随分前にドライブしていたときのことです。
横断歩道のある歩道上に、横断歩道を渡るのを迷っているのか、それとも誰かを待っているのかわからない静止してキョロキョロしている歩行者がいました。
反対車線にパトカーが止まっていたのは知っていましたが「歩行者は横断しない」と判断し横断歩道手前で車を止めずに走り抜けました。
ところがパトカーはUターンして僕の後ろから「前の車、止まりなさい」と。
意見を申し述べても「私も見ていました。渡ろうとしていたでしょ」と言われ、僕の言い分を証明することもできず横断歩行者妨害で切符を受け取りました。
それからというもの「停車」を守ってはいますが、先日のことです。
通常より道路としては道幅のある片側二車線の大通りで、見るからに高齢者が横断歩道を渡ろうとしていたので停車して、ルールに従い渡りきるのを待つことにしました。
当然、後続の車も僕に続きましたので高齢者が渡ろうとするのをたくさんの車が待つ状況になりました。
以前ならこれほどの大通りであれば、歩行者が反対車線横断歩道上に差し掛かった位置なら交通渋滞を招かないように「さっさと行ってあげよう」的発想で進んでいましたし、
後続車も僕が止まって待とうものならクラクションを鳴らして進むことを促したであろうと思える状況でしたが「渡ろうとする歩行者がいれば停止」が基準なので停車しましたし、後続車も静かに僕に続いたんでしょう。
渡ろうとする高齢者を見ていたところ「自分のために車が待ってくれている」という心理が働いたのでしょうか、少々足早で渡ろうとしたためバランスを崩して転倒されてしまいました。
幸い、同じタイミングで渡っていた方々が救ってくれましたが、僕からすれば「起こるべくして起こった二次災害(事故)」です。
僕らでも、車が待ってくれているという心理が働くと足早になりますし、子供連れの親御さんが子供たちを急かす光景をよく目にします。
ましてや僕よりも年輩の方々は「他人を待たせちゃいけない、迷惑かけちゃいけない」が身に染みている方々ですから「慌てなくてもいいんですよ」「車は待たせていいんですよ」と言われていても、こういうことが起こるのは無理からぬことで、こういうことが全国各地で起こっていやしないか気になって仕方ありません。
歩行者の安全優先は大事なことですが、こういう結果を招くことは高齢者にたずさわっている僕らにすれば「想定内」とも言える「普通に起こり得ること」で、こっちのほうにも手立てが必要だと感じました。
つまり、歩行者が動く「動」の時に車を停車、「静」にしてリスクを下げる、という真っ当なルールであるにも関わらず、そこに人の心理が加わって「より動」を生みだしてしまい、
転倒リスクが高い高齢者だったがゆえに二次災害が起きたということで、いわゆる「慌てさせてしまう状況」が「転倒を招いてしまった」ことになるのですが、
超高齢社会日本において、これをどう考えるかです。
あるグループホーム(認知症の方々の住まい)では、買物に行くのに四車線道路を渡らなければならず、しかも信号の間隔が短いため入居者が渡り切れず、渡り切るまで職員さんが横断歩道上に立って車を止めて対応していました。
その後、その状況を知った行政機関が動いてくれ、渡り切れる歩行者用信号機にしてもらえたため、歩行者信号を高齢者が渡り切れる時間の長さになり且つ、職員さんが同行して慌てないように支援するため、一次事故(交通事故)も二次事故(転倒事故)も起きていないようでした。
つまり、「動と静」だけではなく「より動」を生まない手立てまであることで「事故なし」だということです。
ここまでしなければ「安心して渡れる高齢者対応型」とは言えないでしょうが、それを一般化するにはどうすればいいかですね。
よく目にするのは交通安全週間のときに、子供たちの動きや車の動きを抑制する「黄色い旗をもった人」が横断歩道に立ちますが、これを一般化するのは難しいでしょう。
できることと言えば、ドライバーには免許更新時の講習があるように、高齢者には道路歩行講習を設けて「車は止まる社会的ルールにしているから慌てなくていい」を人々の中に刷り込むか、AIを使って横断前にその場で吹聴して刷り込むか・・・。
僕的には、超高齢社会日本においては高齢者が道路を横断する場面が多くなるのは必然な中、歩行者を護るためには中途半端なことをしないで完全にスクランブル化し「車が動く時間帯」と「歩行者が動く時間帯」を切り離し「動」と「静」に分離する手立てが一番確実な安全策なんじゃないかと思っていますが、どうなんでしょうか。
今のままでは、右左折したい動く車の前方を、横断歩道を渡る人が動く「動と動」ですから、当然のようにリスクありますからね。
スクランブル交差点は、運転しているときの僕にとって待つ時間は長く感じますが、車を動かすとき歩行者は前・右横・左横すべての人が止まっているので安心感が高いですし、歩行するときの僕にとっても、僕が動くとき交差点周りの車は全て止まっているので子連れ・犬連れでも安心です。
介護においても、よくあるのは職員さんが利用者の歩行介助をしながら何かをしようとして転倒させてしまうことですが、これも「動と動」だからです。
何かをしたいのなら利用者を止めて安全確保してから自分が動く「動と静」の状況にすれば、リスクは下げられます。
僕には、自分のチカラを過信して高齢者に痛い思いをさせてしまった経験があります。
歩行状態から「付き添っての見守り支援が必要なトメさん(仮名)」に付いて歩きながら、後方を歩いていた「付き添いは必要ないが見守りが必要なガンさん(仮名)」の所在を確認するため後方に目を向けた瞬間トメさんがつまずいて転倒という痛ましい事故を招いてしまいました。
これも「動と動」だったからで、後方を確認するなら一旦トメさんの歩行を止めて「静」にしてから行うべき原則を破ってしまった失態でした。
介護現場における様々に起こっていることを「動と動」「動と静」「より動」といったような切り口で俯瞰すると、また違った景色が見えてくるのではないかと思いますが、いかがでしょうか。