“その人らしい生き方を支える”、“その人らしさを尊重する”、病院や施設などケアの現場では、当たり前のように使われる言葉だと思います。
“その人らしさ”とは、何を指すのでしょうか。逆に“自分らしさ”を問われたら、どう答えられるでしょうか。
なかなかの難問であることに気づくと思います。
私たちは、家庭や学校、職場などで、その場に適応したキャラクター(自分らしさ)を演じているのではないでしょうか(作家の平野啓一郎さんは、対人関係ごとに見せる複数の顔が、全て「本当の自分」である。つまり、相手によって自分を使い分けているという意味で「分人」という表現を著書の中で用いています)。
また、そのキャラクターは相手と織りなすエピソードの積み重ねによって、常に変化しているものなのではないかと思います。つまり、その人らしさは、相手や状況によって作られるもので、一方でその人によって自分らしさも作られているものと言えそうです。
そう考えますと、その人らしさがどこかにあって、それを探し求めようとするよりも、自分がその人と共有する場に、気持ちよく適応したキャラクターを演じていられることが大切です。それに呼応して見せてくれるその人のキャラクターを“その人らしさ”として後付けしても良いのではないかと思います。
“その人らしい生き方を支える”そのために、その人のこれまでの人生、その背景に着目することはもちろん重要なことでしょう。しかし、そこからあぶり出される“その人らしさ”のエピソードに自分は不在です。
それは誰かにとっての“その人らしさ”なのかも知れないのです。フィルター越しにその人を見てしまうことにもなりかねないことも承知しておくべきだと思います。
自分らしさが分からないように、その人らしさもまた分かり難いものです。しかし、ケアの現場では利用者と職員、初対面であっても関係作りが求められます。
一期一会のその人との出会い、フィルターを外し自分の目で他者を見て、自分が気持ちよくいることで、お互いの“らしさ”がどんどんと育まれる、そんなケアをしていき
たいものです。
参考図書
平野啓一郎:私とは何か ―「個人」から「分人」へ、講談社現代新書、講談社、東京、2012年.
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