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触れた手を数センチ離してみる、少しだけ離れて歩いてみる

ワンポイントケア その7

気持ちが落ち込んでしまったとき、悲しいことがあったとき、体調がすぐれないとき、家族や友人がそっと体に触れていてくれる。気持ちが楽になり、安心と落ち着きを取り戻します。人の手は言葉以上のものを伝える力があることを私たちは経験的に知っています、あるいは本能として備わっているのかも知れません。

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介護やリハビリの場面でも、家族や職員の手が自然と本人の体に触れられているところを目にします。

介護者と高齢者という目で見ると、椅子から立ち上がったり、歩行をする際に介護者が高齢者の体に常に触れている様子は特に不自然さを感じません。しかし、実は立ち上がったり、歩行をするのに、特に本人の体に触れている必要がないと分かっていながら触れていることも多いのです。

介護の経験のある方には“介護あるある話”としてうなずかれる方も多いと思います。

外国映画で紳士が淑女の背中にそっと触れて歩く姿はエスコートすると言われますが、エスコートは日本語に訳すと“儀礼的護衛”と言うそうです。つまり、慣習に従い強い者が弱い者を守るという意味です。

必要性の有無とは無関係に、介護者が相手の体に何気なく触れていてしまう様子に不自然さを感じないのは、暗に強い者と弱い者という関係が常識となっているからなのではないでしょうか。

一人で立ち上がることができる、歩くことができるのは、心疾患などで運動することにリスクのある場合を除いて、誰かの許可が必要であるとか、何かの基準をクリアしなければ認められないようなものではありません。

本人が一番よく分かっていることです、次にいつもそばにいる家族や介護者が何となく分かっています。そうであれば立ち上がるときに、触れた手を数センチでも離してみれば良いのです。歩くときにほんの少しだけ離れて歩いてみれば良いのです。

触れられた手が無いとき、介護者が視界から少し遠くなったとき、本人はいつもより責任や自覚もって立ち上がり、そして歩きます。だから、立ち上がること、歩くことが本人のものになっていきます。まさに自立支援です。

介護者が相手の体に触れることで、言葉を使わずとも安心を伝えられるように、体に触れた手を離すのは、“あなたを信用していますよ”と言葉を使わずに伝えられるのです。

触れた手を数センチ離してみる、少しだけ離れて歩いてみる、簡単ですが高度な介護技術です。

筆者
大堀 具視(おおほり ともみ)
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