2019年7月、少しづつ家での介護が上手くいき初めたころの話。
家に帰り部屋をのぞくと、赤ちゃんくらいの大きさの人形が部屋の隅に座っていました。
母は手作りが好きで、カバンや洋服などわたしが小さいときは身の回りのものを手作りしてくれていました。なので座っている人形は買ってきたものではなく母が作ったものだとすぐにわかりました。
わたしたちも悩んでいた、じーちゃんにしか見えない「子どもの幻覚」に対して、モノづくりが得意な母がそれを具現化しました。名前は「マモル」。じーちゃんを守るために生まれたという意味でこの名前にしたということです。マモルはじーちゃんやわたしたち家族にとって、このあと重要な存在となります。
わたしはこの時、またなにか作ってじーちゃんを混乱させてしまうんじゃないかと内心否定的でした。でも完成しているし試してみてどう反応するか見てみるか…と思いました。
今回もどうかなぁと思っていた母のアイデアのマモルは…
結果、まさかの大成功でした!
いままでわたしたちを悩ませていた幻覚の子どもはさっぱりいなくなり、じーちゃんはマモルを可愛がるようになりました。混乱させるどころかむしろじーちゃんにぴったりハマりました。
幻覚にとても効果的でした。それだけでなく、パーキンソン病薬の効果が切れてじーちゃんの意識が朦朧としてしまう症状(第7話:ウェアリングオフ現象)にもいい影響を及ぼしたように思います。
マモルが食卓に座るとじーちゃんは目が離せないようで、寝ぼけている暇はありません。
もちろん人形なので動いたりしゃべったりすることはありません。じーちゃんの想像の中で表情を変えるマモルが、じーちゃん自身の表情も柔らかく変えていきました。
母やわたしもそんなじーちゃんの様子を見て、一緒にマモルを可愛がるようになりました。ご飯を食べるペースが落ちてきてこのままだと徐々に意識が朦朧としてしまいそう!と思ったときは、「マモルはもうご飯食べてまったで、じーちゃんも食べような!」と促すと、うまくいくことが多かったです。
以前はだんだんと意思疎通が取れなくなってきて半分寝ぼけているような状態のじーちゃんに、無理やりご飯を食べさせたり寝かせたりしていました。そうすると介助する側もされる側もお互いイライラしてしまって、家族の雰囲気がトゲトゲしく、毎日憂鬱でした。
マモルがそこにいるだけで、イライラの元がスっと解消していきました。
新しい家族「マモル」の存在は、いままでトゲトゲしかった家族の雰囲気を一気に明るくしてくれました。