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ゆっくり介助する

 

ワンポイントケア その3

ある施設で行われた勉強会での出来事です。その日は介護技術について、実際の介助の様子を録画した映像を用いて実施されました。勉強会の開始前、一人の職員がパソコンの画面に映し出された自分の介助の映像を何度も再生しては止め、また再生し直すを繰り返して首をかしげていました。

「どうしたの?」と声をかけると、「映像がなぜか早送りで再生してしまうんです」と返ってきました。映像を確認してみると、別に早送りにはなっていないのですが、当の本人はどうも納得していないようでした。

なぜこのようなやりとりに至ったのでしょうか?
その職員は、映像に映る自分の介助が想像以上に速く、パソコンの不具合を疑っていたようなのです。高齢者をあまりにも速いスピードで介助していたのが事実であり、不具合は自分の方だったというオチです。

これはちょっとした笑い話のようで、しかし笑えない話でもあります。例えば、車に同乗した際にスピードが速く感じたり、急ハンドルや、加速減速のタイミングで恐ろしいと感じた経験は誰でもあると思います。そんな時は無意識に体全体が緊張し、言葉数は減り、飲み物を飲む手も止まるでしょう。

しかし、ハンドルを握る運転者は恐ろしいと感じて運転しているはずはありません。ことだと思います。

おそらく受け入れられるスピードとは、その人が自分で動くとき(運転やスポーツなど含めて)のスピードの範囲です。子どもや、競技の初心者がアスリートに混じってプレイしても手も足も出ないように、介助者が自分のスピード感覚で介助してしまうのなら、介助をされる高齢者の体は緊張し“されるがまま”でいるしかありません。

もし、その“されるがまま”の様子をもって何もしない、何もできないと判断されてしまうのであれば、本人にとってはどんなに不本意なことでしょう。

その人に残存する能力に気づくために、誰でもできる簡単な方法があります。それは“ゆっくり介助する”です。言い換えるとするなら、“本人が自分で動いているスピードを想像して介助する”です。

本人が受け入れられるスピードで介助が進むとき、介助に協力する動きが出てくるのです。また表情も和らぎ、言葉も出しやすくなります。ちょうど、同乗した車が快適な速度で安全に走行しているのなら、景色を眺め、飲み物を飲みながら運転者と楽しく会話ができるように。

ゆっくり介助する、たかだか数秒の違いです。されどこの数秒によって、表情も動きも読めない単なる早送り映像のような介助になるか、表情や動きが分かる印象的なドラマになるか、大きく変わります。

 

筆者
大堀 具視(おおほり ともみ)
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