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健達ねっと>専門家から学ぶ>ドクターズコラム>脳と体の健康のために“筋肉”を維持しよう

脳と体の健康のために“筋肉”を維持しよう

国立長寿医療研究センター
荒井秀典 先生

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●筋肉は、多ければ多いほど、大きな力を発揮できる

「筋肉」と「健康」。この2つの要素がどう関係するのか、ピンとこない人は多いかもしれません。
しかし筋肉は、脳や体の健康に欠かせない役割を担っています。
今回のコラムでは、筋肉と健康、すなわち“健康長寿”との関係について、わかりやすく解説していきましょう。

まず筋肉には、大きく分けて「骨格筋」と「平滑筋」があります。
骨格筋は、骨とともに骨格を維持するために必要な臓器であり、その収縮により体のさまざまな動きに関係しています。
平滑筋は、主に胃腸や膀胱などの内臓にある筋肉です。
なお、心臓の筋肉である「心筋」は、骨格筋と平滑筋の中間のような存在です。
本稿では、単純に「骨格筋」のことを「筋肉」とします。

普段の生活では特に意識することは少ないかもしれませんが、筋肉は骨とセットになっており、関節を介して我々のさまざまな動きに関連しています。
たとえば、筋肉を収縮させることによって、手足を伸ばしたり、ものを投げたりすることができます。
また、男性のほうが女性と比べて筋肉が多く、筋力も強いため、100メートル走などにおいては、男性のほうが一般的には速く走れます。
すなわち、“筋肉が多ければ多いほど、より大きな力を発揮できる”と考えてよいでしょう。

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●筋肉は20代をピークに、加齢とともに少しずつ減っていく

我々が生まれてから死ぬまでの、筋肉の変化について考えてみましょう。
生まれたばかりの赤ちゃんは、筋肉が少なく、立つことも歩くこともできません。
その状態から成長するにつれて筋肉が増え、20歳ごろまでは、筋肉は太く長くなっていきます。
そして、30歳を過ぎると少しずつ筋肉が減っていき、70歳代では、平均して20歳代の6割程度にまで筋肉が減少します。
特に、中年期にあまり運動をしないで過ごすと、筋肉が顕著に減少する可能性があります。
また、男性のほうが女性に比べて筋肉は多いのですが、加齢とともに減少するスピードも、男性のほうが速いとされています。

このように、加齢に伴って筋肉の量や機能が変化しますが、特に高齢期においては、ある一定レベル以上に筋肉が減ると、転倒したり、病気にかかったりするリスクが増えることがわかってきました。
つまり、筋肉が減ると、肺炎や感染症、糖尿病など、さまざまな病気のリスクも高まるということです。

また、筋肉が少ないと、認知機能が低下しやすいこともわかってきています。
我々が行っている研究では、握力が低い人や、筋肉が少なく歩行速度が遅い人は、認知機能が低下しやすいことがわかりました。
いっぽう、認知機能が低下している人のほうが、筋肉の働きが悪くなりやすいこともわかってきました。
一見、関係ないようでも、脳と筋肉は密接に関連しているのです。

また、高齢期においては、筋肉が多ければ多いほど、長生きできることもわかってきました。
たとえば、75~84歳の高齢者の歩く速さと、10年後の生存率を調べた研究があります。
その研究によると、普通以上の速さ(毎秒1.4m以上)で歩けるグループと、歩行速度が遅い(秒速0.4m未満)グループとを比べたところ、10年後に生存している割合に、3倍程度の開きがあったのです。
この結果は、歩くのが速い人、つまり、筋肉の量が多い人ほど長生きできることを表しています。
しかしながら、歩くのが遅い人も、運動や適切な食事などによって、速く歩くことができるようになれば、生存率を伸ばすことが可能だと考えられています。

