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普段の生活をアクティブに!認知症予防の最新知見

総人口における高齢者の割合が高まるにつれて、認知症の患者数が増加しています。

2023年9月にアルツハイマー病の薬である「レカネマブ」が厚生労働省によって承認されましたが、副作用や価格の問題など、広く普及するためにはいくつかの課題が残っています。
そのため、薬物治療だけでなく、認知機能の低下や認知症を予防することも非常に重要です。

今回のコラムでは、認知症を予防するために日常生活で何ができるのか、これまでの研究でわかってきたことを紹介します。

そもそも認知症とはどのようなものなのか、以下の記事で解説しています。

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《予防策1》週3回以上の運動を取り入れる

多くの研究で、週3回以上の定期的な運動が認知症のリスクを低減するのに役立つことが示されています。

運動の種類は、ウォーキングなどの有酸素運動や筋力トレーニングなど、単独で行っても効果的ですが、これらを組み合わせた複合的なトレーニングも有効だといわれています。
国立長寿医療研究センターの研究によれば、有酸素運動と二重課題運動(運動課題に加えて、しりとりや計算などの認知課題を同時に行う運動)を組み合わせることで、脳の血流が増加、脳の容積も増大し、認知機能が維持および向上することが確認されています。

運動の頻度としては、1日1回1時間の運動を週に3回以上、それを半年以上続けることが重要です。

運動教室に参加したり、スポーツジムに通ったりするのもよいですが、それだとハードルが高い方は、歩いて買い物に行ったり、意識して階段を使ったりするなど、日常生活の中で積極的に運動することを心がけるとよいでしょう。

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《予防策2》さまざまな食品をバランスよくとる

食事

これまで、葉酸フラボノイドビタミンDなど特定の栄養素、また野菜果物などの食品、適度な飲酒が、認知機能の低下予防に寄与する可能性が示されてきました。

最近では、単一の栄養素や食品ではなく、地中海食や日本食などの“食事パターン”も認知症予防において注目されています。

とくに地中海食は、認知機能の低下予防に有効であることが報告されています。
地中海食は、果物や野菜を多く使用し、肉より魚を多く摂取し、さらにオリーブオイル、ナッツ、豆類、全粒粉などの未精製の穀物を組み込んだ、特定の食事習慣を指します。

また、日本国内の調査においても、乳製品、豆類、野菜、海藻などを多く含む食事パターンが、15年間の認知症の発症リスクを低下させることが示されています。

さらに、愛知県の高齢者を対象とした調査では、穀類中心ではなく、多種多様な食品をとることが、認知機能の維持に貢献したと報告されています。

これらの結果から、日本人にとっては「主食として米を頼りとせず、多種多様な食品、とくに野菜を主体に乳製品をプラスした食事」が、認知症予防に適した食事といえるかもしれません。

認知症予防のための食事について、こちらの記事でも解説していますので、気になる方は是非ご覧ください。

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《予防策3》家族や友人との余暇活動や、知的活動を楽しむ

認知症予防において、人との交流や社会的活動、余暇活動や知的活動も重要です。

社会的活動は、周囲の人々、たとえば家族や友人、地域の住民との交流や、社会での活動を指します。
これまでの研究から、社会的活動への参加が少ない人々は、積極的に交流する人々と比べて、認知症の発症リスクが1.4倍高いことが報告されています。

また、人との交流は、対面でのコミュニケーションだけでなく、電話やビデオ通話を通じても認知機能の低下を予防できる可能性があるという研究結果もあります。

知的活動として、読書、パズル、手工芸、楽器演奏、囲碁やといったボードゲームなどを積極的に行うことも、認知機能の低下を予防できる可能性があります。

たとえば、70歳以上の高齢者を対象とした4年間の調査では、社会的活動に加えてゲーム、手工芸、パソコンの使用が、認知機能の低下を抑制する要因として報告されています。

また、日本で行われた70歳以上の高齢者を対象とした研究では、健康教育、楽器演奏、ダンスプログラムの3つのグループに分けて、それぞれの活動を40週間実施しました。
その結果、ダンスプログラムと楽器演奏を行うグループは、健康教育を行うグループと比べて認知機能が改善したと報告されています。
そのほか、絵画や手工芸などの芸術活動も、認知機能の改善に寄与する可能性があります。

しかし、これらの研究においては、インストラクターや参加者同士の交流など、社会的活動が含まれており、知的活動そのものに認知機能の改善効果があるかどうかについては、さらなる検証が必要です。
現時点では、自身の関心や興味に応じて好みの活動を選択し、家族や友人と楽しいライフスタイルを築くことが重要であると考えられています。

《予防策4》複数の要因による多因子介入も大切

まとめ

単一の認知症予防活動だけでなく、運動、食事、社会活動、知的活動などを同時に行うことによって、認知症予防効果が向上することが期待されています。
このアプローチは「多因子介入」と呼ばれています。

認知症予防のための多因子介入の先駆けとなったFinnish Geriatric Intervention Study to Prevent Cognitive Impairment and Disability (FINGER)研究では、60歳以上の高齢者1260名が参加し、食事指導、運動指導、認知トレーニング、生活習慣病の管理を受ける「多因子介入グループ」と、健康に関する一般的なアドバイスを受ける「対照グループ」に分かれ、2年間にわたる追跡が行われました。
その結果、多因子介入を受けたグループは、対照グループと比較して認知機能が改善したことが明らかになりました。

FINGER研究の成功をうけて、ライフスタイルや文化的背景の異なる様々な国で、認知症予防のための多因子介入試験が進行中です。

日本においても、国立長寿医療研究センターを中心に「J-MINT研究」が行われ、認知機能が同年代と比較して少し低下している高齢者531名が対象となりました。

参加者は、生活習慣病の管理、週に1回の運動指導、栄養指導、認知トレーニングを受ける多因子介入グループと、生活習慣病の管理と健康情報提供を受ける対照グループに分かれ、18か月間の追跡調査が行われました。

その結果、全体的な結果には統計学的な有意差は見られませんでしたが、運動教室に70%以上参加したグループでは、70%未満のグループや対照グループと比較して、認知機能が有意に改善していたことが明らかになりました。

また、70%以上参加したグループは、認知機能の向上だけでなく、食事の多様性、血圧、BMI、身体組成、運動機能の改善、身体的なフレイルの新規発生率の低下が認められました。
つまり、多因子介入が認知症予防だけでなく、要介護予防にも効果がある可能性が示されたのです。

以上のように、認知症予防には特別なことをする必要はありません。
健康な生活習慣、バランスの取れた食事、運動、社会的交流、そして知的活動を組み合わせたアクティブなライフスタイルが重要です。
自身の興味や関心に合わせて、できることから始めてみましょう。

認知症予防について、こちらの記事でも解説していますので、気になる方は是非ご覧ください。

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Department of Medicine, University of Washington, Acting Instructor
国立長寿医療研究センター 研究所 外来研究員
杉本大貴 先生

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薬の使い方

国立長寿医療研究センター 外来研究員

杉本 大貴すぎもと たいき先生

国立長寿医療研究センター, 認知症先進医療開発センター, 研究員
国立長寿医療研究センター, もの忘れセンター, 研究員 (併任)

  • 国立長寿医療研究センター, 認知症先進医療開発センター, 研究員
  • 国立長寿医療研究センター, もの忘れセンター, 研究員 (併任)

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