今日は何を着ようかしら、次はこんな服を着てみたい、装うことへの関心は想像力をかきたてます。また、実際に買い物へ出かけたり、あるいはテレビの通販番組やインターネットを検索するなどの行為は、体や認知機能を刺激しますから、若々しさの維持や健康とも関連が深いと言えるでしょう。
しかし、服を着る、脱ぐという動作は意外に複雑なもので、単純に手足を曲げたり伸ばしたりという動きだけではなく、同時に衣服の形状や伸縮性などによって微妙に体を捻ったり、すくめたりしながら行っています。
この捻ったり、すくめたりの動きこそが体の柔軟性のことであり、高齢者には厄介な動きとなります。したがって、食事やトイレのような直接生命にかかわる動作とは異なり、着替えは段々と面倒で優先度が低い位置づけとなりやすい動作と言えます。
しかし、高齢者であってもオシャレな方は、背筋が伸びてさっそうとしているというイメージはあると思います。若々しく健康だからオシャレをしていられるのか、オシャレにしているから若々しく健康なのか。
鶏が先か、卵が先かと同じように原因と結果の関係を探ることに意味はなく、オシャレかどうかの判断は別としても、身綺麗にしていることは心身に良い影響を与えているのは確かなように思います。
身体の障害や認知症などによって、自分では着替えることが難しい方もいます。リハビリで着替える練習をする場合もありますが、先述したように着替えは複雑で、本人にとって優先度が低い動作のためにモチベーションが上がりにくいリハビリ内容の一つです。
家族や周囲の者は本人がうまく着替えられないことを責めたり、急かしたりせず、大変な動作なのだと理解を示す必要があります。何より着替えは、その動作を自分でできるか否かよりも、「今日は何を着ようかしら」とちょっと先の未来に思いを馳せるのが素晴らしいことなのです。
着替えに介助が必要になったとしても、介助のしやすさを追求した服選びではなく、「今日はどの服にしますか?」と、本人が未来を選択できる関わりが大切です。
本人が選択した服を着ることで少しだけ背筋が伸びて、シャキッと受け答えしているのであれば、着替えの練習をするよりもはるかに効果的なリハビリになります。