●放置すると「サルコペニア」に。日常生活に支障をきたす恐れも

このように、筋肉が減ることは、糖尿病、認知症などの病気や、その後の余命、要介護状態と関連します。
これをふまえ、「筋肉の減少=病的な状態と認識すべきだ」という考え方が、1980年代後半から出てきました。
そして、ある一定レベル以上に筋肉が減った場合には、「サルコペニア」と診断すべきだといわれるようになったのです。
サルコペニアとは、Sarx(筋肉)とPenia(減少)というギリシャ語を組み合わせた造語で、1989年ごろにアメリカで提唱された、比較的新しい概念です。

サルコペニアは65歳以上の高齢者に多く、特に75歳以上になると急に増えてきます。
サルコペニアになると、「歩く速度が遅くなる」「転倒・骨折のリスクが増加する」「着替えや入浴などの日常生活活動が困難になる」「死亡率が上昇する」など、さまざまな影響が出てきます。

筋肉量の測定は専門の医療機関でないとできないため、正確な診断には医療機関を受診する必要がありますが、サルコペニアの有無は、実は自分でチェックすることもできます。

  • 歩くのが遅くなった(横断歩道を渡りきれない)
  • 手すりにつかまらないと階段を上がれない
  • ペットボトルのキャップを開けにくくなった

このような場合は、サルコペニアが疑われます。
また、サルコペニアが心配な人は、足のふくらはぎの周囲を計測してみましょう。
ふくらはぎの周囲が男性で34cm未満、女性で33cm未満なら、注意が必要です。
当てはまる場合は、筋肉を増やすよう、運動や食事など生活習慣を工夫することが大切です。

●筋肉の維持&増強には、“たんぱく質”と“ビタミンD”が必須

すでに筋肉が十分にある人が筋肉を維持するためには、成人の場合で、1日に体重1㎏あたり、たんぱく質1gを目安にとるようにします。
たとえば、体重が60㎏なら、1日に約60gのたんぱく質が必要です。
しかし、すでにサルコペニアで筋肉が減っており、筋肉を今以上に増やす必要がある人は、その摂取量では足りません。
成人の場合で、1日に体重1㎏あたり、1.2~1.5gのたんぱく質が必要です。
たとえば、体重60㎏なら、1日に72~90gのたんぱく質をとる必要があります。
ただし、腎臓が悪い場合は、たんぱく質の制限が必要なこともあるので、医師と相談してください。
なお、食品に含まれるたんぱく質含有量は、食品の重さと同じではないため、計算するときは注意が必要です。

また、たんぱく質とともに、筋肉にとって大事な栄養素がもう1つあります。
それは「ビタミンD」です。魚介類、卵、きのこに多く含まれています。
ビタミンDには、体内のカルシウムの吸収を促して骨を増強するとともに、筋肉の合成を促す作用があります。
また、ビタミンDは日光に当たると体内で合成されるため、日光浴も大切です。
筋肉をつけて健康を保つには、毎日の食事のメニューを工夫し、積極的にたんぱく質やビタミンDの摂取量を増やすようにしましょう。

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●“筋トレ”も大切。年齢にかかわらず、筋肉は増やせる

筋肉量の維持や増強には、運動も欠かせません。
筋肉量を維持するためには、少なくとも1日6000〜8000歩は歩くことが必要です。
そして、さらに筋力を増やすには、筋力トレーニング(筋トレ)を行う必要があります。
前述のとおり、筋肉量は年齢とともに低下しやすくなりますが、筋トレを行えば、高齢になっても筋肉を増やすことができます。
ただし、筋トレをするときは、一生懸命になりすぎて筋トレ中に息を止めてしまうと、血圧が上がってしまいます。
「1、2、3……」というふうに、数を声に出して数えながら行うと、自然に呼吸ができ、血圧が上がりにくくなるため、おすすめです。

筋肉の健康を維持することで、全身の健康だけでなく、脳の健康も保てるかもしれません。
できるだけ筋肉を減らさない生活習慣を心がけましょう。

薬の使い方

国立長寿医療研究センター 理事長 立命館大学 総合科学技術研究機構 教授

荒井 秀典あらい ひでのり先生

日本循環器学会
日本糖尿病学会
日本動脈硬化学会

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