ワンポイントコミュニケーション その3
体で覚えたことは忘れません。介護が必要となった高齢者とかかわる際には、まずこのことを念頭に置いておかなければなりません。「介護技術」という言葉が使われるとおり、介護は、とかく介助者が行う方法として理解されているところがあると思います。
しかし、方法なら“体で覚えた”という言葉の通り、高齢者本人の体にあるのです。したがって、介助者は本人がやろうとしている動きは全て正しいものとして、信用する姿勢でいることが大切です。本人が使う動きの設計図は、もしかすると少し錆びついたパーツを使い、モーターの動きも遅く、効率の悪い手順で描かれているのかも知れません。
だからと言って、使うパーツやモーターを度外視して、介助者が持つ新しい設計図で対応しようとしても思うように動きませんし、古くても正しい設計図に従わなければ、むしろパーツもモーターも壊れてしまいかねません。
一人ではできない動作に介助は必要です。でも正しい設計図があり、パーツもモーターも揃っている場合、どうしてもパーツやモーターの故障を疑ってしまいがちです。つまり、筋力が衰えている、関節が硬い、体力が衰えているなどです。
高齢者の筋力や関節、体力を測れば、動作ができない理由はいくらでも発見されてしまいます。しかし人間はパーツとモーターをつないだ機械ではありません。何かができない原因には、恐ろしい、自信がない、失敗したら恥ずかしい、迷惑をかけたくないといった本人にしかわからない気持ちが複雑に絡みあっています。
パーツやモーターを磨くこと、つまり体操したり、筋力をつけたりすることは、やらないよりはやったほうがもちろん良いでしょう。しかし、介助者の設計図で介助しようとする限り、磨いたパーツやモーターは十分に使われないままになってしまいます。
改めて、設計図なら正しいものを本人が持っています、介助者からすれば些細で、わずかな動きであったとしても、本人の正しい設計図で動いていると信用すれば、必ず出てくる言葉があります。
それは「うまくできていますよ」「どうぞ、自信をもってやってください」という肯定の言葉です。その言葉が、多少錆びついたパーツを、あるいは、動きの遅くなったモーターを回す潤滑油となるのです。
介助者は自分の設計図を基に手を出したくなります。それをまずは一旦こらえ、本人の遅くて拙い動きに対して「うまでできていますよ」「どうぞ、自信をもってやって下さい」と、言葉を掛けてみてください。本人にある設計図で動いていただく、それを使って介助する。「その人らしい」という表現を使うのであれば、そんな場面にこそ表れていると思います。