入院患者全体に占める65歳以上の割合は73.3%(平成29年患者調査:厚生労働省)とのことです。つまり入院患者のうち、およそ4人に3人は高齢者ということです。
高齢化を考えれば当然のようですが、いかに高齢者が病気やケガをしやすく、また入院を必要とする状態になりやすいかを表しています。
病院で治療をしてもらっているので安心、病気を治すという点ではそのとおりだと思います。しかし、高齢者の場合、病気やケガも癒えて退院の日が近づくにつれ、家族や医療従事者など、本人以外の者が本人の生活能力に不安を覚えることが意外に多いのです。
まだ転倒のリスクがある、何となく認知機能が衰えたように感じる、もう少しリハビリをした方が良くなるのではないかなどと、やや自分目線での想像が自宅退院に抑制をかけてしまう場合があります。
転倒リスク検査や認知機能検査の結果は、その想像を支持するものになるのかも知れません。とはいえ、人は身体の機能だけで生活しているわけではありません。そこにいる、人や物、状況との関わり合いの中で生活する能力として身についたものです。つまり環境しだいで、生活する能力に大きく影響します。
入院中の表情、身体の動き、動作、活力は病院という環境の中で、患者と医療従事者というお互いの立場と狭い状況の中で見せる、その人の断片を見ているに過ぎないということを知っておかなければなりません。職場と自宅では異なる顔の自分がいるように、そして言動までも違っているように、病院と自宅では顔も言動も違って見せる“その人”がいます。
転倒リスクや認知機能などの検査結果は、もちろん大切な情報でしょう。しかし検査はやればやるほど、その人のマイナスな面をあぶり出します。生活するとは、皆マイナスな面をもちながらその場に適応している状態のことだと思います。
転院するか、自宅退院するか迷ったとき、その人のできる姿を想像して、まず自宅でやってみようと言える勇気をもっていたいと思います。
参考資料
厚生労働省ホームページ:平成29年患者調査の概況