施設(病院も)では、利用者さんが万が一でも転倒しないよう細心の注意が払われます。ご家族としても、まさか施設内で本人が転倒し怪我や骨折を負うなどとは少しも想像していないと思います。
施設での転倒は“事故”として扱われ、何となく加害者―被害者の構図で事情説明や再発防止などが話し合われます。その背後には、かたや転倒させてはいけない、かたや転倒は起きなくて当たり前という、ややいびつな心理的関係があるように思います。
普段生活していれば子供から高齢者まで誰でも転倒します。「いやあ、昨日“転倒事故”を起こしちゃって・・」という会話は聞いたことがありません。誰かに突き飛ばされたとか、誰かに足を引っかけられた、誰かに罠を仕掛けられたとかいう理由で転倒することはまずないからです。
施設も同様です、他者が原因の事故で転倒するのは稀です。転倒の要因は様々ですが、突然のふらつきや、足元のつまづきが発端となる場合が多く、誰かが事前にリスクをキャッチしたり対処するのは難しいところがあります。
したがって、転倒の要因を職員の方で排除していこうとすると、介助量を増やすことや、なるべく動かないでいていただくという方向での対応になりがちです。
究極的には動かなければ転倒は起こり得ませんので、転倒ゼロを目指すのであれば“寝たきり”にさせるのが最善策となってしまいます。しかし、動かないでいると骨はどんどん脆くなりますので、ベッド上の介助中にも骨折が起こることさえあります。
それ以上に感染症始め、疾病にも罹患しやすくなってしまうのは皆さん承知のことと思います。動かないよう対処することで転倒は回避できても、それ以上に望まない状況が次々に訪れるリスクの方が大きくなってしまいます。
転倒を予防するには、転倒を容認できる周囲の覚悟が必要です。もちろんそれは、施設で暮らされている方のご家族にも言えることです。信頼できる施設で信頼できる職員のもとでも転倒してしまう場合はあります。その際、家族として施設の責任を考えてしまうのは仕方のないことかも知れません。
でも、同時にこの施設は本人の意思を大切にして自由な動きを認めてくれる、そんな対応をしてくれているところという逆の視点も持ってみてほしいと思います。
もし、転倒してしまったとしても、「自分で動こうと頑張ったのね」と認めて差し上げる心でいてください。それが、本人の安心を促し次の転倒を予防することにもなるのです。