リハビリテーション(リハビリ)と聞くと、どのようなイメージを持つでしょうか?病院などでセラピスト(理学療法士や作業療法士)が傍らに付き添い、体育館のようなリハビリ室で症状に合わせて段階的に運動プログラム行なっている、そういったものをイメーされる方が多いのではないかと思います。
リハビリで治してもらう、そこまで行かなくてもプログラムは専門のセラピストが考えてくれる、そのような認識は改める必要があります。患者さんに共通するリハビリの目的は生活の回復です。そして生活する場は、リハビリ室でも病室でもなくその人が暮らす自宅であり、人によっては施設かも知れません。
いかに生活する場に向けて“船出”をしてもらうか、それこそがリハビリですし、リハビリの大切な役割です(船出という表現はリハビリ医の橋本圭司さんが著書で使用されています)。
“生活の場で生活をすることがリハビリ”、それを強く気づかせてくれた正義さん(仮名)との経験を紹介します。
正義さんはふらつきや右半身の脱力などを自覚し、脳神経外科を受診したところ急性期の脳梗塞であることが判明しました。意識もややボヤッとしていましたし、右半身が麻痺し健側である左腕を奥様に抱えられ、傾きながら何とか歩ける程度です。
当然入院し急性期の治療が開始されるはずでした。詳しい経緯はわかりませんが、正義さんは入院を強く拒否し、通院での治療と週2回のリハビリが開始されることになりました。医師からは病状が急に増悪する危険性を伝えられましたが、自宅で生活できる、何か本人にその感覚があったのではないかと想像します。
幸い病状は安定し、外来リハビリでお会いすることになりました。リハビリ職員の評価では麻痺が劇的に改善したわけではありませんが、来るたびに正義さんは「歩きやすくなった」「手の動きも気にならなくなってきた」と自信たっぷりにおっしゃられました。
やはり、偽らざる本人の感覚だったのでしょう。
2ヶ月ほどの通院で本人の希望もありリハビリは終了し、本当の意味で在宅生活する地域の人として“船出”されていきました。急性期における回復と言ってしまえばそれまでなのかも知れません。
しかし、もし正義さんが入院していたら…、急性期の脳梗塞ということで循環動態の安定(血圧の変動など)が確認されるまでは安静、まずは車椅子での移動、トイレは見守りなどなど一気に活動量が落ちたはずです。
そしてリハビリを行う中で動かない体、やりにくい動作に直面することになり、その後の正義さんの生活と、生活の場は違ったものになっていたかも知れないと想像してしまいます。
可能な限り早期から生活の場で当たり前に生活する、それを支援することの大切さを正義さんから学びました。
参考図書:橋本圭司 著、リハビリテーション入門.PHP新書、2013年