高齢者や要介護者が、居住する住宅で安心して快適な生活をするために、必要な改修工事をすることがあります。
住宅改修の大きな目的は、日常生活を自分で行えるようになることで、利用者本人、家族や介護者の自立意欲が向上することであり、物理的にも負担が軽減することでもあります。
ここでは、必要な改修工事にはどんなものがあり、そのための介護保険給付がどのように支払われるのか、申請方法や注意点などを解説していきます。
給付の対象となっている改修工事には6種類ありますが、高齢者や要介護者の身体的な状況によって、価格なども細かく調整されています。
改修工事の前には、ケアマネジャーや工務店スタッフとも相談できますが、きちんとした手順を踏んで申請手続きを行わないと、給付が受けられなくなってしまうこともあります。
今回は、以下について解説します。
- 介護保険給付が受けられる改修工事の種類
- 介護保険給付費の支給限度額と自己負担額
- 改修費における介護保険給付の申請方法と注意点
- 改修工事をする際の内容の注意点
- 改修工事費における介護保険給付の現状
改修工事における介護保険給付金について、しっかりと理解するためにも、本記事をご参考いただけますと幸いです。
是非最後までお読みください。
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介護保険を使って住宅改修が出来る?
住宅の改修工事には、介護保険給付が受けられるものが6つあります。
次の住宅改修は、介護保険の給付が受けられます。
手すりの取り付け
廊下、トイレ、バスルーム、庭、玄関、また玄関から道路までの通路などに、転倒防止や移動する際の移乗動作を補助する目的で設置する工事に対して、介護保険の給付が受けられます。
段差の解消
居住室、廊下、便所、浴室、玄関の各部屋の床の段差をなくします。
敷居を高くしたり、段差にスロープを敷いたり、バスルームの床を高くして段差の解消を行います。
ほかにも、部屋から部屋の移動においての高低差を解消できます。
滑りの防止及び移動の円滑化等のための床又は通路面の材料変更
高齢者や要介護者が歩く際、滑って転んだりしないよう、滑り防止対策をしたり、床材を変更する住宅改修工事です。
以下に具体例を示します。
- 畳のリビングから、板製の床に変更したり、ビニール素材の床に変更する
- バスルームの床材を滑りやすいものからビニールなどの滑りにくい床材に変更する
- 通路の床材を滑りにくい素材で舗装する
引き戸等への扉の取り換え
もともと開き戸であったドアを、引き戸やアコーディオンカーテン、折り畳み戸に変える工事をします。
こうすることで、高齢者でも自分で戸を開閉できたり、介護の負担が軽くなったりします。
扉全体を取り替えることもありますが、ドアノブだけを変更したり、開けやすいように滑車を付けたりすることもできます。
洋式便器等への便器の取り換え
高齢者や車いす利用者、下半身が不自由な方にとって、しゃがむ作業は大変です。
そこで、和式のトイレを洋式のトイレに変更することも可能です。
また、介護をする方にとっても、立ち座りを手伝うのは非常に困難となります。
洋式トイレへの変更は、介護者にとっても大きなメリットがあるといえます。
また、元々洋式トイレだったとしても、洋式便器の高さを上げる「設置部分のかさ上げ工事」をすることも可能です。
和式のトイレから洋式の洗浄機能付きの洋式トイレや、暖房付き洋式トイレへ変更する工事です。
しかし、すでに洋式トイレであるものを浄機能付き洋式トイレに変更する場合は、給付の対象にはなりませんので注意が必要です。
上記に付帯して必要となる住宅改修
上記5つの改修工事には該当しないものの、改修に伴って支払うべき改修工事の費用については介護保険給費の対象になります。
例えば、「滑りの防止及び移動の円滑化等のための床又は通路面の材料変更」で床材を変更する時は、下地の壁の補強工事が必要になります。
同じように、手すりを付ける時は、その壁の補強の工事が必要になります。
上記の項目にはありませんが、介護保険給付の対象となります。
バスルームやトイレの工事には、給排水設備の工事な場合があります。
また、扉を変えるために壁の柱の工事が必要な場合もあります。
このように、住居設備そのものを変更する工事が必要な場合は、介護保険給付対象の範囲が変わりますので注意が必要です。
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介護保険の住宅改修の給付額は?
