医療や介護の現場に入って、まだ日の浅い職員の方と一緒に利用者のケアにあたるとき、職員が口にする気になる言葉があります。それは「(ケアに)拒否のある方なんです」という、職員からすれば切実なものです。
なるほど、「お邪魔します」と居室に入るとやや強張った表情で出迎えられる利用者も居られます。その場にキュッっと緊張感が漂い、ぎこちないコミュニケーションがスタートします。
私自身も経験があります、「怖そうな方だな」、「ケアに応じてくれなかったらどうしよう」、「私のことを嫌いなのかな」と次々頭をよぎります。たいがいの場合、その後のケアはうまく進みません。答えは簡単なことでした、拒否しているのは利用者ではなく、私自身だったのです。
初対面の利用者とかかわるのは、もちろん緊張します。まして“介護に抵抗”などというようなエピソードを聞かされればなおのことです。しかし、利用者も立場は同じです。
知らない職員、怖そうな顔をした職員、ソリの合わない職員などなどいろいろなことを心配し緊張し、強張った顔で待って居られるのです。初めから怖い人や機嫌の悪い人はいませんし、会ったこともない人を嫌うことはありません。
「拒否がある方なんです」という職員には、必ずその前に、「あなたの方が拒否していませんか?」と問いかけるようにしています。すると、皆さんハッとした顔で言葉を失います。
「怖そうな方だな」、「ケアに応じてくれなかったらどうしよう」、「私のことを嫌いなのかな」と、人は誰でも自分を守る方に目が向きがちです。利用者も同じと考えれば、利用者が職員に対して自分を守らなければならないような状況で生活するのは避けなければなりません。
介護する者の心得として、自分自身の緊張感、恐怖感などネガティブな感情の存在を受け入れ、その上でオープンマインドに利用者とかかわることが大切だと思います。「拒否がある」、簡単にそう考えてしまうのは偏見です。
偏見を無くすには、自分にある偏見を受け入れることから始めたら良いです。それだけできっと、「お邪魔します」と入室する時の表情や声色が変わっていることでしょう。