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頑丈な物で動きを誘う

 

ワンポイントケア その4

東京スカイツリーの展望デッキ(地上340メートル)にはガラス床になっている箇所がありますが、そこに立つ、踏んで歩く時には多少なりとも身がすくむと思います。日常生活で馴染みのあるガラス製品は、壊れやすい、慎重に扱うものというイメージが定着しています。

したがって、強化ガラスを何枚も重ねてあり、踏もうが飛び跳ねようが壊れることはないと頭でわかっていても、体は無意識に固まってしまうからです。つまり安心できないという状況では体は動いてくれません。しかも、頭で考えるより先に体が先に反応してしまいます。

 

介護が必要となった高齢者の中には、本当はできるはずの動作にも介助を要してしまっている方がおられます。できるはずのことができない、その原因の一つに動くことへの不安があると想像してみましょう。安心感が動きに影響するエピソードとして、実際に高齢者介護の現場では以下のような場面に遭遇します。

 

例えば、車椅子からベッドに乗り移る際に、思い切ってお尻を持ち上げることができない方に対して、掴まる物をベッドの手すりから、L字バーと呼ばれるやや頑丈な持ち手に変更するだけでスムースにお尻が持ち上がりベッドへの乗り移りが楽になります。

あるいは座位が不安定な方に対して、少し頑丈な(重量感のある)テーブルなどを本人の横や前に置いて差し上げると、それだけで座位の姿勢が安定します。

 

体が無意識に安心を感じるのは、見た目の頑丈さです。そして寄りかかるなど自分の体重を物に預けたとき、その物から体に伝わる感触によって安心を確信します。目の前に頑丈そうなL字バーがある、そっと手を伸ばし掴んでみる、頑丈だと感じた時にはすでにお尻は持ち上がろうとしています。

頭で考えるより先に体が先に反応するのは、スカイツリーのガラス板を前に体が固まるのと同様に、見た目の頑丈を感じた場合には体が先へ先へと動き出してくれるのです。

 

「さあ、私の胸に飛び込んできなさい!」と言う殿方の、胸板が薄く、弱々しい佇まいであれば、その体に身を任せる姫君はいないか、あるいは見栄えのしないドラマのワンシーンになってしまいます。介護とは、本人が安心してその動作に身を投じることのできる環境づくりと言い換えても良いでしょう。

 

胸板は薄くても、本人にとって安心できる介護者でありたいものです。

 

 

筆者
大堀 具視(おおほり ともみ)
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