高齢者の転倒は大きなケガや骨折につながりかねない、重大なエピソードであることは間違いありませんから、なるべく避けたいものです。そればかりか、転倒してしまった恐怖心やケガや骨折をして家族に迷惑をかけてしまうのではないかという気持ちから、自ら活動を制限してしまう方もおられます。
活動量が減ることは、すなわち体力や筋力が衰えてしまうことに直結しますが、骨も脆くなりますから、次に転倒した際に骨折などのリスクが高くなってしまいます。転倒したくなければ動かないで寝ていれば良い、それは寝たきりを作る近道ですから、もちろん誰も望まないはずです。したがって、転倒してしまうことを織り込み済みで、動きたいときに動くという当たり前の日常を、極端に変えないことも大切な健康づくりです。
“転倒リスク”という言葉が使われ、その指標となるテストも数多あります。専門家による適切な分析を行い、個人に応じた具体的な対応をしておくことは大切です。しかし、転倒リスクという言葉からは、本人もさることながら病院や施設の職員、家族にも、一人で動かれることへの消極的な態度が形成されてしまう恐れがあります。どこか弱い部分が鍛えられれば、何かに気をつけて歩いていれば転ばない、というほど人の活動は単純なものではありません。
実際、転倒された高齢者の話を聞くと、「気をつけてはいたけれど“気がついたら転んでいた”」と言われる方も多いように思います。生活している以上、転倒をゼロにするのは難しいと感じる経験談です。
病院や施設で転倒すると、どうしても事故扱いになってしまいます。でも、見方を変えれば、それだけ本人が安心して動こうとされるような、活動的な環境が作られているとも言えるのかも知れません。自宅において転倒は、事故ではなく生活する中での経験として捉えられるほうが良いように思います。
少しの動きでも経験値が多いほど、いざというときに身体が反応してくれます。“気がついたら転んでいた”そのときに身体がどんな反応したかによってケガや骨折の有無や大小に関係します。動きたいときに動く、その経験こそが最高の転倒予防です。