護はやっぱり大変?

【A6】“大変”な中から、“楽しいこと”を見出していけば大丈夫。

 最近、私のまわりの方々から次のようなことを聞きます。「親の面倒を見ないといけない」、「親の記憶力が悪くなってきた」、「介護しないといけない」、「親は一人暮らしで遠くにいるから心配だ」……などです。介護施設や、そこにいる介護士の方々に助けていただいて、何とか生活しているのが現状かと思います。

介護は、「大変だ」から「楽しい!」と思い、行動することが出来れば最高です。もちろん介護は大変なことばかりです。大切なのは、その中から、楽しいことを見出していくこと。親の面倒を見られることは、ありがたいことでもあります。親が早く亡くになってしまって介護できない人もいます。

また、そのような行動は、自分の子供やまわりの方々がちゃんと見ています。優しい言葉、行動は、いずれ自分に返ってきます。

認知症予防には、“今”と“老後”を前向きに楽しむことが大切

年を取っていけば、体のいろいろな所が老化していきます。これは自然の摂理です。視力の低下、聴力の低下、尿失禁、骨折しやすくなる、肌にしわやシミが出来てくる、足腰が弱くなってくるなどです。

脳も同じことです。認知機能(記憶力)の低下が誰にでも年齢とともに起きてきます。物覚えが悪い、言葉がすぐに出てこない、忘れやすいなどです。これが進んでいくと、認知症になってきます。認知症にならないために、日頃の脳のケアが大切です。前向きに物事をとらえて楽しく老後を生きる、老後を楽しむ、すなわち“エンジョイ・エイジング”です。今を、これからの老後を、楽しみましょう!

 

【参考文献】

*1 日本神経学会、第1章 認知症全般: 疫学、定義、用語、認知症疾患診療ガイドライン、2017年、2–17.

*2 認知症施策の総合的な推進について(参考資料)」令和元年6月20日、厚生労働省老健局

*3 平成28年 国民生活基礎調査、厚生労働省

*4 平成28年版高齢社会白書 (概要版)、厚生労働省

*5 『「脳にいいこと」だけをやりなさい!』 マーシー・シャイモフ (著)、茂木健一郎  (翻訳)、2008年、三笠書房

*6 『前向き脳でエンジョイ・エイジング!』原英彰、2011年、学文社

*7 Happiness and life satisfaction prospectively predict self-rated health, physical health, and the presence of limiting, long-term health conditions. Siahpush, M., Singh, G.K., Am. J. Health Promot, 2008; 23; 18-26.

*8 『なにはともあれ元気が一番! 知って損なし 脳・心・からだ・くすりのお話』原英彰、2019年、アンデパンダン

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岐阜薬科大学学長・教授

原 英彰はら ひであき先生

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