よく歩いている人は元気だ。 元気な人はよく歩く。
どちらも正しいのでしょうが、いずれにしても適度な歩行習慣によって健康はもちろん、認知症の予防にも効果があると言われます。したがって、すでにウォーキングを行っている、これからやってみようと考えておられる方も多いと思います。
歩行がなぜ認知症予防になるのかを「運動」という視点ではなく、少し違った角度から考えてみたいと思います。そこで重要となるキーワードは「移動」です。なぜかと言うと、個人の事情により歩くことができない方もおられます。しかし、歩けない方が不健康になりやすいとか、認知症になりやすいということはもちろんありません。「移動」することが大切なのではないかと思うのです。車椅子を使用していたとしても、可能な限り(必要な介助はあって良いです)自分で移動するのが肝となります。
自分で移動することで様々な刺激に出会います、それは景色の変化や、他者との思わぬコミュニケーションのような大きな刺激もあれば、街の匂いや、気温の変化、物や人とのすれ違いといった小さな刺激は絶え間なく体に入ってきます。
その時々で記憶に残るほどではない様々な感情や思いが湧き上がっては消えていきます。それが人生の小さくも一つの経験であり、つまりは意味ある脳の活動につながっています。
自分で移動することがいかに大切か、それを証明する面白い実験があります。ヘルドとハインの実験と言いますが、簡単に説明すると以下のようなものです。
遊園地のメリーゴーランドを想像してみて下さい。2匹の小ネコのうち一匹は自分の足で歩いてメリーゴーランドを回します、もう一匹はゴンドラに乗って自分で歩く猫に引っ張られる形で回ることになります。2匹のネコはグルグル同じ場所を回ると言う意味では同じ経験をしていますが、数週間後自分で歩いたネコは正常に歩けましたが、ゴンドラに乗せられたネコは物にぶつかったり、障害物を避けることができないといような状態になってしまったと言います。つまり、認識(認知)とは自分から世界へ働きかけることで得られるものなのです。
認知症予防にウォーキング、もちろん結構な心得です。注意したいのは、やらされているのでは意味がありません。世界に働きかけることを意識して歩きましょう。
なにも難しくありません。興味を持って景色を眺め、人間観察し、美味しい匂いに誘われ、季節の変化を感じ取りながら歩くのが良いと思います。脳トレを意識して計算しながら歩かなくても、しりとりしながら歩く必要もありません。
それなら、旬の食材に目を奪われながらスーパーで買い物する方がよほど認知機能は刺激されて認知症予防に効果的でしょう。