近年、サルコペニアという疾患の認識が広まりつつあります。
サルコペニアは老化現象の1種で、進行すると歩行困難や寝たきりに発展します。
老化自体は避けられないものの、サルコペニアの予防で健康寿命を延ばすことは可能です。
それではサルコペニアを予防するには、どのようなことを心がけるべきでしょうか。
本記事では、サルコペニアについて、以下の点を中心にご紹介します。
- サルコペニアとはどのような疾患なのか
- サルコペニアが起こる原因とは
- 自分がサルコペニアかどうかを診断する方法
- サルコペニアの予防法とは
サルコペニアについて理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
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サルコペニアとは
サルコペニアとは老化などによって筋肉が減少していく現象です。
「加齢性筋肉減弱現象」とも呼ばれています。
サルコペニアは、主に抗重力筋に起こります。
抗重力筋とは、姿勢を保持するための筋肉です。
具体的には腹筋・広背筋のほか、膝の曲げ伸ばしにかかわる筋肉や、お尻の筋肉などが該当します。
抗重力筋がサルコペニアの状態になると、身体を自力でまっすぐ保つのが難しくなります。
より分かりやすくいえば、自力での立ち上がりや歩行に支障が出やすくなります。
重症化すると、歩行困難や寝たきりになることも少なくありません。
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サルコペニアの分類別の原因
サルコペニアは、原因によって一次性と二次性に分けられます。
それぞれの特徴を解説します。
一次性サルコペニア
一次性サルコペニアは、加齢を原因とするサルコペニアです。
より厳密には、加齢以外に明らかな原因がない場合が一次性サルコペニアに該当します。
通常、筋肉は分解と合成を繰り返しながら日々生まれ変わります。
一般的に、若年層は筋肉を合成する能力が分解する能力より高いものです。
しかし、高齢になると、新しく作られる筋肉よりも、分解される筋肉のほうが多くなります。
つまり、分解量が合成量を上回るため、筋肉の量は減少していきます。
これがサルコペニアです。
筋肉の減少は40歳ごろから始まり、60〜70歳ごろに著しく加速します。
高齢になるとつまずきやすくなったり、立ち上がりが困難になったりするのも、サルコペニアが急速に進行するためです。
二次性サルコペニア
二次性サルコペニアは、加齢以外の原因が特定できるサルコペニアです。
具体的には、活動・疾患・栄養に原因が認められます。
【活動に関するサルコペニアの原因】
- 寝たきり
- 不活発な生活スタイル
- 体調不良
- 無重力状態
活動に関するサルコペニアとは、主に活動量が減少することで起こるサルコペニアです。
高齢になると外出や運動の機会が減少しがちです。
つまり筋肉を使う機会が減るため、筋力の低下が起こりやすくなります。
また、寝たきり状態も活動に関するサルコペニアの原因です。
寝たきりになると身体にかかる重力の抵抗が無くなります。
疑似的に無重力状態になるため、筋肉や骨の負荷が減り、結果として筋肉などの老化スピードが早まります。
【疾患に関するサルコペニアの原因】
- 心臓・肺・肝臓・腎臓・脳などの臓器不全
- 炎症性疾患
- 悪性腫瘍
- 内分泌疾患
疾患に関するサルコペニアとは、なんらかの病気を原因とするサルコペニアです。
原因疾患は、たとえば心臓・脳などの各種臓器の機能不全や、ガンなどが代表的です。
原因疾患の影響で筋肉の合成が正常に行われなくなると、筋肉量が減少し、結果サルコペニアに発展します。
【栄養に関するサルコペニアの原因】
- 摂食不良
- 食思不振
- 吸収不良
- 消化管疾患などによって摂取エネルギー・タンパク質の摂取量不足
栄養に関するサルコペニアは、簡単にいえば栄養不良を原因とします。
特に問題になりやすいのが、タンパク質の摂取量不足です。
タンパク質は筋肉を作る原料です。
つまり、タンパク質の摂取量が少なくなると、筋肉の合成・維持は難しくなります。
高齢になるにつれ、食欲は少しずつ落ちていきます。
あるいは消化器官の不調や、薬の副作用などで食欲が減退することも少なくありません。
いずれもタンパク質やエネルギーの摂取量不足につながるため、サルコペニアが起こりやすくなります。
なお、二次性サルコペニアは年齢を問わず起こります。
つまり、若年層でも、生活習慣・疾患・栄養の面で問題がある方は、サルコペニアになる可能性があります。
出典:厚生労働省【高齢 3.フレイルティ及びサルコペニアと栄養の関連】
サルコペニアの診断方法
サルコペニアは対策によって予防・改善が可能です。
サルコペニアを予防・改善するには、まず自分の身体の状態を把握することが大切です。
サルコペニアの診断基準と、自分でもできるチェック方法を紹介します。
サルコペニアの診断基準
サルコペニアは、以下の3つをもとに総合的に診断されます。
- 筋力の低下
- 身体機能の低下
- 筋肉量の減少
握力を測ることで、筋力の低下を診断します。
男性は握力28kg未満、女性は18kg未満がサルコペニアの診断基準です。
次に身体機能です。
5回立ち上がりテストで判断します。
これは椅子に座った状態から立ち上がることを5回反復して行い、何秒かかるかを測るものです。
サルコペニアと判断されるのは12秒以上です。
筋肉量は、インピーダンス法(BIA法)もしくは二重エネルギーX線吸収法(DXA法)という2種類の方法で測定できます。
