ワンポイントコミュニケーション その9
病気や体調不良によってベッド上での生活が長くなってしまうと、特に気をつけなければならないことがあります。それは褥瘡(床ずれ)の予防です。
最初は発赤程度のものがいつの間にか大きく深い傷を作り、痛みはもちろんのこと、感染症などの原因にもなってしまいます。敗血症など命の危険に及ぶような事態を招く場合もありますので、施設に限らず在宅介護を行う上でも、褥瘡予防に意識をはらっておく必要があります。
褥瘡予防の介護の一つにポジショニングと体位交換があります。寝ている間に体にかかる圧が分散されるようクッションなどを体とベッドの隙間に配置するような方法です。また、体の向きを2、3時間おきに変えて自分では動けない方が、なるべく長い時間同じ姿勢でいないよう配慮します。
“圧を分散させる”、“長い時間同じ姿勢でいない”、理論的には正しいのでしょうが、決定的に欠けている視点があります。それは、そのポジションでの本人の寝心地です。
病院や施設などでは、ややもすると理想とするポジション(誰でも模倣できるように写真が床頭台などに貼られていたりします)という形を作ることに躍起になってしまい、貼られている写真と似たような形になっていることに満足してしまう場合もあります。
そこで、専門職の方たちにお互いが患者さん役となって、理想的なポジショニングを作ってもらうという試みを勉強会や研修会などで続けてきました。
このような経験で分かったのは、経験のある専門職だとしても他者によって作られたポジションは数分と持たないほど安楽ではないということでした。
しかし、次に患者役がこうして欲しい、例えば右腕をもうちょっと高くして、左足のクッションの位置を少し下にして欲しいなど本人の意見で微調整すると少しは心地良い状態が続きます。
知識をもとに理想的なポジションを作るのはもちろん大切だと思います。そこにプラスアルファの一言、「寝心地いかがですか?」が加わることで、本人の安心感がグッと高まると思います。
美容室でシャンプーの際に「痒いところありませんか?」と聞いてくれます。おそらく多くの場合は「ありません」となるのでしょうが、なぜか毎回聞かれるのはお客様を主体とする接客業の基本なのでしょう。
「寝心地いかがですか?」、一言添える意義は介護の場面でも同じようにあると思います。そして、もし、こうして欲しいという本人の意見が聞かれるのであれば、本人にとっての理想的なポジションについて、貴重な情報が一つ得られる大きなチャンスになります。