ワンポイントケア その13
もし、たった一人、大海原に投げ出されてしまったとしたら、想像するだけでも恐怖と不安に襲われると思います。しかし、同じ深さの水の中でも、それが川だったら少し恐怖の度合いも小さくなるかも知れません。さらに、それがプールであれば、恐怖心も薄らぐものと思います。
つまり、同じ深さの水の中であったとしても、自分を取り巻く世界が大きすぎると恐怖を感じます。
一方、それが小さければ小さいほど恐怖心は薄れ、安心の方へとシフトします。例えば、赤ちゃんの沐浴は最初から家の湯船には入らず、沐浴用の小さいものを使用しますし、さらにはガーゼなどで体を包み込んだ状態で体を洗っていきます。
小さな世界から生活はスタートして、少しずつ世界を受け入れ、様々なことにチャレンジするようになるのが発達ということなのでしょう。
介護の場面でも、目の前におられるのは、動けない高齢者なのではなく、動くための世界が大きすぎて、無意識の恐怖感で体がこわばってしまっているだけなのかも知れないと理解することもできると思います。
分かりやすい例を上げれば、椅子から立ち上がる際には体を前傾させる必要がありますが、この動きがなかなか難しい方がいます。本人も分かっているのに体がのけ反ってしまい本人も介護者も大変な思いをします。そこで、“世界を小さくする”が役立ちます。
体を前傾させるために、本人の胸前に介護者の手をかざして差し上げるだけでも、本人が体を前傾するための世界を小さく区切ることができます。そうすると、こわばってうまく前傾できなかった人が、スーッと動いてくれやすくなります。
そして、また少し前に手をかざして、少しずつ動く量を大きくしていけば良いのです。十分に前傾すれば、自然と足元に力が入りやすくなりますので、のけ反ることなく本人ができる動作能力を発揮し、立ち上りもしやすくなります。
また、介護者も必要以上の介助をしなくて済みますので、まさに自立支援です。安心して動くために世界を小さく、それは立ち上がりだけではなく、ベッドから起き上がるときや、歩行のときなど、できそうなんだけどなんだか突っ張ってしまうようなときにはとても有効です。
ぜひ、介護技術のレパートリーに入れて試してみて下さい。もちろん、運動の苦手なお子さんの、ちょっとしたチャレンジにも有効です。