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【ドクターズコラム】“認知症カフェ”を、もっと世の中に

藤田医科大学医学部認知症・高齢診療科 教授

武地 一 先生

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「認知症」という言葉をキーワードに、さまざまなことを語り合う場所

みなさんは、「認知症カフェ」をご存じでしょうか? 認知症カフェは2012年に、日本の認知症施策である「オレンジプラン」が掲げられたころから設置が進み、最近では、全国に8000箇所以上あるといわれています。人口あたりに換算すると、人口約1万人ちょっとに対して1箇所あることになるので、みなさんが住む街にもきっとあるはずです。国の施策で推進され、全国各自治体に設けられているので、少し硬い感じがするかもしれませんが、“カフェ”という名の通り、各地で自由に活動が行われているのも魅力です。

認知症カフェ(以下、カフェ)は、地域の住民、認知症の人、認知症の人の家族、そして、医療・介護の専門職など、認知症という言葉をキーワードにさまざまなことを語り合う場です。カフェは毎日開催されているところもありますが、1か月に1回、約2時間というところが多いとされています。開催場所は、自治会館や、街中の飲食店が利用されているほか、グループホームなどに併設されているコミュニティースペースなどが用いられる場合もあります。コーヒーや好きな飲み物を飲みながら、認知症や介護、健康などについてのミニ講座を聞いたり、アマチュアバンドのコンサートを聞いたりするような企画が行われるところもあります。

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認知症の人がそれぞれに才能を発揮し、活動するための拠点にもなる

認知症カフェでは、認知症に詳しいスタッフが店内に目配りしています。認知症の人の家族が「家族同士で悩み事を分かち合いたい」と思っている場合には、その家族同士を結び付け、認知症の人が「仲間同士で自分たちのできる活動を行いたい」という場合は、周囲の人も巻き込んで、その活動を応援します。
前述のとおり、認知症カフェは、お茶を飲んで話しながら、ミニ講座や音楽を聴くとともに、さまざまな活動の拠点にもなる場所です。また、地域で認知症サポーター講座を受けたボランティアたちが、カフェスタッフとして参加している場合もあります。
ここで、私たちが運営している、「オレンジカフェコモンズ」というカフェでの出来事を紹介します。

70代の女性Kさんは、アルツハイマー型認知症と診断され、数年が経過していました。身の回りのことは自分で何でもできますが、物忘れが強く、一緒に暮らしている夫が「妻とともに楽しく過ごせる場所はないか」と探すうちに、このオレンジカフェを知り、来店されました。
カフェには毎回、数人の認知症の人とその家族が来られ、学生や市民のボランティアも数人参加します。Kさんはカフェに来るたび、「子育てをしていた頃、近所の子供を集めてよく紙芝居をしていた」と話されるのですが、スタッフは、同じ話の繰り返しに、少し疲れてきていました。
そんなある日、スタッフの一人が、「Kさんにカフェで紙芝居をしてもらおう」と提案し、さっそく次回のカフェでKさんによる紙芝居が行われました。Kさんは木組みの紙芝居セットを持参して、インドネシアの童話を情感たっぷりと話されました。集まっていたほかの認知症の人や、その家族、そしてスタッフからも拍手喝采。それからしばらくの間、カフェにおいて、Kさんの紙芝居は定番の催しとなりました。
ほかにも、50歳代で若年性アルツハイマー型認知症を発症したYさんは、歴史が好きで、地域の歴史スポット巡りでその知識を披露し、仲間から尊重されていました。

このように、カフェでは認知症の人がそれぞれに才能を発揮し、それを見守る家族の人も、ほっとしている様子が伺えました。

認知症になった後も楽しく生きる。認知症カフェが、拠りどころのひとつに

日本の認知症カフェにおいて、その源の1つとなったのは、オランダで1997年に開始された「アルツハイマーカフェ」であるといわれています。アルツハイマーカフェは、オランダ全国一律の開催方法で、1か月に1回、2時間を30分ごと4部に分けて、交流タイム、ミニ講話、ミニ講話をめぐる討論などが行われます。開催にあたっては、研修を受けたモデレーターが運営を行うとされています。
このような全国一律での実施は、日本では必ずしも容易ではないところもあり、カフェの運営のしかたは主催者側にゆだねられている面があります。しかし、かえって自由過ぎて、足を運んでみようと思う人、地域や病院からカフェを紹介しようとする人などにとっては、わかりにくいという声もあります。

認知症カフェの開催や運営にあたり、主催者側がいちばん気をつけていること、気をつけないといけないことは、“認知症カフェは、予防体操や脳トレを行う場ではない”ということです。
認知症という病気は、認知症になった本人にとっても、周囲の家族や知人にとっても、深刻な課題をもたらすことが多いものです。そのため、「認知症にはなりたくない」「認知症になったらおしまいだから、予防しないと!」という思いをもつ人も多く、それがこれまで、認知症という病気への偏見にもつながってしまっていました。
高齢者が体や頭を使って楽しむ場所はもちろん大事ですが、認知症カフェは、認知症のことをオープンに話し合い、正しい情報をもとに、自分や家族が認知症になっても楽しく生きていく拠点としていくことが、大切です。

認知症カフェは、簡単で楽しい場所のようにも思えますが、「認知症+カフェ」として、認知症の難しい側面をきちんと理解しつつ、カフェとしてのくつろぎをもたらす場所であることが求められます。そのような認知症カフェが、今後も世の中に広まっていくことを期待しています。

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藤田医科大学医学部認知症・高齢診療科教授

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