ワンポイントコミュニケーション その4
高齢者の自立支援を考えるときに欠かせないのは、その方に本当はどのような動作能力があるのか正しく知ることです。“本当は”とあえて表現するには理由があります。何らかの動作ができなくなる、あるいは介助が必要となる原因には様々ありますが、その方の年齢、これまでの生活歴、患っておられる疾患、障害の有無や現在の状況などから、できるはずの動作はある程度推定できます。
しかし、実際には本当の能力は使われずに、“できるはずのことをしていない”というギャップが生活の中で生じています。できないことをできるようにするのではなく、できるはずのことをしてもらうのが自立支援です。
なぜ、できるはずのことができていないという状況になってしまうのでしょうか。できていないことを体の機能低下のせいにしようとすると、大袈裟ではなく数えきれないほどの原因が炙り出されます。その一つ一つに改善を迫られるのであれば、当の本人はたまったものではありません。
そして、できていないという現実に対して、本人の体や気持ちだけに理由を求めて完結してしまうという誤った思考や対策が強化されてしまいます。
できる、できないは本人だけの問題ではありません、人や物など本人を取り巻く環境によって動作能力は大きく影響を受けます。つまり、介護場面を考えた場合、本人のできる、できない、その原因を介護者にも求めなければ根本的な解決には至りません。
“できるはず”のことなのですから、高齢者本人の体は何も変わらなくて良いのです。変わるのは、「できますよね」という本人に対する介護者の信頼です。信頼のないところ(割れるかも知れない氷の上で、認めてくれない上司の下で等々)で人は動きません。それは、人生の様々な場面で誰もが経験してきているはずです。
できるはずのことを自信もってやっていただく。本人に対する信頼を示す、本人から信頼されるためにオススメする良い言葉があります。「私がここにいますから、どうぞ安心して動いて下さい」です。
できるはずのことができないのは、本人が自分の能力に対して信頼を失ってしまったのです。だから、目の前の介護者が揺るぎない信頼で「私がここにいますから、どうぞ安心して動いて下さい」声をかけて差し上げる。誰にでもできる、そんなコミュニケーションから自立支援を始めてみませんか。