ワンポイントコミュニケーション その6
介護が必要となった方が苦手とする動作がいくつかあります。それはベッドに腰かけているところから寝ていく動作や、立っている状態から椅子に腰かける動作です。両者に共通しているのは、視界から外れている方向へ動かなければならないというところです。
自分で動作を行えているときには、いつものベッドや椅子であれば、枕や椅子の座面の距離感や方向を予測して動き出すことが可能です。あるいはチラ見程度の確認があれば問題ありません。しかし、自分から体を動かすことが少なくなった方にとっては、この予測して動くというのが難しいのです。
ベッドに寝ていくときにはお姫様抱っこのような介助で寝かされていたり、椅子に座るために体を屈めていくのが難しく、介助に難儀されている様子を見かけることも多いです。
動作は見ることから始まります。したがって、寝ていく動作や椅子に座る動作が難しい方に対して「枕を見てもらえますか」、「椅子の座面が見えますか」と投げかけてみると良いです。
枕や座面を見ると、自分との距離感や方向をつかむことができるので、どう動いたら良いか分かりやすくなります。何より見るという行為は視線が動くだけではなく、それに伴い首が動きます、首の動きは上半身の動きへと波及していきます。
つまり、まずは見てもらうところから始めると、それだけで動作は開始されるのです。動作が開始されればしめたものです。介助は自然とその動きに寄り添うようなものになりますから、動作を行う本人にとって大切な“自分でやった感”が得られます。
また、視界から外れる方向へ動くという恐ろしい動作から、見える目標へ向かう動きという安心できる動作に変わります。
普段、介助量が多くなってしまっている方では、見るだけではそう簡単に動きにつながらない場合もあるでしょう。それも構いません。見るという負担の少ない動きを動作の度に繰り返すだけでも、少しずつ少しずつ動きが出てきます。
なぜなら、視界(視野)の広さと動く能力はある程度比例するからです。まずは、動くための土台づくりとして、視界を広げるとこらから始めると良いのです。
(次回:「視野の広さが動ける範囲」へ続く)