BIA法は身体に微弱な電流を流し、体の組織の電気抵抗値を測定することでわかります。
DXA法は2種類のエネルギーのX線を当てることにより、その透過性の違いから測ります。
これらは設備の整った医療機関等でしか測定できません。そのため、まずは筋力と身体機能を測定してサルコペニアの疑いがあるか確認し、その後必要に応じて筋肉量を測定することとなります。
自分でできる診断方法
サルコペニアの診断方法を紹介します。
自宅で手軽にできるものも多いため、ぜひ日々の健康管理に役立ててください。
片足立ちテスト
片足立ちテストのやり方は以下の通りです。
- 1 両手を腰にあてる
- 2 片方の足を5cmほど浮かせる
- 3 片足を浮かせた状態を60秒ほどキープ
- 4 足を交代して1~3を繰り返す
片足立ちをキープできる時間が8〜15秒未満の場合は、サルコペニアの可能性が高いと考えられます。
なお、片足立ちに不安がある方は、椅子や手すりなどのそばでテストを行ってください。
万が一、転倒やふらつきが起こっても、すぐそばに掴まれるものがあると安心です。
指輪っかテスト
指輪っかテストのやり方は以下の通りです。
- 1 両手の人差し指と親指で輪っかを作る
- 2 1の輪っかを利き足でないふくらはぎの1番太い部位に通す
輪っかよりふくらはぎのほうが太ければ、サルコペニアの可能性は低いです。
反対にふくらはぎのほうが細い、つまり輪っかに大きな隙間ができる場合は、サルコペニアのリスクが非常に高い状態です。
歩行速度テスト
6m以上の距離を歩く速度を計測します。
歩行速度が1秒あたり0.8~1m未満の場合は、サルコペニアの可能性が高いと考えられます。
超高齢化社会といわれる現代、健康寿命を伸ばす観点からサルコペニアが注目されています。ただし、まだ世の中にあまり浸透しているとはいえません。サルコペニアとは、どのようなものなのでしょう?また、サルコペニアの診断基準にはどういっ[…]
サルコペニアの予防法
サルコペニアは生活習慣などを工夫することで予防や進行を遅らせることが可能です。
その方法についてまとめました。
食事で予防
タンパク質の積極的な摂取を心がけましょう。
タンパク質は筋肉を作るうえで欠かせない栄養素であるためです。
タンパク質が豊富な食品とは、たとえば以下があります。
- 赤身の肉類
- 魚
- 乳製品
- 大豆・大豆製品
- 卵
ちなみに体内でのタンパク質の合成には「分岐鎖アミノ酸」という成分が必要です。
分岐鎖アミノ酸は体内で合成されないため、食事から摂取する必要があります。
分岐鎖アミノ酸が豊富なのは、赤身の肉や魚、牛乳、卵類です。
なお、アルコールは筋肉合成の阻害物質を作り出す作用があります。
そのため、禁酒を心がけることも大切です。
運動で予防
適度な運動は筋肉を維持するのに役立ちます。
1日5分程度を目安に、毎日簡単な運動に取り組みましょう。
サルコペニア予防に役立つ運動を紹介します。
【ハーフスクワット】
- 1 両足を肩幅に開く
- 2 直角になるまで膝を曲げる
- 3 伸び切らないよう膝を伸ばす
- 4 2~3を繰り返す
【足上げ】
- 1 床に仰向けに寝る
- 2 片方の足をかかとが床につかないよう上げ下げする
- 3 もう片方の足も2と同様に上げ下げする
- 4 横向きになる
- 5 上側の足をかかとがつかないよう上げ下げする
- 6 反対の横向きになり、5と同じように足を上げ下げする
【つま先立ち】
- 1 水平で安全な場所に椅子を置き、椅子の裏側に立つ
- 2 椅子の背を両手でつかむ
- 3 両足のかかとをまっすぐ上にあげる
- 4 両足のかかとをゆっくり床につける
- 5 3~4を繰り返す
余暇の活動時間もサルコペニアに影響
サルコペニアの予防には生活習慣の中で適度な運動・活動が必要です。
ちなみに同じ活動量でも、仕事より余暇に関連した活動のほうが、サルコペニアの予防に役立つというデータがあります。
【中強度以上の仕事時間・余暇活動時間】
男性(分/日) | 女性(分/日) | |||
仕事 | 余暇活動 | 仕事 | 余暇活動 | |
サルコ群 | 31.6 | 40.2 | 36.7 | 27.0 |
サルコ予備群 | 33.6 | 45.7 | 48.6 | 36.2 |
非サルコ群 | 42.9 | 58.1 | 48.5 | 48.0 |
出典:厚生労働省【高齢者の筋肉減弱(サルコペニア) およびフレイル(虚弱)に関するデータ】
中強度以上の活動とは、仕事中であれば歩いている時間のことを指します。
余暇活動であれば、ゴルフ、ゲートボール、庭いじり、ウォーキングなどの早足で歩くなどがあげられます。
同じ中強度以上の活動でも、余暇活動時間が長い方のほうが、サルコペニアになりにくい傾向がみられます。
つまりサルコペニアを予防するには、身体を動かすような趣味が有効です。
サルコペニアについてまとめ
ここまでサルコペニアについてお伝えしてきました。
サルコペニアの要点を以下にまとめます。
- サルコペニアとは老化によって筋肉量が減少する現象
- サルコペニアの主な原因は老化だが、活動・疾患・栄養などが原因で起こることもある
- サルコペニアは、「片足立ちテスト」や「指輪っかテスト」「歩行速度テスト」などによってセルフチェックできる
- サルコペニアを予防するには、タンパク質の摂取や定期的な運動を心がける
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。