自分の足で自由に歩き回ることができる、普段は意識しませんが足腰の不調が出たときに、いかにそれが素晴らしいことかを実感する方も多いことでしょう。歩くためには、その前に大きな関門となる動作が一つあります、それはもちろん立ち上がるという動作です。
座っているという安定した姿勢から、立つという不安定な姿勢に変換することとなる立ち上がり動作は、足腰の不調の際には転倒の危険や恐怖をより感じますし、重力に抗って頭の位置を高くしなければならないわけですから相当な筋力も必要とします。
したがって、知らず知らずのうちに生活の中で立ち上がる回数は減り、自然と歩く機会も減ってしまうのです。歩くという素晴らしい能力を失わないためにも、その前の立ち上がり動作が難しくなってきた方に対する介助の考え方や方法は大切になります。
転倒の危険や本人の恐怖感を考えると、立ち上がり動作への介助は過介助になりやすいものの一つです。それはとりもなおさず介護負担につながるわけですし、介助を受ける本人にとっても、実は介助によって恐怖感が減るとも限りません。なぜなら一人で立ち上がることと、立ち上がり介助の大きな違いがあるからです。
立ち上がるという動作は、自分の足の裏をよりどころに地面を踏みつけて、その反撥を利用して伸び上がることで達成されます。しかし、立ち上がりの介助、特に過介助してしまうことは、本人の体を抱え上がるような形になりやすく、むしろ地面から足裏を引き剥がして、本人の動作のよりどころを奪ってしまいかねません。
一人で立ち上がった場合も、介助された場合でも、立つという最終的な姿勢に到達することに違いありません。しかし、よりどころを失ったまま立つという姿勢に辿り着いたとしても、その先の歩行やトイレなど、次なる動作への扉は開かれないのです。
逆に、少しでも本人が地面を踏みつけるという、何十年とやってきた過程を介護者が意識して介助することさえできれば、本人にとって何より安心で最大限自分の能力を発揮した立ち上がり動作となる可能性が広がるわけです。
一人で立てなくたって構いません、まず自分で踏ん張ってから開始された立ち上がり動作は、例えその後の介助量が多かったとしても確実に(介助)歩行へと扉が開いているはずです。