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絶対やりたくなる!多職種による認知症高齢者の口腔ケア

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歯科疾患だけでなく、誤嚥性肺炎の予防にもつながる

 みなさんは、“口腔ケア”の目的を説明できますか?

「“歯の掃除”でしょ?」
なんて言葉が聞こえてくるかもしれません。

毎日自分で行う歯磨き、すなわち「日常的口腔ケア」の目的は、「口腔を清潔に保ち、歯科疾患を予防すること」です。
最近は、歯周病の放置が認知症の発症に影響があるという研究も出てくるようになりましたので、ご自分のお口の健康に気を使っている方もいるかもしれません。

 

さて、自分で歯磨きが十分にできなくなった人はどうしているでしょうか?

生活の中で認知症の症状が出てくると、自分で行う歯磨きの成果は不十分になります。
習慣的になんとなく歯ブラシを口に入れていても、きれいな状態を保てないのは、「隅から隅まで、見えない口の中を、ブラシでこすってきれいにする行為」が、実はけっこう難しいものだからです。

汚れがたまってくると、加齢変化による免疫低下も相まって虫歯や歯周病が増え、欠けた歯で口の中の粘膜が傷ついてしまったり、その傷が治りにくくなったり、思いがけない口腔疾患が増えます。
たくさんの薬剤を使用していることによる口の渇き、加齢による唾液量減少、不規則な生活、喫煙なども、口腔の不潔状態を助長します。

 

そうした人たちの日常的な口腔ケアは、家族や介護をする人がお手伝いをする必要があり、「清潔にすること」だけでなく「本人が伝えられない不具合を発見すること」も、目的に加わります。
とくに、認知症の人は自分の体で「変だな」と思ったことを、的確に周りの人に説明できない、助けを求められないことがあるからです。

 

認知症の人が口腔を清潔に保つことの意義は大きく二つあります。
①歯科疾患を予防すること」はもちろん、高齢期では「②誤嚥性肺炎を予防すること」も大事な意義です。

免疫が弱く、飲み込みの機能が低下している人が口腔内を不衛生にしていると、口腔内が汚れ、細菌が気道に入ってしまい、誤嚥したことによって生じる肺炎「誤嚥性肺炎」が起こります。
誤嚥性肺炎はとても苦しいですし、入院すると一気に生活機能が低下してしまいます。

口腔を健康で衛生的にしていることで、この誤嚥性肺炎のリスクが減らせることが知られています。

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何もなくても定期的に受診し、治療行為に“慣れておく”

ところでみなさんは、歯医者さんには「痛い時だけ・困った時だけ」行きますか?
それとも「痛くなくても定期的に」行きますか?

痛い時だけ歯科受診する状態を「機会受診」、何もなくても歯科受診する状態を「定期受診」と表現して、認知症の人の口腔トラブルを考えてみましょう。

 

機会受診を習慣としている人の場合、一般的に、認知症の診断前後の時期には口腔機能の低下はほとんどないので、本人にとって歯科受診の自発的なニーズが発生しにくく、受診は行われないまま経過します。

ところが、いざ口腔に不具合が出現した時に受診しようとすると、その時点ですでに認知症が進行していて、とても受診しにくい状態になっていることが非常に多くあります。
認知症の人にとって、「まさに今痛い」という時に歯科診療を受けることは、心理的負担が大きいのです。

 

困ったことに、慢性的な口腔疾患、とくに歯周病はほとんど痛みがないまま進行し、疲労や体調不良など免疫低下時に急に歯ぐきが腫れ、痛みが出現します。
認知症が中等度以上に進行するころには、口腔内のトラブルは顕在化しやすくなっています。

進行した認知症の人に対する口腔内への治療行為は、決して簡単ではありません。
歯科治療行為は口腔内に手を入れて行う外科処置ですが、認知症の人が治療中にじっとしていられないと、危険が伴います。

本人にとっては、診察で痛みのある部位を触られるので嫌な体験ですし、強い拒否行動の引き金になります。
「口の中に異変があって不快でイライラ」しているところに、「慣れない医療者との対面」や、「痛いところ、デリケートな口腔に触れられる」こと、「水や音が出る機械」など、行動・心理症状(BPSD)の引き金になりやすい行為が多く含まれるからです。

 

当然、医療者側もなるべく負担が生じないような歯科治療上の配慮はするのですが、薬を飲むだけで治る病気でもないので、機会受診では治療には困難が伴います[図1]
治療ができなければ、痛みは放置せざるをえず、食事が食べられなくなってしまいます。

[図1]機会受診(痛い時だけ・困ってから受診)スタイル

(出典:東京都健康長寿医療センター『認知症の人のお口の支援ハンドブック』)

いっぽう、定期受診を習慣としているケースでは、自発痛のない状態での簡単な治療の繰り返しのなかで、歯科医師や歯科衛生士に口腔を診察されることに慣れることができます[図2]

慣れている関係であれば、認知症が進行しても比較的受け入れが良好で、治療に関する拒否は少ないといえます。
「慣れ」というのは、認知症の人にとっては非常に重要です。

また、認知症の人の定期受診を繰り返す中で、歯科医師、歯科衛生士もあらかじめ認知症の本人との関係をつくることができるので、その本人に適した声かけや配慮が可能です。

 

こうした自発痛のない時期の関わりを何度も繰り返し継続していくことで、認知症が重度に進行してからも口腔への介入がしやすく、本人の口腔の状態も維持しやすくなります。

定期受診を継続するには、認知症の人を支援する多職種、たとえばかかりつけ医やケアマネジャーなどの理解、より具体的な促しがとても大切です。 

[図2]定期受診スタイル

(出典:東京都健康長寿医療センター『認知症の人のお口の支援ハンドブック』)

口の中の環境は一人ひとり異なる。歯科で本人に合った指導を受けよう

認知症が重度に進行するまで介護をした、家族の体験談を聞いてみましょう。

体験談A

受診前は、母は自分で歯を磨いていたので、母の歯の状態について私自身はよくわかっていませんでした。
使っていた入れ歯が合わなくなり、訪問歯科の先生に来ていただき、その時に説明を聞き、歯の根元だけが残っている歯が2本あると初めて知りました。
『そこは自分では磨けない』と聞いて、その後は私が母の歯を磨くようにしました。
カンジダ症にも繰り返しなりましたが、私が口の中を診てもよくわからないので、定期的に先生に診ていただけたことに感謝しています。

体験談B

死亡原因は誤嚥性肺炎でしたので、もう少し早く歯科の訪問診療を受けていたらと思いました。
本人の全身状態を整えるためにも、口腔内環境の観察や調整がとても大切だと、身にしみて感じました。

 

介護を経験した家族から、認知症になってからの口腔の健康の重要性や、「歯科の定期受診を早い段階からしておけばよかった」という後悔の念が語られています。
口腔の健康の重要性は、失って初めてわかるということがよく理解できます。

 

個別性が高い口腔の健康に関しては、認知症の本人の様子、口腔内所見、家族の様子を合わせて個別指導するのが適切です。
そのためには、歯科受診していただき、個別指導をするのがもっとも効率がいいと考えます。

認知症の診断後、心が落ち着いた機会を見計らって、これからの歯科との長いお付き合いを始める契機を、まずはご家族など周囲の人がつくってあげてください。
そして、前述したような多職種の力を借り、定期受診を続けていっていただければ、健やかで快適な暮らしに少し近づくのではないでしょうか。


東京都健康長寿医療センター研究所 自立促進と精神保健研究チーム
認知症と精神保健研究 歯科医師研究員
枝広あや子 先生

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