蓮田よつば病院
鈴木如月先生
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認知症介護は、家族へのサポートが必要不可欠
認知症になる方が増加するのに伴い、介護者となる家族も増加しています。
認知症は症状の経過などを見通すことが難しい場合も多く、ご家族の負担は大きなものとなります。
そのため、家族へのさまざまなサポートが不可欠です。
早期から支援を受けることができれば、ご家族の介護負担を軽減できます。
ご家族が元気で過ごせることは、患者様本人のよい暮らしにもつながります。
ご家族へのサポートは、いろいろなところから得られます。
たとえば、かかりつけの医療機関や、そこから紹介されるほかの医療機関から受けられるかもしれません。
なかには、訪問診療を行っている医療機関もありますし、ご家庭によっては、訪問看護・訪問リハビリなどの医療サービスが有益な場合もあります。
地域包括支援センターでも相談に乗ってもらえます。また、ホームヘルパーやデイサービスなど、さまざまな介護サービスも家族の力になるでしょう。
そのほか、「認知症カフェ」など、当事者同士が話し合える場も、仲間をつくって交流したり、さまざまな知識を得たりする場として全国各地で行われています。
筆者の勤務先(以下、当院)では、診察時以外にも、ご家族からの希望や必要性に応じて、看護師や精神保健福祉士がご家族の相談に応じたり、助言を行ったりしています。その例をいくつかご紹介します。
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【ケース1】看護師からのアドバイスをもとに、本人も家族も気分よく過ごせることを目指したAさん一家
認知症になり、当院への通院を開始したAさんは、ご家族から物忘れを指摘され続け、気持ちが沈んでいる様子でした。
ご家族はAさんの物忘れが進むことを心配し、診察時にも「どの程度忘れるかを毎回チェックして、自覚させてほしい」と希望されました。
筆者からは、「Aさんのできることに目を向けて、お互い機嫌よく過ごしてほしい。それがよい経過にもつながる」とお伝えし、診察後には看護師からご家族に、
「忘れるのを改善しようとすると、家族にも本人にも負担がかかってつらくなってしまいます。忘れてしまうということは受け入れて、Aさんひとりでは難しいことは、ご家族のみなさんと一緒にするなどしていきましょう」
と、アドバイスしました。
ご家族はそのことをよく理解され、その後は買い物や散歩などによくAさんを連れだって出かけ、料理も一緒にするようになったとのことです。
Aさんもご家族も笑顔が増え、今も穏やかに過ごしておられます。
【ケース2】地域連携によって、利用しやすい医療機関につながったBさん一家
サポートする側となる専門職は、連携し合って患者様やそのご家族に対応します。
地域の連携を通じて、当院での治療に結び付いた例をご紹介します。
Bさんは、会社員として在職中に認知症を発症しました。
65歳未満で発症した認知症は、「若年性認知症」と呼ばれます。
Bさんは勤務先の産業医から地元の医療機関に紹介され、治療を開始しましたが、相談などがしやすい認知症専門の病院への通院をご家族が希望され、当院を紹介受診となりました。
ご家族が問い合わせた若年性認知症サポートセンターからも当院に情報提供があり、転院はスムーズでした。
ご家族はBさんへの対応のし方や、利用できる制度に関してなど、多くの不安がおありとのことでしたので、初診の予約をされるにあたり、当院の相談員がまず電話でゆっくりとお話をうかがいました。
相談員が一つひとつ丁寧にお答えし、今後も相談に応じるとお伝えした上での初診となったため、ご家族はだいぶ落ち着いたご様子でした。もちろん、ご家族が安定することでBさんご本人も安定されたと思います。
Bさんのように、制度の利用などで必要な手続きが種々ある場合や、病状の変化に対してご家族の不安が大きい場合などは、当院では相談員や外来看護師が助言したり、ご家族の気持ちを受けとめたりする時間を柔軟に設けています。
地域の連携によって、ご本人・ご家族が利用しやすい医療機関につながったよい例といえます。
【ケース3】専門職のチームが何度も足を運び、受診と介護サービス利用にたどりついたCさん・Dさんご夫婦
もう一例ご紹介します。「認知症初期集中支援チーム」の活動を通じて当院を受診したCさん・Dさんご夫婦です。
「認知症初期集中支援チーム」は各市町村に設置されたチームで、保健師、作業療法士、社会福祉士などさまざまな専門職が場合に応じて協働します。この活動は、「認知症になっても本人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で暮らし続けることができる社会の実現を目指す」という、認知症施策の方向性に基づいて始まりました。認知症の方、あるいは認知症が疑われる方で、医療サービスや介護サービスを受けていない方を適切なサービスにつなぐ支援を行います。
Cさん・Dさんご夫婦はお二人で暮らしており、お二人とも認知症を発症していました。
ご親族の方がご本人たちの話のつじつまの合わなさや、ゴミがうまく出されずにたまっている様子に気づいていましたが、医療機関の受診を勧めてもご本人たちが応じず、そのまま月日が流れていました。
ある時、困り果てたご親族から地域包括支援センターに連絡があり、居住地域の認知症初期集中支援チームがご夫婦宅を訪問しました。
妻のDさんが難聴であったこともあり、主にチームに対応されたのは夫のCさんでした。
Cさんは妻のDさんをご自分の実母であると思い込んでおり、訪問してきたチームに対しては「同居している母親(妻のDさん)の世話をする人たち」という認識でした。
ご夫婦宅は、清潔が保たれているとはいいがたい環境でした。
Cさんは、生活の上では「困ることはない」と繰り返し、介入されることに抵抗がある様子でした。
チームが「お二人ともしばらく医療機関にかかっていないので、健康診断をしましょう」と勧めても、すぐには同意されませんでしたが、Cさんに“母親(妻Dさん)の受診の付き添い”としてお願いしたところ、しぶしぶ了解され、後日受診することを約束しました。
受診当日にチームが再びご夫婦宅を訪問した際は、やはり受診に抵抗されましたが、前回の訪問時にお願いしたとおり“母親(妻Dさん)の付き添い”として、なんとかお二人に受診していただくことができました。
受診時の検査などには特に抵抗はなく、その後はお二人とも当院に通院しながらデイケアに通所され、最終的には施設入所へと至りました。
とはいえ、実際にはそこまでの道のりは長く、主にCさんが抵抗され、デイケア通所が軌道に乗るまで数か月を要しました。
その間も、チーム員が定期的にご夫婦宅を訪問して徐々に関わりを深め、まずは抵抗が小さかった妻Dさんがデイケアに通うようになり、それにつられるようにして、夫Cさんも通所できるようになった次第です。
時間をかけて慣れていただくことは大切で、最初に患者様と顔なじみになった専門職がうまく関わると治療の導入がスムーズになるのは、よく経験するところです。
これも地域連携の一つの形といえるでしょう。
これまでご紹介したように、認知症の治療には、多くの職種によるネットワークがあり、患者様やそのご家族はそれぞれからサポートを得ることができます。
どのようなサポートがあるかを知っておくことは、何かの折に役立つと思います。心に留めていただけましたら幸いです。
介護する方の過ごしやすさが、患者様の安らかな生活につながります。お困りの際には、どうぞ遠慮なく専門職にご相談ください。