認知症の行動・心理症状の一つに「介護に抵抗」と表現されるものがあります。介護しようとすると手を払いのけたり、暴力に及んでしまうような場合です。介護に抵抗を“症状”として解釈をすると、腹痛がある、発熱した、動悸を感じると同じように本人に異変が生じている状態として、その原因を本人だけに求めてしまうことになりかねません。
「介護に抵抗」については、他者からの接触や介入に対するリアクションととらえる説があります。
つまり、不意に触られる、受け入れ難いスピードや力で動かされることで生じる恐怖や不快感に対して、自らの身を守る無意識の行為という解釈です。介護への抵抗をリアクションと捉えれば、アクションを起こした側の介護者にも原因があると考える必要がありそうです。
もちろん多くの介護者は、そんな手荒い介助はしていないはずです。しかし、どこを触り、これからどう介助しようとしているのか、それが本人にしっかりと伝わり、受け入れられているか、本人が動くスピードを想定して介助しているかなど改めて気にしてみると良いと思います。
病気や障害の状態によっては、意識もぼんやりとして自らほとんど動けない時もあります。そのような場合、どう介助されようが本人には抵抗すらできません。
しかし、どう触られ、どう動かされたのか、それが快適なものであっても、不快なものであってもその刺激は脳には届いています。丁寧に介助しているつもりなのに、なぜか抵抗されてしまうこともあります。
今起こっている「介護に抵抗」は、今の介助だけが問題なのではなく、療養期間をさかのぼって、どこかの段階で身体に入る刺激を不快なものとして記憶してしまったのが原因なのかも知れません。
介護に抵抗という状況を一つとっても、介護の問題を介護の現場だけの問題として扱うのはそれこそ問題です。一人の患者さん、利用者さんにかかわる専門職はもちろん、家族や周囲の者がどうアクションしてきたか、今、目の前の利用者が介助に対するリアクションという形で教えてくれているのです。
認知症の行動・心理症状の多くは「個人の満たされないニーズを表情・仕草・声・言葉や行動で表出したもの:アンメットニーズサイン」ととらえることができる(山口晴保)。
そう考えますと、介護に抵抗を症状として解釈する前に、何が満たされていないのか、何が満たされてこなかったのか、そう想像して本人と関わることが大切になります。
参考図書 山口晴保 他:認知症ケアの達人をめざす ―予兆に気づきBPSDを予防して効果を見える化しようー.協同医書出版、2021.