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健達ねっと>専門家から学ぶ>ドクターズコラム>認知症になってからも、自分らしい生活を送るために“作業療法”ができること

認知症になってからも、自分らしい生活を送るために“作業療法”ができること

石川県立こころの病院

村井 千賀 先生

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認知症の人が、住み慣れた地域で暮らし続けるために必要なこと

平成27年1月に、政府が認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)を策定しました。
これには、認知症の人が「重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができる」ことを目指すために、「実際に生活する場面を念頭に置きつつ、有する認知機能等の能力をしっかりと見極め、これを最大限に活かしながら、ADL(食事、排泄など)やIADL(掃除、趣味活動、社会参加など)の日常の生活を自立し継続できる」ような認知症のリハビリテーションの推進が提言されています。

今回のコラムでは、作業療法士の視点から、認知症のリハビリテーションの一翼を担う作業療法についてお話しします。

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認知症のリハビリテーションにおける作業療法とは?

作業療法とは、医師の指示の下に行われる非薬物療法で、身体障害者と精神障害者に対し、その応用的動作能力(起き上がりや立ち上がりなどの基本的な動作から応用した動作を伴うもの。食事、排泄など)と社会的適応能力(地域活動への参加、就学、就労など)の回復をはかることを目的に、手芸、工作その他の作業を行わせるというものです。
昨今、作業療法の治療手段である「手芸、工作その他の作業」についての解釈が、「移動・食事・排泄・入浴等の日常生活活動に関するADL 訓練、家事・外出等のIADL 訓練、作業耐久性の向上、作業手順の習得、就労環境への適応等の職業関連活動の訓練、福祉用具の使用等に関する訓練、退院後の住環境への適応訓練」とされました。

 作業療法はまさしく、認知症のリハビリテーションにおける「ADL(食事、排泄など)やIADL(掃除、趣味活動、社会参加など)の日常の生活を自立し継続できる」ための訓練を行う治療方法といえます。

 治療方法としては、認知症の方の応用的動作能力と社会適応能力の回復をはかるため、6つのポイントに注力します。
まずは、医師の診断から、障害される心身機能とリスクを把握します。
Mini-Mental Examination Measure(MMSE)などの認知機能の検査から、徘徊や妄想といった精神行動障害(BPSD)を引き起こす要因、および、障害されている生活機能(弱み)と残されている生活機能(強み)などのICF(国際生活機能分類)に基づく本人の生活機能をアセスメントします。
本人の中に残存している能力(残存能力)、または発揮できる能力を見立て、食事や排泄をはじめとするADLやIADLなどの生活行為の治療課題を明らかにします。
④③の能力については、一連の生活行為の工程を分析した上で、見立てた能力を活用し、生活行為の練習を促します。
また、直接的な訓練をするだけではなく、発揮しにくい能力を代償する道具の工夫や環境の調整を行います。
①~⑤まで行っても、生活をしていく上で必要な能力が獲得されない場合には、その能力を最大限に発揮しつつ、生活を継続するために必要なサポートを調整するなど、本人の望む生活が維持・継続されるよう、具体的に治療計画を策定し、実施します。

認知症の人のための作業療法の実際

ここからは、認知症の人のための作業療法について、実際にどのようにどのように行われているのか、また、作業療法士がどのように関わっているのかについて解説します。

基本的能力(ICF:心身機能・身体構造)を回復するために

意識などの全般的精神機能や、体力などの改善には、運動の有効性が指摘されています。
ただし、高齢者は身体合併症などから負荷の激しい運動が困難なことが多いため、1日40分程度の、筋力トレーニングやストレッチからなる、座ってできるような運動が推奨されます。
また、認知機能が低下している人には、ボールなどを使った軽スポーツやレクリエーションなど、人との交流を含む運動のほうが継続されやすい傾向があります。
そのほか、掃除や草むしりといった具体的な日常生活活動なども、身体活動として組み立てることで、体を動かす機会になります。

