寝不足の朝も、二度寝して寝過ぎた朝も、適度な睡眠時間をとれた朝も、共通しているのは、布団から出るにはそれなりに気合いが必要なことです。たかだか数時間ですが、私たちの体は動かないでいると、動くのが億劫になるという性質があるようです。
それが寒い冬の朝のように、体温で心地よく暖まった布団の中であれば尚のことでしょう。ぬるめの温泉につかっていると、お湯から出たくなくなるのと同じですね。つまり体は、ある状態に慣れてしまうと、変化を嫌う、変化がストレスになるものなのです。
動かない状態でいることに対する変化とは「動く」です。例えば、病気などで入院し、ベッドに横になっている生活が長くなってしまった方には、「動く」がストレスになってしまいやすいのです。「動く」がストレスになると、なかなか本人から動いてはくれません。
そのような方に対して“動けない人”と判断してしまい、安易に介助の手を出してしまうのは良くありません。動けない人なのではなく、動かないでいることに慣れてしまった人として理解して差し上げてください。なぜなら、動かないでいることに慣れて「動く」がストレスなのであれば、(介助で)「動かされる」も同じくストレスになるからです。
では、どうすれば動いていただけるようになるのでしょうか。暖かい布団への未練を断ち、起き上がるとき、ぬるめの温泉で湯船から出るとき、皆さんはどうしているでしょうか。
もちろん一気に起きてしまう、一気に湯船から上がってしまうという方もいると思いますが、特に高齢者の場合そうはいきません。少し動いて体を慣らし、また少し動いては慣らしを積み上げて起き上がる、湯船から出るという目的を達成するのではないかと思います。つまり、体が受け入れられる変化(動き)を自分で調節しながら行っています。
そのような、普段私たちが行っている方法に介助を行う上でのコツが見えてきます。介助の手を出す前に、どのくらいの動きなら本人が受け入れられるのか、まずは受け入れられるだけ自分から動いてもらいます。
たとえ最初から介助が必要であったとしても、一気にたくさんの変化を体に及ぼす(一気にたくさん動かしてしまう)のではなく、少し介助で体を動かしてそれに慣れてもらい、また少し体を動かして慣れてもらうを積み上げていくことが大切です。介助で動かされることがストレスになってしまうと、それが引きがねとなり返って介助量が増えてしまうからです。
動けないのは本人のせいだけではありません。動かないことに慣れてしまうという状況を作った医療・福祉関係者、家族をはじめ、周りの人にもあるということを知っていただきたいと思います。