再申請の条件として介護度が上がったとき、転居したときには再度20万円が支給されます。
支給限度基準額
住宅改修の給付は、介護度によって支給限度額の違いはありません。生涯で最大20万円の9割(18万円)が支給されます。
上限の20万円を越えなければ、複数に分けて必要な時に必要な改修工事を行うことができます。
ただし、20万円を超えた場合の費用に関しては全額自己負担になるので注意が必要です。
例えば、改修工事に23万の費用がかかった場合で考えます。
まず、20万円の1割で2万円、20万円を超えた分の3万円は自己負担なので、合計5万円が自己負担額ということになります。
再申請は出来る?
再申請の条件として、要介護度が3段階以上重度になった時、転居した時は再度20万円が支給されます。
例えば、要介護1の認定の方が要介護4以上に変更になった場合は、要介護度が3段階上がっているため、再度20万円の申請が可能です。
また利用者が転居した場合は、転居前の住宅改修での支給状況は関係なく、転居後の住宅で改めて20万円の限度額で給付が受けられます。
高齢化が進み、要介護者の増加や介護期間の長期化などがみられるようになりました。また、老老介護という言葉もあるように介護する家族も高齢化しています。そういった現状を踏まえ、介護の負担を減らすために作られた制度が介護保険です。[…]
住宅改修費給付までの流れ
要介護認定
住宅改修は介護保険サービスの1つです。
給付の申請をする前に、まず要介護認定を受ける必要があります。
要支援1または2、要介護1から5のいずれかに認定されると、介護の度合いに関係なく、改修工事の20万円を上限に所得に応じて、介護保険給付が受けられます。
住所確認
介護保険給付の制度を利用して改修工事が行えるのは、介護保険被保険者証に記載されている住所と同じ住所のみです。
そのため、一時的に身を寄せている、子どもの家や親戚の家は対象となりませんので注意が必要です。
また、引っ越しなどをしている場合は、必ず住所変更をしておく必要があります。
費用の容易
改修工事費は、原則償還払いとなっています。
工事業者に一旦改修工事費を支払います。
そのあと、お住いの市町村に支給申請を行って、工事費を返還してもらいます。
先に費用を払ってもらうことはできませんので、費用を工面しておく必要があります。
ケアマネジャーへの相談
通所介護や、訪問介護などの介護保険サービスは、保険者の指定を受けた事業者しか提供することはできません。
しかし、住宅改修は施工業者の指定がありません。
介護に詳しい優良な施工業者を選ぶ必要があります。
住宅改修を行う事業者には悪徳な業者もたくさんあります。
手抜き工事や見積りにない工事をして、不当な料金を請求されるというトラブルになるケースもあります。
担当のケアマネジャーとしっかりと打ち合わせをして進める必要があります。
施工事業者と打ち合わせ
実際にどこをどのように改修するのか、費用はいくらになるのか、工事費の見積書や、図面を書いてもらいます。
窓口への申請
必要な書類がそろったら、事前申請をします
- 住宅改修費事前申請書を用意し、記入します。
- 住宅改修理由書をケアマネジャーに書いてもらいます。
- 工事費の見積書を施工事業者に書いてもらいます。
- 日付の入った改修予定箇所の写真を撮り、用意しておきます。
- 住宅所有者の承諾書を記入します。
改修工事着工
工事の許可がでたら、工事が始まります。
着工許可は、自宅かケアマネジャーへ郵送されます。
工事事業者への支払い
工事完了後は工事事業者へ支払いをします。
必ず領収書をもらいます。
工事終了後、介護保険給付申請
工事事業者からの領収書、指定された書式の工事完了の確認書類を準備して、介護保険給付の申請をします。
支給額の決定、支払い
支給金額の決定後、指定口座へ振り込まれます。
住宅改修をするときのポイント
上記で説明したように、介護保険での住宅改修は給付の上限(20万円)までです。
その後、要介護状態の区分が3段階上がらないと再申請ができません。
そのため、失敗しないような住宅改修を行う必要があります。
それぞれの改修時のポイントを知って、適切な工事を依頼する必要があります。
廊下の手すり
廊下の手すりは、床からの高さが750ミリ〜850ミリを基準とし、腕をまっすぐおろした際の手首の位置への設置が理想です。
階段の手すりの設置高さは、「階段の突端から垂直に750ミリ」が基準です。
取り付ける位置は、軽く膝を曲げた高さくらい、が標準的です。
また、片側に取り付けるのであれば、利用される方の利き手側につけます。
トイレ
トイレの手すりは、便器からある程度遠くに取り付けた方が、身体の重点移動を効果的に使えるため、立ち座りがしやすくなります。
逆に近いと、本人の負担は増えてしまいます。
手すりを設置する高さは、便器の座面から230ミリ〜300ミリ程度が基準とされています。
トイレでは、L字型に取り付けると安心です。
浴室
浴室は滑りやすく、介護する人にとっても容易ではありません。
安全性を重視するためにも、介護しやすいスペースが必要です。
また、床は滑りにくいものへ変更することで、転倒予防にもなります。
脱衣所には暖房器具を設置し、浴室との寒暖差を減らします。
手すりはL字型で取り付けた方が安心です。
玄関
玄関は、出入りする際の段差を減らします。
車いすの場合は、スロープが必要です。
玄関に椅子を置けるスペースを確保すると、靴の脱ぎ履きが楽になり、本人も介護者にとっても快適です。
玄関にもL字型の手すりがあった方が安心です。
住宅改修費の状況は?
