沖田 裕子 先生
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若年性認知症とは?高齢の認知症との違いを知ろう
「若年性認知症」とは、18歳以上65歳未満で認知症を発症した場合をいいます。これは、高齢で認知症になる場合とどう違うのでしょうか。
認知症は、一般的に高齢になってからの病気と思われています。人数としては、高齢になってから認知症になる人が多いので仕方ないかもしれませんが、若い人でも発症します。働き盛りの年齢で、まだ年金生活でもない時期に認知症と診断されるのと、高齢になって認知症と診断されるのとでは、生活していくうえで大きな違いがあります。
第一に、経済的に不安定になりやすいといえます。まだ住宅ローンの支払い中であったり、子どもが就学中である場合、病気などで働けなくなることは重大な問題です。認知症の場合、住宅ローンや生命保険などは、かなりの重度にならないと支払い免除にはなりません。実際に、若年性認知症になって仕事が続けられなくなり、ローンを払えず、泣く泣く住宅を転居した人もいます。
企業に勤めている場合は、働けなくなっても休職したり、傷病手当を受けたりして、すぐに収入が途絶えない場合もあります。傷病手当の期間が過ぎれば、失業保険を受けることができます。しかし、会社に気を遣い、傷病手当を受けずに辞める人や、どうせ働けないからと失業保険も諦める人もいます。自営業の場合はより深刻です。
次に、若年性認知症の専用の制度が整備されていないことが挙げられます。そのため、医療と障害福祉、介護保険などの既存の制度を、そのときどきで使い分けていくことになります。若いときから高齢者と同じサービスを受けるというのは、本人も家族も抵抗がある場合が多いもの。しかし、若年性認知症専用のサービスはほとんどありませんので、上述したような既存の制度をうまく使っていく知識が必要になるのです。
これをサポートする役割として、各都道府県には、「若年性認知症支援コーディネーター」が配置されています。どのような時期にどんなサービスが使えるのか、具体的な情報が得られます。相談窓口は下記のウェブサイトから探すことができます。
【若年性認知症に関する相談窓口】
https://y-ninchisyotel.net/contact/
※社会福祉法人 仁至会 認知症介護研究・研修 大府センター ホームページより
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若年性認知症支援コーディネーターへの相談は、“早め”がおすすめ
典型的な物忘れではなくても、「降りる駅を頻繁に間違える」「仕事で今までにないミスが目立つようになった」「これまでは問題なくできていたスケジュール管理が、うまくできなくなった」なども、認知症のサインである場合があります。気がかりな症状がみられる場合には、若年性認知症コーディネーターへの相談も、医療機関への受診も早めに行うことが勧められます。
各種制度の利用は、“認知症と診断された日”が基準になっているものもあります(下図参照)。早期受診によって認知症の進行を遅らせられる場合がありますし、早期に診断された事例では、職場に復帰して働き続けている人もいます。また、認知症は、本人や家族の単身赴任中など、周りに人がいなくて病気の進行に気づけず、知らないうちに悪化するケースもあるので、注意が必要です。
【図】若年性認知症の早期診断のメリット
※「大阪府若年性認知症支援ハンドブック」より
https://www.pref.osaka.lg.jp/attach/24893/00227472/handbook2017.pdf
私たちが若年性認知症支援コーディネーターとして関わっている方の中には、一旦休職しても、コーディネーターが職場の方や産業医、産業保健師との面談に同行するなどしてサポートし、その後、職場に復帰できた方がいらっしゃいます。また、働き方を変えて再就職した人もいます。いずれも早期にコーディネーターに相談をして、早期診断と支援ができたケースです。
各地域にある、若年性認知症の“交流会”に参加を
早期の相談、受診・診断とともに重要なのが、若年性認知症の本人や家族の“交流会”に参加することです。本人同士の存在がお互いの支えになりますし、家族同士も支え合い、情報を交換することができます。
交流会は各地域で行われています。コロナ禍においても、オンラインとリアル交流会、外出イベントなどを組み合わせて、本人と家族の孤立化を防いでいます。オンラインの良いところは、遠くの方でも、短時間でも参加できることです。また、グループアウトセッションなどを使い、少人数での交流も行って、より濃い分かち合いが行えるようになっています。
この記事をお読みいただき、交流会が気になった方、参加を希望される方は、前述の「若年性認知症に関する相談窓口」を参考に、各地域の交流会のホームページよりぜひ問い合わせてみてください。
診断された後の“空白期間”の居場所の重要性
私が代表を務めるNPO法人「認知症の人とみんなのサポートセンター」では、専用のサービスが少ない若年性認知症や、初期認知症の本人、家族、支援者の支援を行っています。交流会以外に、診断後の“空白期間”の居場所を提供しています。
診断後の空白期間とは、診断は受けたものの、サービスなどが利用できない期間のことです。前述したとおり、若年性認知症専用のサービスはほとんどなく、介護保険の要介護認定も受けられない、仕事を休職して傷病手当を受けている間は求職もためらわれる……。当法人では、そんな時期に家に閉じこもるだけでなく、仲間と活動することができたらという思いから、2015年に生きがいとしての仕事の場『タック』を立ち上げ、実施しています。
『タック』は、認知症の進行防止や孤立防止、次の仕事やサービス利用への準備を目的とし、認知症の本人たちが作成したものを、講演会や学会などで販売するという活動をしてきました。しかしコロナ禍で活動の継続が難しくなり、2021年6月〜8月までクラウドファンディングを行いました。下記の記事に詳しいことが載っています。よろしければご覧ください。
【参考記事】若年性認知症の人の生きがいとしての仕事の場『タック』の継続を!
https://readyfor.jp/projects/minnano2021tack
その中で取り上げた、『タック』参加者と家族の声をいくつかご紹介します。
【本人の声】
「できることがあればやりたいけど、皆に迷惑をかけるのではないか
できないと感じることも不安。認知症の人同士で話せる場所がほしい。専門家の話もききたい。」
「病気の先輩たちが好きなことをやっているのをみて、そういう人もいてるんだよとだいぶん力になった」【タック参加者の家族の声】
「タックを知るまでは家でふさぎ込んでいたが、タックへ行くことで他の人との交流で、わかりあえることができ、新しい友人がふえたようで楽しみが増え、病気に対しても楽観的になった」
「明るくなった、よく笑うようになった、よく話すようになった。仕事をしている時は私は主人の職場の人のことを何も知らなかったので共通の話題もあまりなかったがタックで出会った方々の事を一緒に話したり、タックでの出来事を教えてもらったり共通の会話ができるようになった」
「仲の良い人たちと帰りにコーヒーなど飲んで帰宅した時は楽しそう。会社に勤めていた時はだんだんと仕事ができなくなり孤独になっていた(本人は弱音をはかないのでわかりませんが)タックは同じ境遇の方々と話をするので、辛いことなど分かち合えると思う。」
コロナ禍で室内での製作活動が難しくなり、それでも社会とのつながりを求めて、公園掃除や車いす清掃なども行うようになりました。また、タック参加者は男性が中心なので、女性の若年性認知症のための『すみれの会』も始めました。
私たちはこのように、既存のサービス利用だけでなく、新しい取り組みに挑戦しながら、若年性認知症の本人や家族が必要としているサポートを、当事者と一緒に模索しています。本人もご家族の方も、どうか自分たちだけで抱え込まずに、私たちのようなサポートセンターを頼ってください。