応用的動作能力(ICF:活動と参加、主に活動)を回復するために

次に、調理や服薬管理、日課管理、金銭管理などの複雑なADLについてです。

調理の場合は、手順を文字で調理場に掲示するという方法があります。
服薬管理や日課管理は、カレンダーやタイマー付きデジタル時計、携帯電話などを活用し、見当識(時間や場所、人物などを正しく把握する能力)や記憶などをサポートできる道具や環境を整え、残存能力を発揮できるように働きかけます。
金銭管理は、一週間で使用するお金を概ね千円単位で決める、それがなくなったら家族に相談するなどの練習を早い時期から取り組む、買った物のレシートをノートに貼るなどを習慣化するよう働きかけます。
また、掃除や洗濯、入浴、更衣などは工程をできるだけ簡素化し、掃除機からほうきへの変更や、洗濯機のボタンをわかりやすくする、風呂場に手順を掲示する、洗剤ボトルを使いやすいもの(わかりやすいもの)に変更する、洋服の種類を単一化するなど、本人の希望する生活に対し、環境を整え、日々の継続を促します。
移動能力は、日々の生活を念頭に、歩行車など適切な福祉用具の選定と練習を行います。
排泄は、自動点灯装置や手すりなど、トイレのバリアフリー化などの環境調整を行い、動作が習慣化するよう練習を行います。

そのほかにも、本人の好きな作業(絵画、音楽、手工芸、知的活動など)を選定し、その工程も分析しつつその導入をはかり、楽しみや精神的安定、自己肯定感が得られるよう支援します。

社会適応能力(ICF:活動と参加、主に参加)を回復するために

地域組織の活動やボランティア活動、趣味活動など、社会との交流のある人ほど認知症やうつのリスクが少ないといわれています。
また、人とおしゃべりをしたいのに、認知症になって言葉が出にくくなり、人と会って話すのを避けてしまうという話もよく聞きます。
作業療法では、集団での回想法やReality Orientation法などを用いて、生活に関連するさまざまな話題を通して、認知症の人が他者と交流する機会を提供します。
また、「興味・関心チェックシート」というツールを活用し、ご本人が好きな、あるいは興味のある作業を選び、それができるように環境調整を行います。
これを通して、日常生活で継続できる役割や楽しみ、就労の支援を行います。
そのほか、重度に認知機能が低下しても、車いすやクッションの調整により、寝たきりになることなく、できるだけ長く座位生活が送れるような工夫も大切です。
車いす生活ができる住環境調整や、外出に向けた工夫、ご家族への社会資源の利用などのアドバイスを行っています。

認知症の人の支援チームの一員として

作業療法士は、医療・介護における専門職チームの一員として、認知症であるご本人の能力の見立てを共有し、日常生活のし方や、介護保険の通所サービスでのプログラムの提案をします。
そして、認知症の人に対してはもちろんのこと、そのご家族に対しても、本人ができること、つまり残存している能力についての情報提供や、個々の生活に即した工夫、関わり方を助言・支援します。

認知症になってからも、役割や楽しみを継続できるような支援を

認知症になっても、これまでの生活や自分のできることが続けられることは、とても大切なことだと考えています。
私の認知症の師となったAさんは87歳でしたが、「自称18歳」。
女学校で運針が“甲”だったことが自慢で、認知症デイケアで雑巾を自分なりに縫い、庭でのほうき掃きが継続できるよう、民生委員をはじめ、地域の方々に見守りをしていただきながら、家ではそれを役割として取り組んでいらっしゃいました。
ある朝、自宅で亡くなられるまで、本当に生き生きと過ごされていました。
今後も私らしく、認知症の人がそれぞれの役割や楽しみを継続できるよう、作業療法士として支援ができればと考えています。

石川県立こころの病院 認知症疾患医療センター副所長

村井 千賀むらい せんが先生

日本作業療法士協会 常務理事
石川県士会 MTDLP委員会担当理事
石川県介護予防推進アドバイザー

  • 日本作業療法士協会 常務理事
  • 石川県士会 MTDLP委員会担当理事
  • 石川県介護予防推進アドバイザー

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