住宅改修による給付の合計は、年間425.5億円です。(平成26年度)
要介護度別では、要介護2までの方への給付件数が全体の5分の4を占めています。
課題としては、他の介護保険サービスと違って改修事業者が登録制でないため、指導がとても難しいということです。
また、改修事業者によって技術や施工水準のばらつきが大きいため、改修事業者の専門知識やスキルが求められます。
出典:厚生労働省「福祉用具・住宅改修 (参考資料)」
住宅改修の対象は?Q&A
住宅改修の種類
段差解消について
Q.居室から屋外へ出るための玄関ではない、リビングなどから続く掃き出しスロープを設置する工事は、住宅改修の給付の対象となりますか。
A.玄関にスロープをつけるのと同じく、掃き出し窓にスロープを設置する工事も支給の対象になります。
トイレ関係について
Q.膝が十分に曲がらず、便座から立ち上がることが困難です。
そこで、既存の洋式便器の便座を高くしようと思います。
次の工事は、便座の取り替えとして住宅改修の給付対象となりますか。
- 洋式便器のかさ上げをする工事
- 便座の高さが高い洋式便器に取り替える工事
- 補高便座を用いて座面の高さを高くする場合
A.支給対象です。
既存の洋式便器が古くなったために取り替える工事の場合は支給対象ではありません。
ただし、当該高齢者に適した高さに取り替えるのであれば、便器の取り替えとして支給対象となります。
住宅改修ではなく、腰掛便座(洋式便器)の上に置いて高さを変えるものとして特定福祉用具購入の支給対象となります。
扉関係について
Q.扉そのものは変更しませんが、右開きのものを左開きに変更する工事は、自宅改修の給付の対象となりますか。
A.扉そのものを変えない場合でも、身体の状況に合わせて性能が変われば、扉の取り替えとして住宅改修の支給の対象となります。
床材の表面加工について
Q.滑りの防止を図るため、床材の表面に溝をつけるなどの加工をする場合は住宅改修の支給対象になりますか。
また、階段にノンスリップを付けたり、カーペットを貼り付けたりするのは支給対象となりますか。
A.どちらも床材の変更として、支給対象となります。
ノンスリップが突き出ていたり、あまりに滑りが悪いことでつまずきの原因になることもあるため、工事には十分注意が必要です。
支給申請関係
Q.領収書は写しでもよいですか。
A.申請時にその場で原本を確認できれば、写しでも差し支えありません。
Q.支給申請の際、添付する工事費内訳書に関して、材料費、施工費等を区別できない工事がありますが、すべて区分すべきですか。
A.工事費内訳書で、材料費、施工費等で区分しているのは、浴室、トイレ、廊下等の箇所及び数量、面積、長さ等の規模を明確にするためです。
材料費、施工費等を区分する必要はありませんが、工事の内容や、規模はわかるようにしてください。
Q.申請時に添付する必要のある改修前後の写真は日付が入っているものを、ということですが、日付機能のないカメラの場合、どのようにすればよいですか。
A.工事現場で黒板や紙に日付を記入して、写るように写真を撮ってください。
出典:厚生労働省【介護報酬に係るQ&A住宅に関する抜粋】
介護保険による住宅改修費の給付まとめ
ここまで住宅改修の介護保険給付についてお伝えしてきました。
住宅改修の給付の要点をまとめると以下の通りです。
- 介護保険が受けられる住宅改修には6つある
- 住宅改修の介護保険給付の支給限度額は最大で、20万円の9割を受け取れる
- 改修費における介護保険給付の申請は10段階のステップを踏む必要があり、それぞれで注意点がある
- 改修工事をする時は、廊下の手すり、トイレ、浴室、玄関それぞれの改修ポイントを抑えることが必要
- 改修工事費における介護保険給付費は平成26年度時点で年間425.5億円支給されている
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。