健康や長生きの秘訣ってあるのだろうか。芸能人や議員さん、芸術家の方たちは、高齢でも若々しいイメージを持たれやすいように思います。人に見られる立場にいる、何かを表現する機会があるのは生きる上で大切なものだと納得できます。
しかし、当然のことながら、皆がそのような職業や立場になれるわけではありません。したがって、高齢者も何か仕事や趣味、役割を持ちましょうとなります。
巷には、その人の興味や趣味、役割を調べるチェックシートなるものさえあるようです。あるいは、健康のため、長生きのために何かやらなければと強迫観念にとらわれてしまっている方もいるかも知れません。
ヒマにしているのはいけないことなのでしょうか?
仕事や趣味、役割が健康にもたらす意味は何なのでしょうか?
一つのキーワードは“居場所”なのではないかと思います。
例えば、先程の議員さんや芸術家は社会に居場所があります(家庭に居場所のない議員さんもいるかも知れません、家庭を持たない芸術家もいるでしょう)。偏見は抜きに女性の高齢者のほうが社交的な印象があるのは事実だと思います。
それはきっと世間に居場所がある、居場所を作ってきたからではないだろうか。もちろん、家の中でそれほど活発ではないけれど、それなりに健康に暮らされている高齢者もたくさんいらっしゃいます。家庭に居場所があるのでしょう。つまり、居場所は安心して能力を発揮できる場のことです、身体にも心にも良い環境のことであり、その点ではヒマもまた良しです。
必ず誰もが経験している、自分の居場所がないことの、あの何とも言えない思い出したくない苦しさ。自分だけ会話に入れない、自分だけやることのないあの辛さ。例えば、男性の高齢者でデイサービスなどに馴染めない方がいる、私はものすごく共感します。
ただ居るだけが許される雰囲気づくり、“これはあなたの仕事です”と、さりげない居場所づくりが大切です。身体を動かして健康づくり、頭の体操で認知症を予防、でもその前に安心して能力を発揮できる場で行われていなければ、効果のほどはいかがなものでしょうか。
参考図書
東畑開人:居るのは辛いよ ケアとセラピーについての覚書、医学書院、東京、2019年.