傾聴とは、説明するまでもありませんが、辞書には耳を傾けて聞く、注意深く熱心に聞くとあります。カウンセリングでは相手の話を遮らずに、共感しつつ聴くのが大切とされているようです。そこには安易に聞き手が解釈したり、判断したり、意見したり、ましてや否定したりするのは控えましょうという意味が込められています。
黙って聞いてもらえることによって、相手は受容されていると感じ、安心して話す環境が整うのではないかと思います。
さて、私たちが表現するのは何も言葉によるものだけではなく、表情や仕草はもちろんのこと、何かしようとしているちょっとした動きも大切な表現です。憲法でも保障されている表現の自由ですが、まさにどう動くかという表現は本人の自由であり、普段はもちろん誰かに規制されるようなものではありません。
だからこそ、私たちは安心して生活を送ることができるのです。しかし、誰かに介護を受けなければならないという事態は、言い換えると自分でどう動くかという表現の機会が奪われてしまうと言っても過言ではないように思うのです。
黙って聞いてもらえることで安心して話す環境が整うのであれば、介護もまずは黙って見てくれているという介護者の姿勢によって、本人が安心して動き出そうとする環境が整うものです。つまり傾聴が大切なように、“傾目”を大切にすると良いと思います。
精神科医の高橋和巳さんは「黙って聞いてもらって賛成してもらうだけで人は楽になります」と著書で述べています。ということは、介護では、まず相手の動きを黙って見て、賛成するところから始まると、本人が安心して動き出そうとされるのではないでしょうか。
「どうぞ自由に動きはじめて下さい」と切り出し、黙って見守りつつ「そうそう、それで良いですよ」と賛成してみると、意外な一面を見せてくれることでしょう。もちろん一人ではできない動作に介助は必要です。
しかし、介助の手を出すのは一旦控え、黙って見守り、本人の動き出しを賛成してからでも遅くはありません。口を挟みたくなるのをじっとこらえ、賛成して聞くは精神科医やカウンセラーの大切な技術だそうです。介助の手を出したくなるのをじっとこらえ“賛成して見る”は、介護者にとって当たり前にしたい大切な技術だと思います。
【参考図書】高橋和巳 著:精神科医が教える聴く技術.ちくま新書、2019年