ワンポイントケア その2
“待てない”とは、分かっているのだけれど果たされない、介護を担う方々に共通する悩みのことです。何かと言いますと、相手の動きを待てず、つい介助の手が出てしまいできることを介助で奪ってしまうという実態です。
本当は自分でしていただいたほうが良いと分かっている、しかし、他の業務に追われてしまい申し訳ないけれども、ササッと介助で済ませてしまう。本人のために行っているはずの介助が、実は本人のためになっていないのかも知れない。そんなジレンマに苛まれながら仕事をしなければならない。
介護の仕事をするとは、人としてのあり方まで問われているような、業務内容以上のストレスと常に向き合わなければならないのです。介護職の皆様、介護を担う家族の方には本当に敬意を表したいと思います。
では、どうすれば“待てる”ようになれるのか考えてみたいと思います。例えば誰かと待ち合わせをしているとき、多少相手の到着が遅れていたとしても、今どこどこまで来ていますというLINEなどの情報があると安心して待てます。つまり、相手の動きが見える(想像できる)ときです。
あるいは、バスや電車に乗車する際に、前の便を逃した人の多くは冷静に次の便を待つと思います。つまり、次の便が“ある”と知っているからです。話を介護の現場に戻しましょう。もし、相手の動きが“ある”と想像できたなら、あるいは“ある”という事実に直面したとすればどうでしょうか。
大人どうしの介助場面、本人がやろうとしている動きを全て遮ってまで、介助で済ませてしまう人はいないと思います。つまり、相手の動きが“ある”と想像するために、“ある”という事実に直面するためにできることは何か、その何かを大切にすれば良いのです。
そのための即効薬が一つあります、それが「声かけの後の一呼吸」です。介助者が介助の前に相手に声をかけてから行うのは当然のマナーです。しかし“待てない”という事情の中では、声かけと介助の間に時間的な隙間が存在していないという事実がありました。
この事実を踏まえて、声かけの後に一呼吸置いてみたらどうでしょうか?そんな提案をしてくれた介護職の方がいました。それは“待つ”を果たすための、まさに珠玉の言葉でした。「声かけの後の一呼吸」、おそらく長くても数秒です。しかし、相手の動きの“ある”を想像する、“ある”に直面するには十分な時間です。
相手の動きが見える、相手の動きを知ることが“待つ”ための大切な要素であるのは、待ち合わせや乗り物を待つのと同じなのです。
“待てない”と悩んでいる皆さん、家族介護の方も同様です。「声かけの後の一呼吸」を実践してみて下さい。