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健達ねっと>専門家から学ぶ>ドクターズコラム>認知症の早期発見における、画像診断の大切さ

認知症の早期発見における、画像診断の大切さ

複十字病院 認知症疾患医療センター長

飯塚友道 先生

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70歳を過ぎれば、誰もが認知症予備軍の時代に

2025年には730万人に達するといわれている認知症ですが、コロナ禍を経て、認知症はますます増えており、その予測を越える可能性が高くなってきました。
ちなみに、九州大学の久山町研究では、65歳以上の55%が、一生涯のうちに認知症に罹患するという予測を出しています。実に2人に1人以上です。
ということは、高齢になれば誰でも認知症になる可能性があるといえます。70歳を過ぎたら、誰もが認知症予備軍だと考えて、予防に徹する必要があるでしょう。

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認知症の進行を防ぐには、早期診断が欠かせない

ところで、「認知症は予防できるのですか?」と聞かれることがあります。
ほとんどの認知症は予防ができます。なぜなら、高齢者の認知症のほとんどは生活習慣病だからです。
コロナ禍で認知症が増えた理由について、私は「ステイホーム」したからだと考えています。
実際に、それまで5~6年間、認知症があまり進行しなかったとある患者さんが、2か月ステイホームしたために失禁をするようになり、介護が必要になってしまいました。これは非常に残念なことです。
コロナ禍で分かったのは、家に閉じこもると、たとえ家で仕事をしていても脳の働きは低下して、やがて脳は萎縮してしまうということです。

では、それを防ぐにはどうしたらいいでしょうか?
まずは、早期発見をすることです。認知症の早期発見がとても重要なのは、早期であれば、進行を予防できるからです。
残念ながら、はじめてもの忘れ外来に来られた患者さんが、すでにオムツをしているということがときどきあります。
そういった患者さんのご家族によくよくお話を伺うと、「85歳の母親は5年くらい前からもの忘れがあったけど、穏やかだったし、トイレもお風呂も入れたので、そのままにしておいたら、先月から失禁するようになった」というのです。
もの忘れが始まったという、その5年前に外来に来ていただければ、まだご自身で生活ができたはずです。
少なくとも、介護は必要にならなかったと思います。

こういった患者さんの脳の画像を見てみると、すでに脳が萎縮して、小さくなってしまっていることが多いです。
脳には「大脳皮質」といって、大脳の表面に神経細胞が集まっている部分があります。
脳が萎縮するということは、そこにあるはずの神経細胞が死んで、隙間ができてしまったことを意味します。
できれば、神経細胞が生き残っているうちに、なんとか活性化させて、脳が小さくならないようにする。
そのための、画像診断による認知症の早期発見が必要なのです。

認知症の画像診断① CTやMRIで病変の有無を調べる(形態画像)

では、画像でどうやって認知症を診断するのでしょうか?

通常、もの忘れ外来を受診された方には、日常生活の様子や、できなくなったこと、まだできること、何時に寝て何時に起きるか、昼間は何をしているか、散歩などの運動をしているか、趣味活動はどうか、いろいろな人と話をする機会はあるかなど、生活状況を詳しく伺います。
そのうえで、長谷川式スケールといった簡単な検査で、記憶、見当識や計算などの認知機能を調べます。
「どの程度忘れっぽいのか」、「日付や曜日は正確に言えるか」といった具合です。

その後、脳の画像診断を行います。脳の画像診断には2種類あります。
1つは、頭部CTや頭部MRI[資料①a、b]といった、脳の形や、脳梗塞や脳腫瘍などの病変がないかどうかを調べる検査です。
これらの検査は、主に脳の“形態”を調べるので、「形態画像」と呼ばれています。

とくに「アルツハイマー病」という病気は、認知症の原因の約6割を占めると言われており、側頭葉の内側にある「」という記憶を担う部位から萎縮することが多いのです。
画像診断をすると、認知症の手前の段階でも、この海馬(かいば)の軽い萎縮が見つかります。
そして画像診断の結果、小さな脳梗塞(「隠れ脳梗塞」と呼んでいます)が大量に見つかることもあります。
その一つひとつは1~3mmと小さいため、これといった症状は出ません。

