ワンポイントコミュニケーション その8
同じ利用者なのに、介護者が変わるだけで介助量が大きく異なる場合があります。言い換えると、本人の持っている能力を引き出すのは介護者次第だということです。
利用者に残存する能力が生活に活かされるかどうかは、介護の仕事の魅力が表れる象徴的な場面となります。
介護が必要な方、とりわけ高齢者の場合は、体調の変化や疲れや眠気などによって若い人よりは動作能力がその時々で変化しやすい面はあります。
したがって、利用者の動作がなかなか開始されない時には、つい介助の手が出てしまいやすくなります。いわゆる“待てない”という“介護あるある”の事態です。
では、本人の能力を上手く引き出せている介護者(以下、引き出す介護者)とは、どんな凄い技術を持っておられるのだろうかと気になるところです。
そこで、たくさんの介護場面の映像を何度も見てみることにしました。映像という事実からは、「なるほど」と見えてくるものがありました。
引き出す介護者に共通していたのは、利用者に声かけをした後に自分は少し身を引いている、利用者と距離を置く様子です。介護者によっては、「やっていて下さい」と声をかけている場面もあります。
しかし、そのような声かけがなくても、介護者が身を引いている映像からは“やっていてください”が伝わってくるのです。
介護とは人間関係です、介護者が介護をする気で行けば、利用者は介護者に身を預けてきます。逆に介護者が身を引けば、利用者は動き出しやすくなります。引き出す介護者は、それが無意識に分かっているのでしょう。
そこには、もう一つ大切なことが隠れています。「やっていてください」と言えるには、それを“やれる”、少なくとも“やり始めることはできる”という本人の能力に対する理解と信用が必要です。
利用者の能力を正しく理解するには相応の経験が必要です。でも、「やっていてください」の声かけは、誰でもいますぐにできます。「やっていてください」のコミュニケーションが先にあり、その声かけに本人が応じてくれる姿を通して、逆に本人の能力を理解することも可能です。
本人のことは本人から学べば良いのです。そのためのコミュニケーションとして「やっていて下さい(少し身を引きながら、介護者は別なことをしながら)」が役に立ちますよ。