しかし何十年もかけて何千個も集まると、認知症の症状を引き起こします。
これを、「血管性認知症」と呼んでいます。
血管性認知症は、認知症全体の約2割を占めます。ただし、この血管性認知症はアルツハイマー病と合併しやすいのです。
理由は、両方とも糖尿病などがあると2倍くらいに増えやすくなるという、共通のリスクファクターを持っているからです。
つまり、アルツハイマー病は実質的には認知症の8割くらい、ほとんど大半に関与しているといえるのです。

[資料①]

※aとbは頭部MRI画像(aでは海馬萎縮なく、bでは軽度の海馬萎縮)
※cとdは脳血流シンチグラフィー(上段は元画像で緑が低下部位、下段は血流減少部位を青で強調)
※なお、aとc、bとdは同じ患者。

認知症の画像診断② 脳の血流を画像化し、脳の働きを調べる(機能画像)

さて、この形態画像で、脳萎縮や脳梗塞などの異常がなかったら大丈夫なのでしょうか?
忘れっぽくても、脳に問題がないと言えるのでしょうか。

実は、もの忘れが始まったばかりのころは、形態画像では異常が見つからないこともめずらしくありません。

そこで、2つ目の画像診断として、「脳血流シンチグラフィー」という検査があります[資料①c、d]
これは「脳血流SPECT」ともいい、脳の血流を画像化して、脳のどの部位で血流が減少しているかを調べることができます。
脳の血流は、神経細胞が働くのに必要なエネルギー源である糖分を運んできます。
そのため、脳が糖分を摂ってしっかり働いているかどうかが、血流をみるだけで分かるのです。
脳の血流=脳の働き、といってもいいでしょう。
この検査は、脳の“機能”をみるので「機能画像」とよびます。

脳の形態にまったく異常がなくても、血流が減少して、機能低下を起こしていることが判明することは、よくあります。
この脳血流シンチグラフィーでは、症状が出る二年前には血流が減り始めている部位を検出することができます。
それほど感度の高い検査なのです。

ですから、頭部CTか頭部MRIのような形態画像だけを行って「異常ありません」と言われても、本当に異常がないとは言い切れないのです。
機能画像を実施してはじめて「異常なし」と言えるのです。
逆に、脳萎縮がなくて軽度の血流減少がみられた場合は、早期から進行を予防していき、必要に応じて薬を使う場合があります。
しかし、これほど早期に診断できた場合は、脳にはまだ余力があります。
なので散歩などの運動や趣味活動を積極的に行うことで、認知症の進行を防いでいくことができます。

ちなみに、脳を活性化する認知症治療薬は、活発な生活をしているときに効果を発揮します。
しかし、自宅に閉じこもり、朝から一日中テレビを観ていたり、ウトウトしていたりする状況では、ほとんど効果がありません。
活発に、よい生活をしている人にのみ、よい効果が現れる薬剤なのです。
そのため、効く人と効かない人の差が大きいといえます。
かぜ薬や血圧の薬のように、誰にでも効くわけではありません。
それから、認知症が進行した人にもあまり効果はありません。
その意味でも、早期診断はきわめて重要なのです。

ここまでお話ししたことのポイントをまとめると、以下のようになります。

  • Point1 70歳以上は誰もが認知症予備軍
  • Point2 ステイホームで認知症は増える
  • Point3 早期であれば、認知症の進行予防は可能
  • Point4 予防のためには、早期発見は重要
  • Point5 画像診断は“超”早期発見が可能
  • Point6 画像診断は主に「形態画像」と「機能画像」がある
  • Point7 「形態画像」に異常がなくても、「機能画像」で異常が見つかることも多い。
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画像診断のクオリティを上げるプログラムの開発も進んでいる

最後に、私たちはAIによる画像診断のプログラムも開発しました。
特に、機能画像である脳血流シンチグラフィーの微妙な所見を見抜くには、スキルがいるのです。それをサポートするAIです。
また、脳の画像診断だけでなく顔の表情からAIを用いて診断する研究も行っています(2021年1月26日読売新聞に掲載。([資料②])。
それも実用化されれば、認知症のスクリーニングにおいて、とくに運転免許更新の際に有用なのではないかと考えています。

[資料②]

薬の使い方

飯塚 友道いいづか ともみち先生

認知症専門医
脳神経内科専門医
核医学専門医

  • 認知症専門医
  • 脳神経内科専門医
  • 核医学専門医

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